「ICLは本当に早くやった方がいい」「お金を借りてでもやるべき」と、近視の手術ICLには、受けた人から熱のこもった声が上がっています。

映画を見るときに二重にぼやけることがあっても1000%やった方がいい、「レーシックは絶対ダメ、ICLは元に戻せるから」とまで言い切る人もいるほどです。

その一方で2026年9月には、度数が合わずにレンズを入れ替えたら、その再手術でもトラブルが起きたという人も。

散瞳とは、瞳が開いたまま戻らない状態のことです。

同じICLの話なのにここまで分かれると、受けて後悔する人もいるのか、迷ってしまいますよね。

ICLを受けた人が絶賛する理由

ICLは、黒目の表面にある角膜を削らずに、虹彩(茶目)の後ろ側へ小さくてやわらかいレンズを入れ、近視や乱視を治す手術です。

目にはもともと水晶体というレンズがあり、そこへもう1枚足すしくみなので「眼内コンタクトレンズ」とも呼ばれていて、日本で厚生労働省の承認を受けたのは2010年。

この手術の情報をまとめている日本白内障屈折矯正手術学会(以下、学会)によると、レーシックでは治せない強い近視の人でも裸眼で見えるようになるのが、ICLの強みです。

 

数字で見る見え方と満足度

学会が2014年に国内45施設のICL手術を調べた結果では、1001眼(眼は目の数で、両目なら2眼)のうち94%が裸眼で1.0以上見えるようになりました。

感染症や白内障の進行といった重い合併症は、この調査の期間には1例もなかったそうです。

海外の研究をまとめた報告でも、99.4%の人が高い満足度を答えています。

 

穴のあるレンズで減った白内障

真ん中の小さな穴を目の中の水が通り抜けるICLのレンズの図

ICLを入れると白内障になりやすい、という話を聞いたことはないでしょうか。

レンズの真ん中に穴がなかった以前の型では、1.1〜5.9%の人に白内障が起きたと報告されていました。

2014年に承認された穴のある型では、目の中を巡る水の流れが手術の前と同じように保たれるようになり、その割合は0.49%まで下がっています。

ただ、ICLを受けるのはもともと近視が強い人が多く、近視の強い人はICLと関係なく若いうちに白内障になりやすいため、何年もたって出た白内障がICLのせいなのかは、はっきりしないこともあるそうです。

白内障になったときは、ICLを取り出してから、ふつうの白内障の手術へ。

 

レーシックとのいちばんの違い

角膜を削るレーシックと、虹彩の後ろにレンズを入れるICLの目の断面図

ICLが角膜に手をつけないのに対して、レーシックは角膜という限られた厚みの組織を削る手術で、削った角膜は元に戻らず、近視が強い人や角膜が薄い人はそもそも受けられません。

ただ、日本眼科学会のガイドラインはいまもレーシックを選択肢に入れていて、近視を治す量は原則6Dまで(Dは近視の強さを表す単位で、眼鏡の処方箋に書かれる「-6.00」が6Dにあたり、6D以上が強い近視とされます)という線を引いたうえで認めているので、「絶対ダメ」とまで言い切るのは少し言い過ぎになりそうです。

レーシックで何年もたってから分かってきた後遺症は「レーシックは眼科医がやらないって本当?後遺症と戻る視力の話」に、ふたを作らない新しいレーザー手術は「SMILE Proの悪い口コミは?角膜拡張や再手術まで知っておきたいこと」に詳しく書きました。

落とし穴は「元に戻せる」の中身

ICLの安心材料としていちばんよく聞くのが、「合わなかったら取り出せる」という話です。

学会のよくある質問にも、問題が起きてレンズを取り出した場合は、手術の前と同じように眼鏡やコンタクトレンズで視力を矯正できると書かれています。

取り出して戻れるのは〈眼鏡やコンタクトで見ていた暮らし〉までで、目そのものが手術の前とまったく同じに戻るわけではないんですね。

 

