安く仕入れて高く売る。

開始5ヶ月で月100万円、いまは週3日で月50万円。

発売日の朝に棚を空にしていく人たちは、こういう売り文句とセットで稼ぎ方そのものを惜しげもなく公開して、初心者向けの講座まで開いています。

本当に儲かる方法なら、「自分だけの秘密にしておけばいいのに」と言いたくなりますよね。

なぜわざわざ、自分の大切なパイを奪い合う競争相手になる人を増やすのか

並んでいる高値は誰も払っていない

メルカリでもヤフオクでも出品する値段は出した本人が好きに決められるので、極端な話、実家の押し入れにある湯呑みに100万円の値札を付けて並べることだってできます。

ですからスマホで同じ品物を検索したときにずらりと並ぶ高い金額は、まだ誰も一円も払っていない金額なのです。

「本当にこの値段で売れているの?」と実際に取引が成立した金額を知りたいなら、メルカリは絞り込みで「売り切れ」を選び、ヤフオクなら落札相場を開きます。

ここを切り替えた瞬間に、目を疑うほど安い金額が出てくることも珍しくありません。

 

「見込み利益」はまだ通帳に入っていない

せどりの世界でよく出てくるのが、見込み利益という言い方です。

ブックオフなどで買った仕入れ値と、そのとき画面に出品されている最安値あたりを見比べて、差額をそのまま利益として大きく表示する。

帳簿の上の数字としては計算が合っていますし、嘘をついているわけでもありませんが、実際に買い手がついて売れないかぎり、その差額は1年たっても見込みのままなんですよね。

マニア向けの趣味の品だと、値段が高く付いていても、次に欲しい人が現れるのは半年先かもしれません。

お店の棚の奥に何年も残っていたのは、そもそも欲しい人がほとんどいなかったから

1万円で売れても手元には5000円

フリマアプリには販売手数料があって、メルカリなら売れた金額の1割が基本で、そこへさらに宅急便の送料が重く乗ってきます。

封筒に入る小さくて軽い物なら数百円で済みますが、箱が大きい物や重い物は1000円を超えますから、送料だけで利益がそっくり飛んでしまう。

仮に1万円で売れた品物で細かく数えてみると、手数料が1000円、送料が850円、仕入れが3000円。

手元に残るのはおおよそ5000円で、売れた金額の半分が消えている計算になります。

 

いちばん重いのは値段を調べている時間

雨の日も店を回って棚を端から見て、気になった品物を調べて、持ち帰って、写真を撮って、説明文を書いて、売れたら梱包して、夜中にコンビニまで運ぶ。

夜の机で段ボール箱に気泡緩衝材を詰めて荷造りをしている手元と、そばに置かれたガムテープとはさみ

この一連の作業に一点あたり何十分という単位で貴重な時間が消えていきますし、売れるまでのあいだは仕入れに使ったお金も在庫という形で狭い家の中にダンボールで眠り続けます。

たった1点で5000円を残すために、まとまった時間がひとつ持っていかれるようなものですね。

ひと月に50万円の利益を残そうと思ったら、この重労働を100回。

教える側に回るとこの面倒が全部消える

品物を仕入れて売るかぎり、自分のお金から仕入れ代が要って、送料が飛んで、部屋に在庫が眠って、売れるかどうかは最後まで相手次第。

ところが売るものを物から「やり方」に変えた瞬間、そのすべてが消えるのです

 

ノウハウは在庫が減らない

  • 仕入れ値が一円もかからない(元手は自分の過去の経験)
  • 在庫が減らないので何人にでも売れる
  • 送料も梱包もいらない
  • 値崩れも劣化も起きない

そのうえ買い手は、「今の収入じゃ不安だ」と自分が稼げていないと感じているあいだ、ずっと現れ続けます

売り方もいくつもあるのです。

月額のオンラインサロン、一対一のコンサル、仕入れ先をまとめたリストの販売、商品の相場を自動で調べるツールの月額課金。

ノートパソコンに向かってヘッドセットで話しかけている人の後ろ姿と、机のマグカップとメモ帳

同じひとつの経験を何通りにも切り分けて、それぞれに高額な値段を付けられますし、店舗を構える必要がないので家賃も在庫置き場もいりません。

 

