東南アジアの詐欺拠点から「警察です」と電話をかけ、お年寄りのお金を奪っていた日本人が、現地で捕まる。

そんなニュースを見るたびに、日本に戻さず、そっちの国で裁いてほしいと思ってしまうのは、私だけではないはずです。

中国では実際に、詐欺組織の幹部たちに死刑判決が出ています。

では、海外闇バイトで捕まった日本人も、向こうで死刑や銃殺になるのか。

「銃殺」という言葉をたどると、本当に銃を向けられていたのは、まったく別の人たちでした。

東南アジアの詐欺に死刑はあるのか

日本人がいちばん多く捕まっているカンボジアは、1989年に死刑そのものをなくしています。

フィリピンも2006年に廃止。

マレーシアには死刑が残っていますが、対象は殺人や薬物の密売などで、詐欺の刑は最長10年の禁錮と、むち打ち、罰金です。

 

一方、ミャンマーでは2026年7月、詐欺を取り締まる新しい法律が国会で可決され、いちばん重い刑が死刑になりました。

ただ、詐欺拠点が集まる国境地帯は、少数民族の武装勢力が実質的に支配していて、ミャンマーの当局がなかなか踏み込めない場所です。

そのため、拠点から逃げ出した日本人も、国境の川を越えた先のタイで保護されてきました。

 

死刑になったのは詐欺組織を率いた中国の一族

2025年9月29日、浙江省温州市の裁判所は、ミャンマー北部で詐欺拠点を仕切っていた一族「明家」とその仲間39人を裁き、11人に死刑、5人に執行猶予つきの死刑を言い渡しています。

中国の最高裁にあたる最高人民法院は、この一族が詐欺と賭博で100億元、日本円にして2000億円を超えるお金を動かし、中国人14人が命を落としたと認めました。

11人の死刑執行は、2026年1月29日。

 

同じ2025年の11月には、別の一族「白家」の幹部ら5人にも死刑判決が出ました。

白家が動かしたお金は290億元、日本円で6000億円を超え、中国人6人が亡くなっています。

一族のトップは判決のあと病気で亡くなり、残る4人の死刑執行が2026年2月2日に公表されました。

銃殺の話はどこから出てきたのか

「向こうで銃殺されるらしい」という話に、いちばん近いのは中国です。

中国の刑事訴訟法は、死刑を「銃殺または注射などの方法」で執行すると定めています。

明家の11人の執行を伝えた中国の発表に方法は書かれていませんが、中国語のSNSには「11人を銃殺」と言い切る投稿も出回っています。

 

本当に撃たれたのは働かされていた側だった

中国の報道によると、2023年10月20日、明家の拠点で、別の場所へ移されようとしていた働き手たちが見張り役に撃たれ、中国人4人が亡くなり、4人がけがをしました。

裁かれた明家の幹部の1人は、死刑になる前に「中国の警察の取り締まりから逃れるため、働き手には『国へ帰す』とうそをついて、別の拠点へ移そうとした」と話したと伝えられています。

家に帰れると思わされていた人たちが、撃たれたんです。

拠点から逃げようとして捕まった人がどうなるのか、裏社会を取材してきた作家の草下シンヤは、現地を見てきた人の話などから3つの筋書きを挙げました。

  • 臓器を抜かれて売られる
  • バットにゴムチューブを巻いた「拷問バット」で、見せしめに何時間も殴られる
  • 虎のいる檻に入れられる

どれも草下自身が「考えられる」とする筋書きですが、このうち「臓器を売るぞ」という脅しは、日本の警察が拠点帰りの人たちから聞き取った話の中にも出てくるんです。

日本へ連れ戻されるとそのまま逮捕

捕まった日本人は、現地で国外退去になり、日本の警察が飛行機で連れ帰って逮捕する、という形で日本へ戻されています。

日本が、罪を犯した人を引き渡し合う条約を結んでいるのはアメリカと韓国だけなので、東南アジアの国からは、国外退去を待って連れ帰るしかないんです。

2025年の1年間に、こうして海外の拠点から連れ戻されて検挙された日本人は54人にのぼります。

  • カンボジア 32人
  • フィリピン 9人
  • マレーシア 7人
  • タイ 6人

いちばん多いカンボジアでは、2025年5月に見つかった日本人29人が、8月にチャーター機で日本へ移送され、全員が特殊詐欺の疑いで逮捕されました。

この29人がいた拠点では、2025年2月から5月までの4か月ほどで、約14億円がだまし取られた疑いがあります。

同じ年の8月にはマレーシアの拠点で日本人4人が確保され、10月に日本へ移送されて、大阪府警に逮捕されました。

 