取り出すのも目の手術

ここで見落としやすいのが、レンズを取り出すのもまた、目の中に器具を入れる手術だということ。

学会も、自分に合わないと感じたときはレンズを取り出すこともできるとしたうえで、目の手術なので慎重に検討するよう添えています。

眼科医からは、「取ったら元通り」という宣伝文句への違和感の声も。

目そのものが戻らない理由のひとつが、角膜のいちばん内側で角膜を透明に保っている細胞(角膜内皮細胞)です。

この細胞は一度減ると増えないうえ、ICLを入れたあとに少し減ることがあります。

海外の研究をまとめた報告では減り方は2.6%とわずかでしたが、ガイドラインは手術の前に必ずこの細胞の数を調べるよう定めています。

 

度数やサイズが合わずに入れ替える人

取り出すほかに、もうひとつ起きうるのがレンズの入れ替えです。

ICLには度数のほかに、目の中の広さに合わせて選ぶ大きさの種類があり、学会の2014年の調査では、レンズの交換が必要になった人が1.0%いました。

度数が強すぎて遠視(遠くも近くも見えづらい状態)になったときは度数の違うレンズへ、乱視を治すレンズが目の中で回ってしまったときは位置を戻す手術や、回りにくいひとまわり大きいレンズへの入れ替えが必要になることがあります。

度数やサイズがずれる原因として学会があげるのは、手術の前の検査にどうしても出てしまう誤差。

入れ替えの手術でどれくらいトラブルが起きるのかを示した数字は学会の公開情報に出ておらず、冒頭の、入れ替えのあとに瞳が開いたままになった人のようなことがどのくらいの割合で起きるのかは、分かっていないのが実情です。

映画で二重にぼやける見え方とハロー

暗い映画館でスクリーンや足元の灯りに光がにじむ様子のイラスト

ICLのあとの暗い場所の見え方として学会がまずあげているのは、光のまわりに輪がかかって見えるハローで、「二重にぼやける」という感じ方も、この見え方に近いのかもしれません。

ICLを受けた人の体験談にも、この光の輪はよく出てきます。

ICLで度が入っているのはレンズの中央の丸い部分だけなので、映画館のような暗い場所で瞳が大きく開くと、その丸い部分の外側を通った光がにじんで、光の輪になりやすいそうです。

ただ、光の輪が見えることと、夜に見えづらくて困ることは別で、ハローで夜に見えづらいと訴える人は少なく、多くは時間とともに気にならなくなると、学会は説明しています。

とはいえ、夜に車を運転する仕事の人や、暗い場所での見え方に敏感な人は、手術の前にこの点を医師に確かめておきたいですね。

両目で40万円から80万円の手術代とローン

眼科のカウンセリング室で見積もりを前に考え込む女性のイラスト

ICLは健康保険のきかない自由診療で、手術代は両目でおよそ40万円から80万円ほど、乱視を治すレンズにするとさらに高くなります。

ローンを組んでも、コンタクト代が浮けばいずれ元が取れる、という勧め方もよく見かけます。

なお、国税庁の案内で医療費控除の対象として名前が出ているのはレーシックで、ICLの名前はありません。

それでも、同じ視力を回復させる治療として控除を受けられると案内している眼科が多いので、確実に知りたいときは税務署に確かめておくと安心です。

 

「今やった方がいい」と言われたら

気をつけたいのは、カウンセリングの場で、その日のうちの契約やローンを勧められたときです。

国民生活センターは美容医療の相談の中で、「すぐに予約した方がいい。ローンを組んじゃいましょう」と何度も勧められ、断り切れずに約50万円のローンを組んでしまった例を紹介していました。

ICLは美容医療とは違いますが、同じ自由診療で、学会も、メリットだけをうたったり料金の安さで手術へ誘ったりする施設は、慎重に検討するよう呼びかけています。

 

まず受けるのは、角膜の状態や目の中のすき間の深さを測って、ICLを入れられる目かどうかを調べる適応検査。

そのうえで学会は、レンズの度数を正しく決めるために日を変えて2回は検査をすることと、検査の当日に手術をしないことをすすめています。

その日に決めなくても、自分の目に合う手術なら、家族と相談してから受けても遅くはありません。

 

早いほどいいとは限らない

とくに20代の人は、急いで受けるのがいいとは限らないんです。

ICLは近視が進むのを止める手術ではなく、その時点の近視を治すだけなので、学会は、20代前半ではまだ近視が進むことがあり、25歳前後がよいかもしれないと書いています。

