2026年10月16日のお昼12時40分、テレビとスマホから一斉に緊急地震速報が流れました。

千島列島でマグニチュード9.9、最大震度7。

北海道から東海まで「強い揺れに警戒」と出たのに、揺れはほとんど来ていません。

そして10分もたたないうちに、取り消しの知らせが、あの同じ音でもう一度鳴りました。

あのM9.9はどこから出てきたのか、地震はそもそもあったのか、サイバー攻撃の心配はないのか。

気象庁が公開している速報の記録をたどると、M9.9は、本物の地震の波をとらえてから73秒後に出ていました。

気象庁はその日のうちに3回も会見を開き、「マグニチュードを過大に推定した」と謝罪して、サイバー攻撃の可能性も否定。

夜の会見では、2020年の誤報のあとに入れた安全装置が、今回は働いていなかったことまで明らかになっています。

夕方には、ドコモのスマホにはそもそも速報が届いていなかったことも分かりました。


12時40分に何が起きた

「結局、地震はあったの?なかったの?」と、いちばん混乱したのはここではないでしょうか。

地震は、本当に起きていました。

ただし、速報が告げた大きさとはまるで別物の地震です。

警報が出ていたのは、北海道・東北・関東・北陸・甲信・東海・伊豆諸島まで。

職場で、台所で、子どもの学校のことを思いながら画面を見つめた人も多かったはずです。

 

本当にあったのはM6.9

気象庁の発表として報じられているのは、12時38分ごろにカムチャツカ半島付近で起きた地震です。

速報が出した震源は「千島列島」だったので、場所の名前からして食い違っていたことになります。

震源の深さは約160キロ、マグニチュードは6.9で、日本でいちばん強かった揺れは函館市の震度1でした。

津波の心配もなし。

ところが、この地震を速報のシステムが計算するうちに、数字がどんどん大きくなっていきました。

 

73秒後にM9.9へ

気象庁は、緊急地震速報を出すたびに、その中身を「第◯報」として記録に残しています。

今回の記録を並べると、こうなっています。

  • 12時38分10秒 地震の波をとらえる
  • 12時38分27秒 最初の予報(第1報)はM6.2
  • 12時38分44秒 震源を千島列島の深さ140キロと推定し、M7.3
  • 12時39分23秒 第15報でM9.9に上がる
  • 12時40分02秒 第17報で警報になり、北海道から東海の広い範囲へ
  • 12時48分 最後の続報(第42報)
  • 12時48分ごろ 取り消し(警報から約8分後と報じられています)
  • 14時 気象庁が会見し、過大に推定したと認めて謝罪
  • 17時半ごろ 2回目の会見。マグニチュードと震度の予想に別々の震源を使っていたと説明
  • 18時32分 NTTドコモが、エリアメールが配信されなかったとお詫び
  • 22時40分 3回目の会見。遠い観測点を外す仕組みが動いていなかったと説明

画面の日本地図が真っ赤になったのは、第17報で、それまでの〈予報〉が〈警報〉に切り替わってからです。

M9.9が出てから、約40秒後のことでした。

テレビやスマホで一斉に流れるのは、この警報のほうです。

このとき根室地方には「震度5弱から7程度」と、幅のついた予想が出ていました。

 

騒ぎは画面の中だけでは済みませんでした。

JR東海の発表として報じられたところでは、東海道新幹線は新横浜から豊橋のあいだで地震のときに電気を止める仕組みが働き、送電が止まっています。

運転が戻ったのは12時55分です。

東京ディズニーリゾートでも、アトラクションが止まったと伝える投稿が出ています。


なぜM9.9になったのか

地震が本当にあったのなら、なおさら「なんでM9.9に?」と思いますよね。

16日14時からの会見で、気象庁の海老田綾貴・地震津波監視課長は「大変なご迷惑をおかけしたことを深くおわびする」と謝罪しました。

警報を出した原因は「マグニチュードを過大に推定したため」。

同じ日の夕方には、木原官房長官も「多大な心配と負担をかけたことについては、政府として重く受け止めている」と述べています。

14時の時点では、なぜ9.9まで大きくなったのかは調査中とされていましたが、夕方と夜にも会見が開かれ、原因が少しずつ見えてきました。

ほとんど揺れなかったのに、予想は震度7。

その差を考える手がかりは、会見の前から気象庁のサイトに書いてありました。

 

揺れの途中で計算する速報

緊急地震速報は、大きな揺れが届く前に知らせるための仕組みです。

だから、地震が全部終わるのを待たずに、最初の数秒から十数秒の波で「どこで、どのくらいの地震か」を計算します。

そのあとも波が届くたびに計算し直すので、数字は報ごとに変わっていきます。

気象庁の説明では、断層が割れ続ける時間は、M6クラスで約10秒、M8クラスなら約100秒です。

揺れが出そろう前に大きさを決めるので、見積もりは大きくも小さくもぶれることがあり、気象庁も「誤差が大きくなりうる」と書いています。

 

