「坂口杏里の障害は、当時でも放っといていいレベルじゃないと思うんだよな」

10月25日の夜にそんな投稿が大きく広がり、続けて「小学校から特別支援学級を勧められてたのに、親が突っぱねた」とも書かれていました。

読んで、胸がざわっとした人も多いと思います。

住まいも定まらないまま配信を続ける、今の坂口杏里さんの様子を知っていれば、なおさらですよね。

 

ただ、この学生時代の「親が断った」という噂、出どころをたどっていくと、本人の発言にも報道にも見つからないんです。

むしろ気になるのは、30年近く前の母の判断より、35歳の彼女のそばに今だれがいるのか、ということ。

確かめられたのは、彼女の生活を安定させるよう促す人が「まだ現れていない」と報じられていることでした。


「放っておけない」の声

坂口杏里さんは、2013年に亡くなった女優・坂口良子さんの長女で、いま35歳。

かつてはバラエティ番組でよく見かける顔でした。

2026年3月、東京・八王子市のコンビニでサンドイッチを万引きした疑いで逮捕され、4月に不起訴になったと報じられています。

その後は住まいが定まらないまま、ライブ配信で日常を見せる暮らしが続いているそうです。

 

配信の中の10月

NEWSポストセブンの10月21日の記事によると、10月7日には、それまで面識のなかった52歳の女性ダンサーが「自宅で保護しよう」と考え、共通の知人を通じて会いに行き、生活費を手渡しています。

けれどこれからの話はかみ合わず、その日のうちに決裂したとのこと。

2日後の10月9日、本人はXに「もうたらい回しに回しにされて本当になにを信じたらいいのかわからない」と書きました。

翌10日には、コラボ配信の最中に店員から声をかけられる場面が映り、そのあと「よってたかって人をばかにしすぎ」「生き地獄なんだけど」と投稿しています。

配信の外でも、彼女を案じる声が上がりました。

10月20日には本人がXで、しばらく配信を休むと書いています。

 

「障害」は誰が言ったのか

投稿は「障害」と書いていますが、本人や家族が診断を明かした報道は、調べた範囲では見つかりませんでした。

病院で検査を受けたという話もXには出ていますが、どれも配信を見ていた人の書き込みで、結果が公表されたわけではありません。

障害があるかどうかは、外からは誰にも分からないことです。


「親が断った」の出どころ

では、「小学校で特別支援学級を勧められ、親が断った」という話は、どこから来たのでしょうか。

本人のインタビュー、坂口良子さんの生前の発言、テレビ番組での告白、新聞や週刊誌の記事。

そのどこにも、この話は出てきません。

見つかったのは、匿名の掲示板や質問サイトに「ネットでそう言われている」という形で書かれたものだけです。

 

本人も母も語っていない

「親が断った」というのは良子さんの判断の話なのに、良子さん自身の言葉は、どこにも残っていない。

良子さんは2013年3月27日に57歳で亡くなっていて、もう否定することも、説明することもできません。

確かめようのない話が、亡くなった母の「選択」として回り続けています。

 

当時は「特殊学級」だった

引っかかるところが、もうひとつ。

坂口杏里さんは1991年3月3日生まれで、小学校に入ったのは1997年の春。

「特別支援学級」という呼び名が使われ始めたのは、学校教育法の改正が施行された2007年4月からで、それまでは「特殊学級」と呼ばれていました。

その呼び名を覚えている人もいると思います。

もし本当に勧められていたのだとしても、そのとき母が聞いたのは、今の「支援学級」ではなく、この呼び名だったことになります。

 

元の投稿への返信にも「支援級への偏見が強かった当時なら、とくに受け入れ難いことだったでしょう」「愛すればこそ障害を受け入れられない親を責めるのは酷なのかもしれません」という声がありました。

話が今の言葉で語り直されるうちに、当時その言葉が背負っていた重さだけが抜け落ちていく。

そこがいちばん、もどかしいところです。


勧められたら選べること

「親が突っぱねた」という一言に、わが子の就学相談を思い出した人や、これから迎える人もいると思います。

そう聞くと、断ること自体が悪いことのように聞こえてしまう。

けれど今の仕組みでは、少し事情が違います。

 

今は「断る」も選べる

2013年9月に学校教育法施行令が改正され、就学先は、障害の状態や必要な支援、本人と保護者の意見などを踏まえて、教育委員会が総合的に決める形になりました。

文部科学省の通知では、保護者の意見を聞き、できるだけ合意を目指すことになっています。

勧められて、迷って、通常の学級を選ぶ家庭があるのも、この仕組みの中の選択のひとつです。

一方で、支援学級は「手厚いから」入る場所ではない、という声もあります。

支援学級や、通常の学級に籍を置いたまま一部の時間だけ別に学ぶ「通級」は、その子に合った「特別の教育課程」を組むための場所です。

勧める側にも、選ぶ側にも、それぞれの理由があります。

 

迷ったときに聞きたいこと

もし学校や教育委員会から勧められて迷ったら、次のことを聞いてみると、考える材料が増えるはずです。

  • 支援学級の授業を見学させてもらえるか
  • 就学相談で、家庭の考えを伝える場があるか
  • 入学したあとに、学級を変えることはできるか
  • 「通級」という形は使えるか

文部科学省も、就学したあとの転学や通級の使い方まで保護者に伝えることを大事にしています。

大切なのは入口で何を選んだかより、そのあとも誰かが様子を見続けているかどうかです。


大人になってからの扉

NEWSポストセブンの10月21日の記事には、坂口杏里さんの周りに彼女を心配する人がいる、とも書かれています。

ただ、心配してくれる人がいても、毎日の暮らしをそばで支える人がいるとは限りません。

そこをいちばんはっきり口にしていたのが、2022年に結婚し、約1年で離婚した元夫の福島進一さんでした。

 

元夫が口にした「保護」

3月の逮捕のあと、NEWSポストセブンの取材に応じた福島さんは、「離婚した僕が言うのもなんですが、彼女には幸せになってほしい」と前置きしたうえで、こう話しています。

「自分自身の特性と向き合い、まずは誰かに保護されながらでも日常生活を送ることだと思います」

記事によると、福島さんは彼女に社会福祉の支援が必要なのではないか、とも話していたそうです。

それから7か月がたった10月21日の記事は、彼女の生活を安定させるよう促す人は「まだ現れていない」と書いていました。

 

18歳を過ぎても使える窓口

障害があるかどうか分からないままでも、大人になってから相談できる窓口があります。

  • 市区町村の障害福祉の窓口(相談支援事業所も紹介してもらえる)
  • 知的障害者更生相談所(18歳以上の療育手帳の判定)
  • 住まいやお金の困りごとを相談できる、自立相談支援機関
  • 逮捕のあと、高齢や障害で暮らしに支えが要る人を福祉へつなぐ地域生活定着支援センター

最後のセンターは、2021年度から、刑務所を出る人だけでなく、捜査や裁判の段階にいる人の支援も始めています。

ただ、どの窓口も、本人が「行ってみよう」と思えなければ動き出しにくいところです。

だから、隣で一緒に窓口まで歩く人が要るんです。

気持ちが追い詰められたときは、本人でも、そばで支える人でも、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556/厚生労働省)で話を聞いてもらえます。

 

「放っといていいレベルじゃない」という気持ちは、私も同じです。

その言葉を向ける先は、もう何も言い返せない母ではなく、今の彼女のそばなのかもしれませんね。