きっかけは、AKB48が2010年に出した「ヘビーローテーション」のPVについて、10月25日の朝に流れてきた投稿です。

翌26日の朝、この投稿に、元AKB48の柏木由紀さんの話を引いた返信がつきました。

「全員、撮影現場に到着するまで下着で撮られるという事を聞いていなかった」。

同じ返信には「下着を断固拒絶してる子も居た」「中学生1人が出演している」とも書かれ、最後は「説得して良いものが出来た」という美談にされていた、と結ばれていました。

この返信は、いまは削除されています。

 

最初の投稿の返信欄では、「当日まで下着姿を教えないとか悪質性が高い」と怒る人もいれば、「言うほど下着か?」と首をかしげる人もいました。

柏木さんが、下着で撮ると知らないまま現場に着いたと話したのは事実です。

ただ、柏木さんのこの話は2021年にスポーツ紙の記事になっていて、その記事と比べると、返信には記事に無い言葉も混ざっていました。

中学生が出ていたのも事実ですが、その子は下着の場面からは外されています。

さらに26日の昼前には、PVに「白うさぎ」や「666」といった不吉な印が隠れている、と書く投稿も出てきました。

16年前のPVが、噂までいっしょに掘り返されているわけです。

どこまでが記録に残っている話で、どこからが噂なのか、元の記事とPVの中身で順に見ていきます。


柏木由紀がラジオで話したこと

柏木さんがこの話をしたのは、2021年2月10日放送のMBSラジオ「アッパレやってまーす!」でのこと。

番組に出ていた芸人のケンドーコバヤシさんが、好きなPVとしてヘビロテの名前を挙げたところから、撮影の話になったそうです。

そのやりとりは、翌日のスポーツ紙のニュースサイト「スポニチアネックス」に載っています。

 

「え、下着?」から始まった撮影

柏木さんの言葉は「知らなかったんで…下着で撮影って」。

撮影場所に行ってから内容を聞かされ、「え、下着?」と戸惑ったと話しています。

当時はグループがとにかく忙しく、ギリギリで現場に入ったとのこと。

いきなりの下着姿に気後れするメンバーは大勢いたそうで、そこで監督の蜷川実花さんが「下着でも絶対かわいく撮る」と声をかけました。

柏木さんは「メンバーもメチャクチャのってきて」と、夜遅くまで続いた撮影をふり返っています。

 

楽しい思い出として語られていた

このくだりを聞いたケンドーコバヤシさんは「ああ、まさに監督の仕事してくれたんや」と蜷川さんを褒めました。

2021年のラジオでは、この話は苦労話というより、監督の一言で現場が明るくなった思い出として、笑いまじりに語られていたんです。

返信が「美談」と書いたのは、たぶんこの流れのことでしょう。

あのPVを、いまも楽しく見返しているファンもいます。

元の記事に見当たらない言葉

返信に出てくる言葉が、スポニチの記事ではどう書かれているかというと、次のとおりです。

  • 下着と知らなかった…柏木さん本人の言葉として載っている
  • 「全員」…記者が( )に入れて補った言葉で、柏木さん本人の言葉ではない
  • 「下着を断固拒絶してる子も居た」…記事にあるのは「気後れするメンバーが大勢いた」まで
  • 「説得して良いものが出来た」…記事にあるのは、監督の一言で気持ちが上がった話

「断固拒絶」と「気後れ」では、ずいぶん意味が違います。

拒んだ人がいたのかどうかは、記事には書かれていません。


13歳の松井珠理奈は外された

返信には「このPVには高校生5人、中学生1人が出演している」という一文もありました。

PVに出た選抜メンバー21人のうち、当時中学生だったのは、SKE48から選ばれていた松井珠理奈さんです。

その松井さん本人が、発売からちょうど11年の日に、こう書いています。

「ダメ」という決まりはあった

13歳だった松井さんは、下着の場面には出ていません。

入浴の場面には出ているので、PVから外されたのではなく、下着の場面だけが「ダメ」になったということです。

誰が決めたのかまでは書かれていないものの、年齢を理由に線を引く判断は、あの現場にもあったんですね。

返信の「中学生1人が出演している」は合っていますが、その中学生は下着の場面からは外れていました。

高校生の年齢のメンバーが下着の場面にいたかどうかを、一人ずつ確かめられる公式の記録は見当たりません。

 

もう一つの決まりは無かった

一方で、何を着るのかを前もって伝えることは、少なくとも柏木さんにはされていなかったようです。

13歳を下着の場面から外す判断はあったのに、柏木さんは何を着るのかを当日まで知らされていなかった。

読んでいて引っかかるのは、ここではないでしょうか。


ヘビロテPVの隠しサインは本当?

