2026年9月17日、板野友美の代理人をつとめた弁護士について、東京弁護士会が出した「調査開始通知」という書面がXで公開されました。

日付は9月16日、差出人は東京弁護士会の会長で、被調査人の欄に入っていたのは野嵜努(のざき・つとむ)の名前です。

9月8日に出された懲戒請求が受理されて、調査の段階へ入っています。

そもそもの始まりは、ザ・リッツ・カールトン日光の脱衣所で撮られた家族旅行の動画でした。

板野友美は「特別に許可をいただいた」と説明し、ホテルは9月7日の取材に、脱衣所については「撮影許可は下ろしていません」と答えています。

騒ぎのさなかに「なんだか話が合わないな」と感じながら、口に出せば叩かれそうで言葉を選んでいた人は、たぶんかなりの数いたはずです。

その引っかかりが正しかったことは、この回答ではっきりしました。

そして一番燃えたのは板野友美ではなく、批判した人たちへ「24時間以内に削除しろ」とDMを送った代理人の弁護士のほうです。

9月7日には野嵜努の卒業年と司法試験の年を並べた年表まで回り始めて、そこに「悲惨な経歴だ」という言葉が乗ります。

その並びを読んでいて、私は少し手が止まりました。

やったことは、まちがいなく間違っています。

ただ、間違いを正すことと、経歴を数えて笑うことは、たぶん別の話です。

何をやらかして、どこから話がねじれて、いま何が動きはじめたのか。

順番に並べたうえで、その線がどこにあるのかを書いていきます。


板野友美から代理人へ移った矛先

ことの始まりは2026年9月3日で、板野友美がYouTubeに公開した家族旅行の動画に、大浴場の脱衣所で娘さんの髪を乾かす場面が入っていました。

他のお客さんも使う場所です。

「さすがにここで回すのは」という声が上がりました。

 

板野はXで、誤解を招く表現だったと謝ったうえで、ホテルから特別に許可をもらっていた、撮影にも協力してもらったと説明しています。

ここで終わっていれば、よくある行き違いの話でしたが、終わらなかったのは次に起きたことのせいです。

板野の代理人を名乗る弁護士が、批判を書いた人たちのところへ次々とDMを送っていました。

名誉毀損。偽計業務妨害。24時間以内に削除しなければ法的手続きへ移る。

ここで空気が変わります。

それまでは「脱衣所で撮るのはどうなのか」という話でした。

DMが配られた時点で、話は「感想を書いたら訴えられるのか」に変わってしまったのです。

撮影の是非に興味がなかった人まで反応したのは、自分も明日、同じDMを受け取る側かもしれないと感じたからだと思います。

書かれていた削除の期限は18時11分

DMを受け取った人のうち、何人かが中身をそのまま公開しました。

そのひとりが、期限の時刻まで書いています。

18時11分。

分単位で切ってあるので、DMを開いた時刻から24時間を数えて、そのまま書き写したのだと思います。

この方は削除せず、逆に質問を2つ返したうえで、期限を半日過ぎても返事が来ないことまで続けて公開しました。

 

ここで引っかかった人は多かったと思います。

弁護士が本気で削除させたいとき、ふつうはXのDMを使いません。

相手の住所が分からなくても、Xの運営へ発信者情報の開示を求める手続きがあります。

送った日付と中身が郵便局に残る、内容証明という方法も。

DMは、開いたかどうかも、届いたかどうかも、あとから証明しにくい入れ物です。

そこに24時間という期限だけを入れて送れば、受け取った側にはどう見えるか。

手続きの一歩目というより、その場で怖がらせるための一通に見えてしまいます。

 

DMはホテルを守る書き方になっていた

受け取った人たちが公開した文面には、削除を求める理由として「脱衣所を含む指定エリアでの正式な撮影許可」を得ていた、という趣旨の一文が入っていました。

そのうえで、投稿は板野だけでなくホテル側の信用まで不当に貶めるもので、両者の業務を妨害する不法行為にあたる、と書かれています。

ホテル側を守る言い方になっているのに、そのホテル自身が9月7日、脱衣所だけは許可を出していないと答えてしまいました。

ホテルは翌8日の追加回答でも、撮影に協力したことは事実だと認めたうえで、脱衣所を含む控えるべき範囲を細かく伝えられていなかったと説明しています。

今後はいかなる事情があっても脱衣所での撮影が行われないよう運用を徹底する、とまで書きました。

守ろうとした相手から、前提そのものを取り下げられた形です。

DMを送った時点では、弁護士は「脱衣所を含めて許可が下りている」と本気で信じていたのだろうと思います。

ただ、その情報を誰から受け取ったのかまでは外からは見えず、ここが今回のいちばん苦いところです。

 