収容所からスマホで指示した疑い

送り返されたあとに、別の事件まで掘り起こされることもあります。

2023年2月にフィリピンから送り返された4人の中からは、日本の強盗事件の指示役「ルフィ」とみられる人物が浮かび、再逮捕されました。

4人はフィリピンの入管の収容所にいるあいだも、職員にわいろを渡してスマホを持ち込み、日本の実行役へ指示を出していたと報じられています。

捕まって檻の中にいても、スマホが1台あれば日本の家へ強盗を送り込める。

指示役とされる男の裁判は、2026年11月11日に初公判が開かれる予定です。

1585万円をだまし取って懲役4年6月

2026年7月7日、名古屋地裁は、ミャンマーの拠点で「かけ子」(詐欺の電話をかける役)をしていた男2人に、懲役4年6月の実刑を言い渡しました。

2人は警察官になりすまして「逮捕状が出ている」とうそをつき、男性3人から合わせて1585万円をだまし取っています。

同じ事件で、当時16歳の高校生を拠点へ紹介した32歳の男は、懲役4年です。

 

正直に言って、だまされた人の暮らしを思えば軽すぎると私は思います。

日本の詐欺罪は、刑の上限が10年。

いくつもの事件が重なっても、上限は15年までです。

だまされる側から見れば、奪われているのは一生かけてためたお金で、大阪府の吉村知事も「許せない」と言い切っていました。

1日1000件の電話をかけても従属的

名古屋の2人は、1日に1000件ほどの電話をかけていたことが判決で認められています。

それでも判決は、2人を組織の指示どおりに動いた「従属的」な立場と見ていました。

毎日1000件の電話でお年寄りをだまし続けて、それでも従属的。

だまされて行っても罪は消えない

拠点に人を送り込むリクルーターは、「海外で簡単に稼げる仕事がある」と声をかけて日本人を集めています。

ミャンマーのタチレクの近くでは、追いつめられた様子の日本人に声をかけられた旅行者もいました。

国連の人権高等弁務官事務所が2026年2月に出した報告書には、拠点の中で給料から天引きされ、罰金を取られ、「借金」だけが膨らんでいく様子が書かれています。

カンボジアの29人がいた拠点でも、多くだまし取った人には広い部屋が与えられ、ノルマに届かない人はナイフで腕を切られたり、1時間走らされたりしていたと報じられました。

拠点で電話をかけていた人たちは、日本の警察の取り調べでこう話しています。

  • パスポートとスマホを取り上げられ、帰るなら数百万払えと言われた
  • 詐欺をやりたくないと言うと「臓器を売るぞ」「家族を殺す」と脅された
  • 指示どおりにやらないと暴力を受け、ひどいときはアルコールをかけられて火をつけられた

それでも、日本の警察が見るのは、電話の向こうで誰がいくら奪われたかです。

 

被害者と認められた16歳も少年院へ

名古屋の2人と同じ拠点で電話をかけていた当時16歳の高校生は、2025年2月にタイで保護され、タイの軍と警察から、日本人で初めて「人身売買の被害者」と認められました。

それでも帰国したあとに詐欺の疑いで逮捕され、少年院へ送られました。

少年がどんな誘いに乗って日本を出たのかは、海外闇バイトの末路…監禁されて帰国した瞬間に逮捕される現実で読めます。

拠点のトップにも届き始めた捜査

2025年10月、カンボジアの別の拠点で、警察官を名乗る詐欺を続けていたトップとみられる中国人らが逮捕されました。

ミャンマーでも同じ月、軍がKKパークと呼ばれる巨大な拠点の建物を爆薬で壊し、28か国の1500人を超える人たちが、川を渡ってタイへ逃げ出しています。

日本人の上役も、例外ではありません。

2026年6月、カンボジアの29人がいた拠点をタイから仕切っていたとみられる日本人の男が、バンコクで拘束されました。

男はタイから日本へ移送されて逮捕され、拠点の中にあった班のうち、この男が立ち上げたとされる「05グループ」は、1か月で1億円をだまし取ったこともあったと報じられています。

2026年7月には、その班で電話をかけていたとみられる10人が、組織的詐欺の疑いで再逮捕されました。

 

捜査はさらに上へ向かっています。

男の逮捕のあと、関係先として捜索されたのは、埼玉県川口市にある指定暴力団住吉会系の事務所。

拠点と暴力団がどうつながっていたのかは、まだ明らかになっていません。

東南アジアの詐欺拠点をたどる捜査は、日本の暴力団の事務所にまで及んでいます。

向こうで死刑になったのは中国人の幹部たちで、名古屋で裁かれた日本人の電話役は懲役4年6月でした。

拠点の上にいたとみられる日本人の男にまで同じような刑しか言い渡されないなら、「日本の司法は甘い」と言われても仕方ないのかもしれませんね。