「緊急地震速報は誤報ではなく、M9,9をやったのに、阻止されて揺れなかった」

2026年10月16日のお昼に「千島列島でマグニチュード9.9」の緊急地震速報が流れたあと、ネットではこう書いた投稿が広く読まれました。

その投稿には「人工地震を失敗した」といった返事が並び、観測史上の記録と並べて「今回は失敗ってこと?」と書く人もいます。

最大震度7と言われた地震が、ふたを開けてみればほとんど揺れず、8分後には速報そのものが取り消された。

その落差を目の前で見せられたら、何かが途中で止められたように感じてしまうのも無理はありません。

揺れなかったのは、何かに止められたからなのか。

あの日の記録と、気象庁がまだ説明していないことを、順番にわかりやすく解説していきます。


人工地震を疑いたくなる材料

あの日のお昼の画面を思い出すと、引っかかるところがいくつも浮かびますよね。

速報の数字は観測史上の記録を超えていて、予想された揺れは来ず、最後には見たことのない「取り消し」まで届きました。

どれも、気象庁の記録や報道で確かめられることばかり。

 

観測史上最大を超えるM9.9

東日本大震災のマグニチュードは9.0で、観測史上いちばん大きかったとされる1960年のチリ地震でも9.5です。

速報が出した9.9は、その記録をさらに上回る数字でした。

16日14時からの会見では、気象庁の海老田綾貴・地震津波監視課長自身も「9.9というのは地震学的になかなか厳しい値だと思う」と話しています。

出した気象庁自身が「厳しい値」と認める数字が、お昼のテレビとスマホに一斉に映ったわけです。

 

震度7のはずが震度1

速報は根室地方に「震度5弱から7程度」の揺れを予想し、北海道から東海・伊豆諸島まで警報を出していました。

ところが、実際に日本でいちばん強かった揺れは函館市の震度1です。

気象庁が公開している速報の記録をたどった人の、こんな投稿も広く読まれました。

M6から7台を行き来していた速報の数字が、何度目かの出し直しで突然9.9になる。

記録だけを見ると、何かが割り込んだようにも見えてしまいます。

 

警報の取り消しは初めて

そして12時40分の警報から8分後の12時48分、取り消しの知らせが届きました。

その取り消しも同じ大きな音で鳴り、毎日新聞は、そのときのスマホの画面の写真に「再度の大きな警報音と共に」という説明を付けています。

ネットには「地震速報取り消し出来るって事は?」と、取り消せること自体に引っかかる声もありました。

気象庁の決まりでは、予想より揺れが小さかったというだけなら、警報は取り消しません。

取り消すのは、警報を出したこと自体が誤りだったときに限られます。

朝日新聞によると、スマホやテレビで一斉に知らせる「警報」が取り消されたのは、今回が初めてだそうです。


本当に起きていたのはM6.9

では、あの日の地下では何が起きていたのでしょうか。

実は、地震そのものは本当に起きていました。

ただしそれは、速報が告げたものとは場所も大きさもまるで違う地震です。

速報が出した数字と、世界の地震計に残った数字を並べると、その違いがはっきりします。

 

カムチャツカで起きたM6.9

気象庁の発表として報じられているのは、カムチャツカ半島付近で起きたマグニチュード6.9の地震で、震源の深さは約160キロでした。

津波の心配はないとのこと。

日本から遠く、地下深くで起きた地震で、国内で観測された揺れは函館市の震度1が最大だったと伝えられています。

 

海外の地震計にも残った6.9

この地震は、気象庁とは別に海外の機関も記録していて、ロシアの記録は現地の通信社インタファクスが伝えたもの。

3つの記録を並べると、こうなります。

  • 気象庁 M6.9・深さ約160キロ
  • アメリカの地質調査所(USGS) M6.9・深さ135キロ
  • ロシア科学アカデミーのカムチャツカ支部 M6.9・深さ138キロ

深さには少しずつ差がありますが、どの記録にも、M9.9に近い大きさの地震は残っていません。

USGSの記録では発生が日本時間の12時35分すぎで、速報の記録をたどった先ほどの投稿にある「12:38:10 地震波を検知」と3分ほど差があるのは、千キロ以上離れたカムチャツカから日本の地震計まで、揺れが届くのに時間がかかったためとみられます。

 

M9.9を生んだ計算の取り違え

それなら、なぜM9.9という数字が出たのか。

16日は14時、17時半ごろ、22時40分と3回の会見が開かれ、そこで気象庁が明かしたのは、マグニチュードと震度で別々の、しかもどちらも間違った震源を使っていたことでした。

マグニチュードは、実際より遠い場所で起きた地震として計算されていたとのこと。

同じ揺れの大きさでも、遠くで起きた地震ほど、計算されるマグニチュードは大きくなります。

そのうえ震度は、実際より日本に近い場所で起きた地震として予想していたそうです。

そこには、本来使わないはずの、震源から遠く離れた観測点のデータまで計算に使ったミスがあり、遠すぎる観測点を外す決まりも、このときは正常に動いていなかったとのこと。

結果として、日本の近くでM9.9が起きたという前提で揺れを計算してしまったことになります。

 

気象庁は、その時間帯に外部からのアクセスはなかったとして、サイバー攻撃の可能性も否定しました。

M9.9が速報のどの報で出て、どこで警報に切り替わったのかは、気象庁の記録を一報ずつたどったこちらの記事で見られます。

日本地図に向かって広がる地震の波の円と、北の海の震源の印のイラスト
緊急地震速報M9.9の誤報が出た理由をわかりやすく解説2026年10月16日のお昼12時40分、テレビとスマホから一斉に緊急地震速報が流れました。 千島列島でマグニチュード9.9、最大震度7...