遠くて深い地震だった

気象庁が「特性や限界」として挙げている条件の中に、今回の地震に当てはまるものが2つあります。

  • 観測網から遠い:全国に置かれた地震計の網から100キロほど以上離れた地震は、震源と大きさの誤差が大きくなりうる
  • 深い:深さ100キロほどより深い地震は、震源から離れた場所が強く揺れることがあり、揺れ(震度)の予想に使う計算式も浅い地震向け

今回の震源は、日本の観測点から遠く離れた北の海の下で、深さは速報の推定で140キロ、実際には約160キロでした。

つまり、〈遠い〉と〈深い〉の両方に当てはまる地震だったんです。

 

2020年にも似た誤報

遠い地震を大きく読みすぎた例は、前にもありました。

2020年夏の朝、関東や東海など15の都県に警報が出たときのことです。

実際は伊豆諸島の鳥島近海で起きたM5.8で、震度1以上の揺れはどこでも観測されていません。

震源の場所を取り違え、800キロ以上離れた観測点のデータまで使って、M7.3と計算しています。

このあと気象庁は、マグニチュードの計算に使うデータを、震源から700キロ以内に限るようにしました。

その決まりが今回どうなっていたのかは、その日の夜に分かりました。

 

震源を2回間違えた

16日17時半ごろ、気象庁は2回目の会見を開いています。

本来、マグニチュードの計算と震度の予想には、同じ1つの震源を使います。

ところが今回は、マグニチュードを実際より遠い地点の震源で計算し、震度は実際より日本に近い地点の震源で予想していました。

速報に出ていた「千島列島」は、実際の震源のカムチャツカ半島付近より日本に近い場所です。

そのうえ、日本から非常に遠い地震に、国内の地震用のマグニチュードの計算式を当てはめていたと説明しています。

地図の青い点がマグニチュードの計算に、黄色い点が震度の予想に使われた場所です。

日本に近い場所でM9.9が起きた、という前提で揺れを計算したことになります。

北海道から東海までの広い範囲に警報が出たのは、そのためでした。

この2回目の会見に出た気象庁の青木重樹課長は「人為的なものというよりはシステム内の原因によってこのような結果になっていると考えております」と話しています。

 

働かなかった安全装置

22時40分からは、異例の3回目の会見がありました。

そこで分かったのが、震源から700キロより遠い観測点を計算に使わない、という決まりが、今回は正常に動いていなかったことです。

2020年の鳥島近海の誤報を受けて、同じ年の9月から使われていた仕組みでした。

気象庁は21時半ごろに緊急の対策を入れ、同じ地震では警報が出なくなることを確かめたとしています。

なぜ動かなかったのかは、まだ調査中。

3回の会見で分かった誤りを並べると、こうなります。

  1. 遠く離れた地震に、国内の地震用のマグニチュードの計算式を当てはめた
  2. 本来は外すはずの700キロより遠い観測点のデータまで使い、M9.9と大きく出した
  3. そのM9.9を、実際より日本に近い震源に当てはめて震度を予想し、広い範囲に警報が出た

つまり、6年前の誤報から作った安全装置が、同じ型の誤報の日に働いていなかったんです。


取り消しでまた鳴った

M9.9の数字とならんで声が集まったのが、取り消しのアラームです。

取り消しが届いたのは、ほっとして家事や仕事に戻りかけたころでした。

 

毎日新聞が写した画面

毎日新聞は、東京都目黒区で12時49分に撮ったスマホの画面の写真を載せています。

写真の説明の書き出しは「再度の大きな警報音と共に」でした。

ある人がブログに残した、スマホに届いた通知の文面は「先程(12:40)の緊急地震速報を取消します。(気象庁)」です。

なぜ取り消しまで同じ音で鳴らすのか、携帯各社の公式の案内には書かれていませんでした。

会見を伝えた報道を読んだ範囲でも、この音についての説明は見当たりません。

 

代わりに気象庁の決まりを読むと、取り消しそのものがめったに出ないものだと分かります。

警報の取り消しは、本来は雷や機械の故障のような〈地震ではないもの〉を地震と間違えたときの知らせです。

予想より揺れが小さかった、という外れ方なら取り消しません。

今回は本物の地震があったのに、気象庁は取り消しを選びました。

地震の大きさを読み違えたのではなく、システムが誤って出した警報だった、という扱いです。

朝日新聞は、〈警報〉が取り消されたのは今回が初めてだと伝えています(〈予報〉の取り消しは前にもあります)。

「予想が外れました」ではなく、「あの警報そのものが間違いでした」という知らせだったことになります。

 

2016年のM9.1は鳴らなかった

Xには、2016年の「M9.1」を思い出す投稿もいくつか流れていました。

2016年8月1日の夕方、千葉県富津市付近でM9.1、震度7程度という速報が出たことがあります。

原因は、観測点の電源部の故障でした。

このときは15秒あまりで取り消され、スマホは鳴っていません。

 