稼げなくても原因は教わった側に返せる

品物を売れば、届いた物が説明と違ったときにはクレームで返品されます。

ところがやり方を売った場合、教わった人が稼げなくても、「あなたの行動量が足りなかった」「リサーチや仕入れが甘かった」と原因のほうを教わった側へ丸ごと返せてしまうんですよね。

結果が出れば教えた人の実績になり、出なければ教わった人の努力不足になる。

そして稼げなかった大多数の人はたいてい黙ってフェードアウトしていくので、残るのは「この人に教わって成功しました」という声だけになり、外から見たかぎりでは成功率の高い商売に見えてしまうわけです。

もちろん、長年かけて積み上げた知識をきちんと届けている人もいると思います。

ただ全国の消費生活センターへ届いた情報商材の相談は、わざわざ声を上げた人の分だけで、2025年度に2623件ありました。

買う人へ向けた売り文句は、怪しいものほど似た形をしています。

「元手が要らない」「絶対に失敗しない」「誰でも必ず儲かる」。

この三つがそろっている商売は、たいてい売っている側だけが儲かります

転売ヤーが向かうのは新品の売り場

転売ヤーが狙うのは、いつだって新品の売り場です。

せどりという言葉はもともと古本屋の業界から出てきたもので、漢字では背取りと書きます。

薄暗い店内の棚にぎっしり並んだ背表紙を端から見ていって、価値のわかる人だけが気づける一冊を抜き取る。

商売の出発点は、誰かが一度手放した不要な品物の山です。

郊外のリサイクルショップの片隅や、古本屋の100円コーナーや、閉店セールの棚。

ところが転売ヤーと呼ばれる人たちが向かうのは、新品の売り場やチケットの発売ページ。

早朝からそこに並んでいるのは定価で買いたかった人たちなので、誰かがまとめて押さえた分だけ、買えない人がそのまま出てしまいます。

 

売れ残りを拾う人と売り場から消す人

この二つを決定的に分けているのは、その人が動いたことで買えなくなった人がいるかどうかの一点です。

お店で誰にも選ばれずに何年も棚で埃をかぶっていた品物を掘り起こして、ネットでそれを本気で探していた人のところへ届けたなら、困った人はどこにもいません。

むしろ品物はゴミにならずに済んで、手放したお店も、探していた人も、間に立った人も、全員が前より少しだけ助かっている。

チケットが取れずにファンが涙をのむライブや舞台にいたっては、2019年から定価を超える転売そのものが法律で厳しく禁じられました。

法律の網がかかっていない品物でも、発売日の朝に棚を空にしてしまえば、ずっとその日を楽しみにしていた人の手元には何も残りません。

商品が売り切れて空になったお店の陳列棚の前に立つ人の後ろ姿と、等間隔に残った値札のプレート

買う前のカードを機械に通す

2026年9月、コンビニのレジ台で、まだ会計の済んでいないカードの袋を1枚ずつ小さな黒い機械に差し込んでいく動画が広まりました。

すぐ隣には、レジの店員さんが立っています。

重さで絞ってから、光で透かす

サーチと呼ばれる手口で、使う道具はふたつです。

ひとつはデジタルのはかり。

当たりのカードはキラキラした箔の加工があるぶんほんの少しだけ重いとされていて、0.01グラムまで量れるはかりに1袋ずつ載せて、重いものだけを選び出します。

もうひとつが、動画で手に持っている黒い箱のほうです。

中に強い光源が入っていて、そこへ袋を差し込むと光が中のカードを透かすので、箔の入ったカードだけが光を通さずに影になる。

その影の出かたで当たりを見分ける道具で、カードサーチ機という名前を付けて通販サイトで普通に売られています。

 

コンビニは3年以上前に控えてと言った

同じ光景は3年以上前にも問題になっていて、2023年3月にはローソンがJ-CASTニュースの取材に対し、「入っているカードのランダム性をお楽しみいただくトレーディングカードの性質上、計量についてはお控えいただきたいと考えています」と答えていました。