M9.9に必要な8800キロ

冒頭で紹介した「阻止されて揺れなかった」という投稿は、こう書かれていました。

「仕掛けた核爆弾」がどこにどう仕掛けられていたのかは、投稿には書かれていません。

そもそもM9.9の地震とは、どれほどの規模の出来事なのでしょうか。

 

海溝2本ぶんの断層

専門家の資料をもとにした計算では、M9.9の地震を起こすには、長さ約8800キロの断層がいっぺんにずれる必要があると、災害担当の記者が紹介しています。

アリューシャン海溝からマリアナ海溝までを足した長さで、巨大な地震は、それだけ長い岩盤のずれが連なって起きるもの。

マグニチュードは1上がるとエネルギーが約32倍になるので、東日本大震災のM9.0と比べても、M9.9のエネルギーはおよそ22倍になります。

 

人が掘れたのは約12キロ

爆弾を仕掛けるには場所も要りますが、実際に起きたカムチャツカの地震の震源は、地下130キロより深いところでした。

日本地震学会によると、人がこれまでに掘ったいちばん深い穴は、旧ソ連のコラ半島で約20年かけて掘られた深さ約12.3キロの孔で、地下の高温に阻まれて1992年に掘るのをやめています。

震源は、人がたどり着いたいちばん深い場所の10倍以上も下でした。

日本地震学会は、深い穴を掘るには長い年月と巨額の費用がかかり、隠れて掘ることも難しいとして、人の手で大きな地震を起こすのは「現実的ではありません」と答えています。


地震速報が揺れより速い理由

ネットには「いつも異常に速い地震速報は事前に計画されているから」という声や、「そもそも地震を測定する機械や速報を出すシステムは国産なんでしょうか?」という疑問もありました。

揺れより先にスマホが鳴るのは、たしかに不思議に見えますよね。

 

先に届く小さな揺れを使う

気象庁によると、地震が起きるとまず秒速約7キロの「P波」が、続いて秒速約4キロで揺れの強い「S波」が伝わってきます。

緊急地震速報は、地震計が先に届いたP波をとらえた瞬間に、震源と大きさを自動で計算し、ほぼ光の速さで伝わる電気信号でS波より先に知らせる仕組みです。

今回のように震源が遠いと、日本の地震計に最初の揺れが届くまでに数分かかりますが、そこからの計算と知らせはほとんど一瞬。

あの日も、最初の小さな揺れは日本の地震計に届いていました。

速報が速いのは、最初の小さな揺れから、あとに来る大きな揺れを先回りして計算しているからなんです。

 

作って動かしているのは国内の機関

計算の仕組みを開発したのは気象庁と鉄道総合技術研究所、防災科学技術研究所で、テレビや携帯に届くようになったのは2007年10月1日から。

地震計そのものを作った会社までは調べきれませんでしたが、全国の観測網を置いて動かしているのも、気象庁などの国内の機関です。

ただ、急いで計算するぶん、揺れが出そろう前の見積もりは大きくも小さくもぶれることがあると、気象庁自身が説明しています。

今回のM9.9は、そのぶれの範囲を大きく超えた外れ方。


まだ埋まっていない説明

冒頭の「阻止されて揺れなかった」という投稿への返事には、「気象庁の説明ですが、納得いきませんよね」「クエッションマークが付く会見でした」という声がありました。

たしかに、気象庁の説明には、まだ答えの出ていないところが1つ残っています。

 

なぜ決まりは動かなかったのか

気象庁は22時40分からの3回目の会見で、震源から700キロより遠い観測点をマグニチュードの計算に使わない機能が、「正常に動作していなかった」と説明しました。

この決まりは、2020年7月30日に伊豆諸島の鳥島近海で起きたM5.8の地震を、800キロ以上離れた観測点のデータまで使ってM7.3と読みすぎた誤報のあとに作られたものです。

今回は気象庁が16日の夜のうちに緊急の対策を入れ、同じ地震では速報が出ないことを確かめたとしています。

けれど、なぜその機能が正常に動かなかったのかは、17日の朝の時点でもまだ説明されていません。

サイバー攻撃ではないと聞いても、肝心のその理由が空いたままでは、すっきりしませんよね。

 

鳴った瞬間に覚悟した人

揺れは来なかったとはいえ、警報が鳴った数分間は、本物の怖さでした。

北海道の苫小牧にいた人は、あとで分かった震源も交えて、こんなふうに振り返っています。

あの音が鳴れば、私たちは手を止めて身構え、海の近くにいれば逃げる準備を始めるもの。

決まりがなぜ動かなかったのか、あの音にスマホを握りしめた側としては、まずそこを知りたいですね。