あなたの個人情報が漏れたおそれがあります、という通知が会社から届く。

読み進めると、免許証の画像まで含まれていたと書いてある。

それなのに、心配なら作り直してください、手数料はご自身で、と言われたら、腹が立って当然です。

 

漏れた免許証の画像がどこへ流れていくのかを考えると、怒りと同じくらい怖さもわいてきます。

こんな目に遭わせた会社を、いっそ訴えてやりたい。

訴えたら実際にどうなるのか、そして漏らした会社にきちんと責任を取らせる方法はあるのか。

漏らした会社を向き合わせる手は、裁判のほかにもいくつか残っています。

情報漏洩の裁判で金額が上がる条件

裁判所の廊下で書類を抱えて立つ女性のイラスト

高い金額が認められた例としてよく知られているのが、エステサロンのTBCから顧客の情報が漏れた件で、2007年に東京地裁は1人3万5,000円の支払いを命じています。

体のサイズのような人に知られたくない情報まで漏れ、迷惑メールなどの二次被害も実際に出ていたことが、金額を押し上げました。

逆に、被害が形になっていないと、金額は低く抑えられてきました。

  • Yahoo!BB(ネット接続サービス・2007年の大阪高裁で確定) 1人5,500円
  • ベネッセ(通信教育・2018年の東京地裁) 1人3,300円
  • ベネッセ(通信教育・2019年の大阪高裁) 1人1,000円

大阪の1,000円は、一度は「損害とまでは言えない」と退けられた訴えを、最高裁がやり直させた末に認められた金額です。

その大阪高裁では、会社がお詫びに配った500円分の金券も、金額を決める事情の1つとして考慮されました。

QUOカードの会社が2021年に行った調査では、漏えいのお詫びとして「これなら許せる」と答えた額は5,000円ほど、実際に受け取った額は500円ほどでした。

許せる額の10分の1しか届いていないのですから、スッキリしないのも当然です。

慰謝料が数千円にとどまるわけ

これだけの騒ぎを起こしても1人あたり数千円で終わってしまうのには、日本の損害賠償の考え方が関わっています。

日本の裁判で払わせるお金は、受けた損を埋めるためのもので、アメリカの「懲罰的損害賠償(ちょうばつてきそんがいばいしょう)」のように、悪質な会社へ見せしめの金額を上乗せする仕組みがありません。

そのうえ、漏れた不安や気持ち悪さは「心の痛み」として扱われるので、目に見える被害が出ていないと、その痛みは数千円と低く見積もられてしまうんです。

 

金額を押し上げるのは被害の記録

免許証の画像は、名前・生年月日・住所・顔写真がひとまとめになった、悪用されやすい情報です。

もし身に覚えのない契約や借り入れ、しつこい不審な電話やメールが来たら、日付と中身をスクリーンショットやメモで残してください。

TBCの件で金額を押し上げた二次被害を、あとから示せるのは自分で残したその記録だけです。

1人で訴えるか集団訴訟に加わるか

同じ方向を向いて並ぶ人たちの列に加わる女性のイラスト

1人で起こせるのが、60万円以下のお金を求める少額訴訟。

原則1回の審理で判決まで進むので、弁護士に頼まなくても自分で手続きできます。

ただし言い分と証拠は最初の日にすべて出す必要があり、相手の会社が求めれば、裁判所へ何度か通うふつうの裁判に切り替わります。

 

もう1つが、弁護士が原告を募って起こす集団訴訟に加わる方法です。

書類や手続きは弁護士が進めてくれるので、自分1人で裁判を起こすより手間が少なく、会社の落ち度を大勢の名前で裁判の場に問うことができます。

参加にかかる費用や、勝ったときの取り分は、呼びかけている弁護士事務所によって違います。

申し込む前に、最初に払うお金と、負けたときに追加で払うお金があるかだけは確かめておきましょう。

1人数千円でも数が集まれば重い

1人あたり数千円と聞くと、訴えても意味がないように感じるかもしれません。

でも、会社の側から見ると話は別です。

仮に1人3,000円でも、10万人が訴えれば3億円です。

実際、2014年に約3,504万件の顧客情報が漏れたベネッセは、お詫びの補償の原資に200億円、調査や対策に60億円、合わせて260億円を特別損失として計上しました。

1人に配ったのは500円の金券でも、会社全体で見ればこれだけの重さになるわけです。

訴える人が増えれば、そこへさらに賠償と裁判の対応が上乗せされ、そのあいだ会社の名前はニュースに出続けることになります。

 

作り直しの手数料も一緒に求められる

漏えいがなければ払わずに済んだお金は、慰謝料とは別の損害として、一緒に請求できます。

免許証を作り直したときの手数料、仕事を休んだ日、往復の交通費などがそれに当たります。

認められるかどうかは裁判所の判断ですが、求めなければ1円も戻ってきません。

作り直したときの領収書は捨てずに、休んだ日や移動の記録と一緒に取っておきましょう。

漏らした会社が受けるペナルティ

お金だけでなく、漏らした会社にはきちんとペナルティを受けてほしいですよね。

漏らした会社を取り締まるのは、国の個人情報保護委員会です。

委員会は会社に報告を求めたり、立ち入って調べたりしたうえで、段階を踏んで正していきます。

  • 指導・助言=まず改善を促す
  • 勧告=はっきりと是正を求める
  • 命令=従わなければ罰金の対象になる

命令に逆らった会社には、最大1億円の罰金が科されます。

これまでにも、利用者の情報が漏れたLINEヤフーが2024年3月に勧告を、IDとパスワードが漏れたKDDIが2026年8月に指導を受け、どちらも委員会がその内容を公表しました。