同じ26日の昼前には、撮影の裏話とはまったく別の角度から、このPVを疑う投稿も出ていました。

最初の「変かな」という投稿を引用して、「初めてフルバージョンを観たけど、やっぱりねって感じ」と書いたものです。

挙げていたのは、白うさぎ、ガーターベルト、衣装とハンドサインの「666」、歌詞、そして「あの島が思い浮かぶわ」の一言。

最後は「〇〇〇48だし」「秋元◯だし」と、AKB48と秋元康さんを指す伏せ字で結ばれていました。

PVの中に、よくないものの印がいくつも隠れている、という見方です。

 

白うさぎは見当たらない

公式のフルバージョンを見直すと、下着の場面の衣装にはガーターベルトが使われていて、エンドロールの手前には、鍵穴の形の枠ごしに撮ったカットもあります。

2019年1月にもツイッター(いまのX)で、のぞき部屋から見ているような内容だと書いた投稿がありました。

ここまでは、画面にあるものの話です。

ところが、白いうさぎはどこにも出てきません。

近いものといえば、お茶会の場面でメンバーが頭に付けている、猫のようなとがった耳の飾りくらいです。

 

衣装にも振り付けにも無い「666」

666は聖書の中で「獣の数字」とされている数で、悪魔の印の意味で持ち出されることがあります。

ただ、踊る場面の黒い上着とスカートにも、下着やお茶会の場面の衣装にも、666と読める数字は書かれていません。

ハンドサインも、どの振り付けのことかが投稿に書かれておらず、踊りの場面にそれらしい手の形は見当たりませんでした。

歌詞にも、666や島、うさぎにつながる言葉は出てきません。

白うさぎも「666」も、PVの中からは見つからないのが答えです。

 

伏せ字で終わる「あの島」

「あの島」は、どの島のことか書かれていません。

名前を出さないまま、子どもが大人に食い物にされる事件を思わせる書き方になっています。

しかし、AKB48や秋元康さんがそうした事件に関わったという報道は出ていません。

一方で、同じ26日には、もっと素直な疑問を書いた人もいました。

この「なんで」には、監督の蜷川実花さん自身が答えを書いています。

再生回数が1億回を超えた2014年2月、蜷川さんは自分のブログで「男子不在の女子校のような女の子の世界を描きたいなあと思って作ったんですが」とふり返っていました(RBB TODAY、2014年2月24日)。

下着姿の場面も、作り手にとっては男の子の目がない、女の子だけの場所のつもりだった、ということになります。


「可愛い」も「おかしい」も本当

とはいえ、作り手の思いとは別に、このPVに疑問を向ける声は前からありました。

2012年には、アメリカのCNNがこのPVの表現を取り上げてプロデューサーの秋元康さんに問いかけ、秋元さんは「それはアートですから」「それをどう感じるかは個々の判断」と答えています(J-CASTニュース、2012年1月16日)。

2019年9月には、こんな投稿もありました。

画面をいくら見ても映らないもの

最初の投稿の返信欄にも、「隠してる面積は水着と全く同じ」という声も、「中学生がいたとは…」と驚く声も上がっています。

どちらも、PVの画面に何が映っているかについての声です。

でも、柏木さんが話したのは、撮影の前に何を知らされていたかという、画面の外のことでした。

それは、PVを何度見返しても分かりません。

だから、最初の投稿の「ただただ可愛いとしか思わなかった」も、おかしな感想ではないんです。

 

大島優子は自分で頼んでいた

PVでセンターだった大島優子さんは、2014年3月、卒業前のファンイベントで当時の衣装を前に、撮影のときのことをふり返っています。

布の少ない下着の衣装を見て、大島さん自身が「大丈夫ですか?」と聞き、生地を足してもらったそうです(東スポWEB、2014年3月23日)。

大島さんは、その場で自分から言い出せたわけです。

ただ、最初の投稿の返信欄には「中学生なんて嫌だと思っても上の人に嫌だと言い張れないでしょ」という声もありました。

中学生に限らず、高校生くらいの年齢や、グループの中での立場によっては、言い出せなかった人がいてもおかしくありません。


撮影の「いい話」を読むとき

ヘビロテの撮影から16年。

いまの映画やドラマの現場では、肌を見せる場面や体が触れ合う場面に「インティマシー・コーディネーター」という担当がつくことが増えました。

日本でこの仕事をしている浅田智穂さんは、撮影の前に俳優一人ひとりと面談して同意を聞き、「同意をいただけたことのみが撮影時にできる」と話しています(J-CASTニュース、2024年7月28日)。

ヘビロテでいえば、柏木さんたちが当日に知った「下着で撮る」ことを、前もって本人に聞いておく役目です。

この仕事は、肌を見せる場面のためだけのものではない、という声もあります。

演じる人が嫌だと思うことを、撮る前に言える場をつくる仕事なのでしょう。

 

思い出話を聞いたときの3つ

これからも、テレビやラジオで「最初は戸惑ったけど、やってよかった」という撮影の思い出話を聞くことがあると思います。

そんなとき、私はこの3つが気になるようになりました。

  1. 内容を知ったのは、前もってか、当日か
  2. その場で「嫌です」と言える立場だったか
  3. 何が決まっていて、何が決まっていなかったか

ヘビロテの場合、柏木さんが内容を知ったのは当日で、大島さんのように言い出せた人もいて、決まっていたのは13歳を下着の場面に出さないところまで。

 

柏木さんはラジオで、この撮影を楽しい思い出として話していました。

下着だと知らないまま現場に着いたことも、同じ日に、同じ笑い声の中で話されたことです。

あのPVを可愛いと思った気持ちはそのままに、柏木さんの「え、下着?」も一緒に覚えておきたいですね。