「この服は葬式には無理」にも通告が届いた

削除要請が飛んだ先は、脱衣所の話だけではありませんでした。

服の感想です。

足元にフワフワの飾りが付いた黒い服を「冠婚葬祭でも着られる」と紹介した投稿に対して、買った人が「さすがに葬式でこれは無理だよ」と書いた、それだけの話でした。

商品への感想は、通販サイトの星の数にも、口コミにも、毎日ふつうに並んでいるものです。

それが名誉毀損にあたるなら、レビュー欄は今日から全部たたまなければいけなくなりますよね。

ここまで来ると、一件ずつ中身を読んで判断した形跡が見えなくなります。

板野の名前が付いた否定的な投稿を集めて、同じ文面を配ったように見える。

実際、受け取った人たちが公開した文面は、名前の部分を除くとよく似ていました。

 

数を撃つほど当たりどころのない相手にも当たってしまい、このやり方は法律を仕事にしている人たちの目にも留まっていたようです。


同業の人から出てきた「懲戒請求」

反応したのは、叩かれていた側だけではありませんでした。

懲戒請求は、弁護士会が調査して、場合によっては業務停止や登録の取り消しまで進む手続きです。

 

別の弁護士は、警告書に「法的措置を検討します」と書くこと自体のリスクを指摘していました。

送られた側から、そんな義務は無いと裁判所に確認してもらう訴えを起こされることも。

そうなると、今度は警告を出した側が、期限を切られて立証しなければならなくなる。

脅す道具のつもりで置いた一行が、そのまま自分の首を絞める形になります。

相手を選ばずに撃つと、こういう相手にも届いてしまう。

9月6日に空になった野嵜努弁護士のX

そこへ2026年9月6日、これを見ていた人が気づきます。

全部です。

削除を求めていた本人が、自分の投稿をひとつ残らず消しました。

ここを笑う声が多かったのは正直わかりますし、24時間以内に消せと迫った人が、自分から先に消えたわけですから。

ただ、消した理由は本人しか知りません。

依頼者から止められたのかもしれないし、事務所から言われたのかも。

 

分かるのは、長く使われてきたアカウントが、たった2日で空になったということだけです。


東京弁護士会が野嵜努弁護士の調査を始めた

騒動そのものは、9月10日を過ぎたあたりから静かになっていました。

「板野騒動ってどうなったんだろう」と書き込む人が出てくるくらいには、タイムラインから話題が流れていたと思います。

そこへ9月17日、削除要請のDMを受け取っていた人のひとりが、東京弁護士会から届いた書面の写真を公開しました。

 

表題は「調査開始通知」で、日付は2026年9月16日、差出人は東京弁護士会の会長です。

被調査人の欄には野嵜努の名前があり、懲戒請求日は9月8日、調査命令日は9月9日と印字されていました。

事案番号まで振られています。

 

本文に書かれているのは、懲戒委員会に審査を求めるのが相当かどうかを、綱紀委員会に調査させることにしたという一文でした。

根拠として挙げられているのは、弁護士法第64条の7と綱紀委員会会規の第14条です。

つまり、この懲戒請求は受理されて、中身を調べる手続きへ進みました。

請求を出した人は、ほかにもいるようです。

9月9日にも別の人が、脅しとも取れる削除要請を送られたことを理由に懲戒請求を出したと書いています。

DMを受け取った時点では、それぞれが自分ひとりで抱えるしかない話だったはずです。

それが持ち寄られて、事案番号の付いた書類に変わっています。

 

調査開始は処分が決まったという意味ではない

日弁連が公表している2024年の1年間の懲戒請求は3,243件で、そのうち綱紀委員会が「懲戒委員会で審査するのが相当」と判断したのはわずか102件でした。

その3,243件のうち、実際に懲戒処分まで進んだのは、2025年6月1日の時点で22件にとどまっています。

懲戒請求そのものは、当事者でなくても誰でも出せる仕組みです。

だから件数はいくらでも積み上がりますし、積み上がったところで大半は審査不相当のまま終わります。

弁護士の懲戒を長く追いかけている会も、9月8日の時点で釘を刺していました。

違法行為なら処分になるけれど、違法とまではいえないものは処分にならないと思う、と。

結論が出るのは、どう転んでもずっと先です。

戒告で終わるのか、業務停止まで行くのか、それとも何も起きないのか。

いまの時点で言えるのは、一連のDMが弁護士会の書類の上で数えられ始めたところまでです。

野嵜努弁護士のプロフィールと経歴

野嵜努(のざき・つとむ)という人の経歴は、事務所の公式ページにも出ています。

野嵜努弁護士(弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所の公式プロフィールより引用)
引用元:弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所 公式サイト「野嵜 努」(https://www.t-leo.com/lawyer/tsutomu-nozaki/)