警報は2か所以上の観測点で地震の波をとらえたときにしか出ないので、1か所だけだった2016年は〈予報〉で止まりました。

今回は複数の観測点が本物の地震の波をとらえていたので、警報まで進み、多くのスマホまで届いた、という順番です。

気象庁が原因を公表してきた過去の大きな誤報に、M9を超える数字が警報になってスマホを鳴らした例は見当たりません。


ドコモだけ鳴らなかった

取り消しの音にうんざりした人がいる一方で、そもそも1回も鳴らなかった人もいました。

お昼の時点で、こんな投稿が出ています。

「自分のだけ鳴らなかった」という声は、このあとも続きました。

その理由のひとつが分かったのは、夕方の18時32分に出た、このお詫びです。

 

原因はドコモのシステム

ドコモの発表によると、この緊急地震速報は、ドコモを使っている人に緊急速報「エリアメール」として届いていませんでした。

対象は北海道・東北・北陸・関東・甲信・東海・伊豆諸島で、気象庁の警報が出た地域と重なります。

原因は「当社のシステム不具合」。

産経新聞によると、影響は対象地域のドコモの全利用者で、KDDIとソフトバンクでは同じことは起きていません。

J-CASTニュースの取材には、原因はもう分かっていて数日以内に解消する見込みだと答え、サイバー攻撃ではないとも説明しています。

誤報を伝える投稿への返信には、「鳴るべきときに鳴らない」も起こりそうで怖い、という声がありました。

それは同じ日のうちに、別の形でもう起きていたことになります。

 

直るまでの備え

気になるのは、お詫びの中のこの一文です。

「事象解消までエリアメールが配信されない場合がございます」。

17日の朝の時点でも、ドコモのお知らせに「解消した」という追記は出ていません。

直ったという発表が出るまで、ドコモのスマホは次に本当の地震が来ても鳴らないかもしれない、ということです。

ドコモを使っている家族がいるなら、テレビやラジオ、防災アプリなど、ほかの知らせ方をもう1つ手元に置いておくと安心かもしれません。


サイバー攻撃を疑う声

気象庁とは別に地震の情報を流している「地震速報」というアカウントが「誤報だと思われます」と投稿すると、そこにも「乗っ取られてない?」「ハッキングでは?」という返信が並びました。

落合陽一さんのこの投稿は12時46分、まだ取り消しの知らせが届く前のものです。

取り消しのあとには、「人工地震を失敗した」という声も上がりました。

揺れなかったのは何かに止められたからなのか、という疑問には、海外の地震計の記録と並べてこちらで答えています。

静かな港町を見下ろす部屋のテーブルで、スマートフォンだけが赤く光っているイラスト
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疑いたくなる数字だった

東日本大震災のマグニチュードは9.0です。

観測史上いちばん大きかったとされる1960年のチリ地震でも、9.5でした。

9.9は、それをさらに上回る数字です。

マグニチュードは1上がるとエネルギーが約32倍になるので、0.9の差でも約22倍。

投稿にある「約22倍」は、計算どおりの数字です。

お昼のテレビにそんな数字が出たら、私も「機械の故障」より先に「誰かにいじられた?」が頭に浮かんだと思います。

会見では海老田課長自身も「9.9というのは地震学的になかなか厳しい値だと思う」と話しています。

 

これまでの原因は機械と計算

上の2016年と2020年のほかにも、気象庁が原因を発表した大きな誤報があります。

  • 2009年8月 観測点が異常な数値を送っていた(前日のソフト改修の不具合)
  • 2013年8月 海底地震計のデータに誤った時刻が付き、大きなノイズを揺れとして計算
  • 2018年1月 茨城と富山でほぼ同時に起きた2つの地震を1つとして計算

どれも機械の故障か計算の取り違えで、サイバー攻撃が原因とされた例は見つかりませんでした。

今回も、カムチャツカの地震は実際に起きていて、速報はその波から計算されています。

何も起きていないところに地震をでっち上げられた、という形ではありません。

本物の地震の波を、システムが大きく読みすぎた。

 

会見で否定されたサイバー攻撃

気象庁も、会見ではっきり否定しました。

否定の根拠は、朝日新聞によるとその時間帯に外部からのアクセスがなかったことです。


通知は切らないで

取り消しのアラームにうんざりして、緊急地震速報の通知を切ろうとした人もいたようです。

そんな声に向けて、こんな呼びかけも出ていました。

取り消しから30分ほどたったころの投稿です。

 

机の下に潜ったひとり

12時44分、警報が出てすぐのカフェでは、こんな投稿がありました。

結果は空振りでも、鳴った瞬間に体が動いた人がいたことは、ちょっと心強く感じます。

 

鳴った数秒の意味

速報は、揺れが来る前の数秒を手に入れるために、確かめ終わる前に鳴らす作りになっています。

外れることがあるのは、間に合わせることを選んだ仕組みの裏側なんです。

だからといって、M9.9まで大きく読んだことや、取り消しを同じ音で届けたことには、やっぱりモヤモヤが残ります。

次にあの音が鳴ったとき、今回のことを思い出して一瞬迷ってしまうのは、たぶん私だけではないはずです。

それでも、鳴ったらまず頭を守る、という順番だけは変えずにいたいですね。