 

ただ、日本の法律には、漏らしたこと自体にすぐ罰金を科す決まりがありません。

2026年7月に公布された改正法で、ルール違反でもうけた分を国が取り上げる「課徴金」という仕組みが新しく入りましたが、情報の管理が足りずに漏れてしまったケースは、その対象の外。

これがEUの個人情報のルール(GDPR)なら、違反した会社に、全世界の年間売上高の4%まで制裁金を科せます。

2023年5月には、利用者のデータを十分な保護のないままアメリカへ移していたとして、Facebookを運営するMetaに12億ユーロ(当時のレートで約1,800億円)の制裁金が科されました。

日本でも、消費者団体が被害者に代わって訴えられる仕組みを個人情報保護法に入れる案はありましたが、今回の改正では見送られ、次の見直しで改めて話し合われることになっています。

それまでのあいだ、1人でも今日から使える手が2つあります。

1人の声を委員会へ届ける窓口

メモを取りながら電話で相談する女性のイラスト

「個人情報保護法相談ダイヤル」(03-6457-9849)は、平日の9時30分から17時30分まで、名前を言わなくても相談できる委員会の窓口です。

法律に違反しているおそれがはっきりしている話なら、委員会が「情報提供」として預かってくれます。

委員会は、指導や勧告をした会社の名前とその中身を公表していて、会社にとっては重い記録として残ります。

 

自分のデータを消させる請求

もう1つが、自分のデータを消させる請求です。

2022年4月の法改正で、1,000人を超える漏えいや、お金の被害につながるおそれのある情報の漏えいが起きた会社に対しては、自分の個人情報の利用をやめるか、消すように求められるようになりました。

条件に当たれば、会社は応じなければいけません。

請求する先は、漏らした会社の問い合わせ窓口です。

サービスをやめるときは、退会の手続きと一緒にこの請求も出して、その会社に自分の情報を持たせ続けないようにしておきましょう。

免許証は作り直したほうがいいのか

免許証の作り直しは、警察では「再交付」と呼ばれ、手数料はいま持っている免許証の種類で変わります。

  • これまでのカードの免許証だけ 2,600円
  • マイナ免許証だけ 1,500円
  • カードとマイナ免許証の両方 2,700円

東京なら受付は府中・鮫洲・江東の運転免許試験場だけで、平日の8時30分から16時まで、代わりの人に頼むこともできません。

しかも、警視庁が案内している再交付の理由は、なくした・盗まれた・汚れた・壊れたなどで、「情報が漏れた」は入っていません。

会社から作り直しを勧められても、警察の窓口でそのまま受け付けてもらえるとは限らないんです。

大きな漏えいのときに県の公安委員会が特例で受け付けた例もあるので、住んでいる県の運転免許センターに先に確かめておくと、無駄足を踏まずに済みます。

作り直して変わるのは番号の末尾と顔写真

作り直して新しくなるのは、免許証番号の末尾と顔写真だけです。

12桁の番号の最後の1桁は、作り直した回数を表すとされている数字です。

末尾の数字が増えると信用が下がる、という話を気にする人もいますが、それで免許そのものの効力が変わるわけではありません。

一方で、名前も生年月日も住所も、新しい免許証にそのまま載ります。

なりすましを防ぐ備えとしては、作り直すより、次の章の本人申告のほうが先に効きます。

作り直すと決めたなら、そのお金と時間は漏えいのせいで生まれたものとして、領収書と一緒に残しておきましょう。

訴える前にしておきたいなりすまし対策

ソファでスマートフォンから手続きをする女性のイラスト

訴えるにしても作り直すにしても、先に済ませておきたいのが信用情報機関への本人申告です。

「情報が漏れて名前を悪用されるおそれがある」と自分の信用情報に登録しておくと、お金を貸す側がそれを見て、本人かどうかをいつもより慎重に確かめてくれます。

  • 全国銀行個人信用情報センター(全銀協・銀行のローンなど)=ネットなら手数料500円
  • CIC(クレジットカードや分割払いなど)=ネットか郵送、登録は5年間
  • JICC(消費者金融など)

お金を借りる先によって確かめる機関が違うので、3つとも出しておくと安心です。

CICとJICCの手数料は、申し込む前にそれぞれのサイトで確かめてください。

大きな漏えいのあとは申し込みが集中して、受け付けに時間がかかることがあります。

面倒でも、早めに出しておきましょう。

 

もう1つ、漏えいのあとは、会社のお詫びや補償の案内を装ったメールやSMSが届くことがあります。

補償の知らせが届いたら、メールのリンクは押さずに、その会社の公式サイトを自分で開いて、同じ案内が出ているかを確かめてください。

自分の身を守る手間まで漏らされた側が背負うのは、どう考えても理不尽です。

1人の数千円では軽くても、同じ怒りを抱えた人が集まれば、漏らした会社にとっては無視できない重さになるんですよね。