年表が先に走ってしまいましたが、出どころがはっきりしているのはこちら。

  • 所属=東京弁護士会
  • 事務所=弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所(東京都港区)のアソシエイト弁護士
  • 出身=千葉県
  • 学歴=明治大学法学部法律学科卒業、中央大学大学院法務研究科修了
  • 取扱=相続、不動産、労働問題、刑事事件など
  • その他=予備試験合格、元厚生労働事務官、社会保険労務士(登録済)
  • 趣味=スカイダイビング、ボルダリング、野球観戦、将棋

経歴の欄に並んでいるのは、この4行だけです。

  • 2015年4月 厚生労働省 千葉労働局 入職
  • 2017年4月 厚生労働省 東京労働局 出向
  • 2019年4月 厚生労働省 神奈川労働局 出向
  • 2019年11月 厚生労働省 退職

刑事事件は通算150件以上を扱っていて、一部で無罪判決を得た実績もある、と書かれています。

労働事件は、労働局にいたころを活かして労使どちらの側でも。

 

「空白の3年」は公式には空白ではない

Xで回っている表では、法科大学院を出たあとの数年が空白になっていて、「28歳まで無職」という言葉も、その空白に乗っています。

ところが事務所のページには、2015年4月から2019年11月まで厚生労働省の労働局にいたと書いてあるのです。

そのうえで、予備試験合格、元厚生労働事務官、社会保険労務士。

働きながら予備試験を通って、そこから司法試験へ進んだ人の並びに見えます。

もちろん、卒業年も修了年も公式には書かれていないので、空白と呼ばれている年がどこを指すのかまでは、私にも確かめられませんでした。

それでも、無職と言われている期間の少なくとも一部は、公の記録があるほうへ埋まります。

年表を最後まで信じる前に、事務所のページを1枚開けば済む話でした。


経歴を数える側には回りたくない

Xが消えたあと、今度はFacebookが非公開になったと報告されました。

そのすぐあとに回り始めたのが、本人が公表したものではない、さっきの年表です。

Xで誰かがまとめたもので、登録番号や修了年までは、私も一次資料で確かめられていません。

 

そこへ「三振の可能性大」「本来のポテンシャル以上に頑張りすぎた」といった言葉が添えられて、拡散していきました。

三振というのは、司法試験に受からないまま受験の資格を失うことを指します。

司法試験は、受かる人のほうが少ない試験です。

遠回りして、働きながら予備試験を通って、そこから受かった。

その並びは、笑うところでしょうか。

私には、そうは読めませんでした。

 

やり方を責めるのに空白の3年は要らない

感想を書いただけの人に、24時間以内に消せと迫ったこと。

服のレビューにまで、法的措置をちらつかせたこと。

この2つはどう考えても行きすぎで、批判されるのも、弁護士会が調べる話になったのも、仕方がないと思います。

 

ただ、やったことを責めるのに、その人の空白期間は要りません。

DMの文面が無茶だったことと、20代のどこかにあったとされる空白は、何の関係もないからです。

 

そしてもうひとつ、忘れられかけていることがあります。

この弁護士が動いた土台は「脱衣所を含めて許可が下りている」という前提で、それを渡したのは弁護士自身ではありません。

 

年表を広めた投稿の返信欄で、いちばん多く見かけたのはこの2つでした。

「擁護する気は全くないが、経歴を侮辱される謂れはない」。

「そんなに悲惨な経歴か。司法試験にはちゃんと受かっているのに」。

 

やったことは間違いだと言い切ったうえで、それでも年表の使い方だけは違う、と分けている言い方です。

この分け方が、いちばん健全だと思いました。

 

依頼者は9月12日にインスタグラムを更新し、イベントの場では「お騒がせしております」と挨拶して、もう日常に戻っています。

そして名前と経歴だけが検索され続けているのは、依頼者ではなく代理人のほうです。

 

この件に引っかかっていた人は、ひとつも間違っていませんでした。

9月7日と8日にホテルが出した回答が、それを裏づけています。

 

行いのほうは、もう弁護士会の手に渡りました。

だからこそ、勝った側から先に降りられるのだと思います。

行いは思い切り批判して、経歴の年表のほうは、そっと閉じておく。

正しかった人にしかできない終わらせ方が、たぶんそれです。