店の商品を買う前に勝手な扱いをすれば、偽計業務妨害や器物損壊に問われることもあります。

そのうえ近ごろのパックは、重さの差そのものが出にくくなっていて、もう通用しないという検証まで出てきました。

それでも教わったとおりの道具を握って、売り場に立っている人がいる。

効かなくなった手口がまだレジの前に残っているのは、これもまた、どこかで誰かが教えているからなのでしょう。

 

買ってから家でやるぶんには誰も困らない

棚からひとつ取って、レジに出して、開けてみるまで中身は分からない。

その当たり前をみんなが守っているからこそ、外れを引いた日もなんとか笑えるわけです。

機械を通した人だけが、そこから抜けています。

自分で買ったあとの袋を家でどう扱おうと、誰も文句は言いません。

引っかかるのは、それがまだ店の商品で、そのあとに買う人が決まっていないうちに中身を確かめてしまうところ。

棚の袋がそっくり消えるわけではないので買えなくなった人はいませんが、そのぶん損をするのは、あとから来て中身を抜かれた袋を買う人です。

後ろに並んでいる人には、何が起きたのか最後まで見えません。

禁止されているのはチケットだけ

ゲーム機も、カードも、限定のぬいぐるみも、買い占めて高く売ること自体を禁じた法律は無いのです。

2019年6月に施行されたチケット不正転売禁止法は名前のとおりチケットのためのもので、定価を超えて売れば1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方になります。

けれど対象はライブやスポーツの座席指定のチケットだけで、棚に並んでいる商品はここに入らないのです。

 

古物営業法は盗品を追うための法律

よく名前の挙がる古物営業法が見ているのは、盗まれた品物が市場へ流れないようにすることで、買い占める人を止めるようにはできていません。

店が貼り出す「おひとり様1点まで」にいたっては、その店が決めたお願いなので、破ったところで罰則はない。

だから目の前で棚を空にされても、店員さんにできるのは声をかけることまでなんですよね。

チケット以外で捕まるのは、売り場で商品を勝手に扱って店の商売を妨げたときや、偽物をつかませたときだけ。

買い占めた人が悪びれずに稼ぎ方まで売れるのは、そこに触れる法律がそもそも無いからでしょう。

叩かれているのは儲けたことではない

転売ヤーの儲けの話を聞いたときに湧いてくる、あのなんとも言えない胸の引っかかり。

あれは「あいつだけ楽して稼いでいるのがずるい」という単純な嫉妬とは、どうも少し違う気がするんです。

町の質屋の店主も、骨董の目利きも、中古車屋も、安く買い取って高く売って生きています。

その人たちが同じように叩かれないのは、誰かの手から買う機会を奪っていないからです。

 

マスクが消えた春をまだ覚えている

2020年の春に街の薬局からマスクが消えたことも、何度応募しても抽選に外れ続けたゲーム機のことも、定価の何倍にもなったチケットの転売画面のことも、悔しさとともに覚えている方は多いと思います。

棚の前で呆然としたときに置いていかれた感覚が、いまも体のどこかに残っている。

「また買い占められたのか」と、儲けの派手な数字を見るたびに身構えてしまうのは当たり前です。

 

腹が立つのは順番を飛ばされたこと

これは、損をした金額の話ではないのだと思います。

発売日の朝に子どもと約束して並んだ人がいて、仕事へ行く前に店へ寄った人がいて、その列の外側から手を伸ばした人がいちばん得をしている。

刺さっているのは、その順番です。

しかも、おひとり様1点の貼り紙も、フリマアプリが出している転売への注意も、通報の窓口も、ぜんぶ最初から用意されていました。

足りないものは何も無いのに、動いていない。

決まりを守った人は1つしか持てず、無視した人が何十個も画面に並べている。

きちんと1つだけ買った人が損をした、という感覚だけが残ってしまいます。

けれど棚の前に立っている人をひとりずつ責めたところで、この仕組みは次の発売日もそのまま残るのです。

棚を空にした人たちに「誰でも月50万」と言い続けて、いちばん確実に稼いでいるのは、売り場に立っていない側なんですよね。