若いうちに手術で1.5まで見えるようになっても、その後の生活習慣などで近視が進み、3〜4年後には0.7以下まで下がってしまうこともよくあるそうです。

日本眼科学会のガイドラインでは、目の中にレンズを入れる手術を受けられるのは原則として21歳から45歳まで。

そのうえで学会は、近視の度数が少なくとも1年は落ち着いていることも条件にあげています。

後悔しやすい人と受ける前に聞くこと

ICLを受けて後悔したという声は実際にあり、体験談でよく出てくるのは、夜の光の輪が気になること、度数がずれてレンズを入れ替えること、40代になって手元が見えにくくなることの3つです。

どれも、手術の前の検査で目の状態を測り、どの度数に合わせるかを医師と決めておくことで、ある程度は減らせます。

まず、学会がICLに向いていないとしているのは、次のような人です。

  • 近視がまだ進んでいる人
  • 角膜の裏から、もともと目の中にあるレンズ(水晶体)までのすき間(前房)が2.8ミリより浅い人
  • 進行性の円錐角膜(角膜が薄くなって突き出す病気)の人
  • 白内障・緑内障・ぶどう膜炎(目の中の炎症)などの目の病気がある人
  • ふつうの目薬では治らないほど重いドライアイの人
  • 妊娠中・授乳中の人
  • 細かいことに対して過度に神経質になる人

このうち前房の深さや角膜の状態は自分では分からないので、適応検査で調べてもらうことになります。

最後の「細かいことに神経質になる人」は意外かもしれませんが、ハローのようなわずかな見え方の変化が気になりやすい人ほど、手術のあとの見え方に満足しにくいということなのかもしれません。

 

40代は老眼と一緒に考える

40歳を過ぎてから考える人は、老眼とのかねあいも外せないポイント。

近視の人は眼鏡を外せば手元が見えていたので、ICLで遠くに合わせると、すでに始まっていた老眼に気づいて、手元が見えにくく感じることがあります。

ICLで老眼が早まるわけではありませんが、遠くの見え方を少しだけ落として手元を見やすくする合わせ方もあるので、どの度数に合わせるかは医師と相談しておくと安心です。

ガイドラインの原則は45歳までですが、学会は、手術のあとの見え方を十分に分かったうえでなら、ICLに年齢の上限はないとも書いています。

ただ、50歳を過ぎてからだと、年とともに出てくる白内障の手術でICLを取り出す日が早く来るので、ICLで見えている年数は短くなりがちです。

 

何年も通うことになる病院を選ぶ

眼科医が検査機器で目を診察している場面のイラスト

ICLは日帰りの手術ですが、手術の日は目の圧が一時的に上がることがあるため、ガイドラインは終わってから2時間以上様子を見るよう求めています。

そのあとも翌日、1週間後、1か月後、3か月後、半年後、1年後と通い、その後も年に1回は検査を受けるのが学会のすすめです。

よく見えていても、レンズの位置や目の中の炎症までは自分では分からないうえ、もともと近視の強い人は網膜剥離や緑内障にもなりやすいから。

 

感染は6000眼に1例ほどとまれですが、起きれば重い状態になることもあるので、何かあったときにすぐ駆け込める距離の病院かどうかも大事になります。

眼科医の中には、手術だけを受け持ってそのあとは診ない「雇われ執刀医」のケースを気にする声も。

クリニックでは、手術の前に次のことを聞いておくと、あとで困りません。

  • 執刀する医師がICLの認定医(日本眼科学会の講習会とメーカーの講習を受けた医師)かどうか
  • 白内障など目の中の手術をどれくらい手がけているか
  • 度数やサイズが合わなかったときの入れ替えの費用
  • 夜の光の輪が気になったときの相談先
  • 引っ越したときにアフターケアを引き継げる病院

この記事で参考にした情報

ICLを受けられる人と手術のあとの通院

手術の成績と合併症

手術代とローン・医療費控除

この記事の内容は医師の診断の代わりにはならないので、手術のあとに見え方の変化や痛みが続くときは、ひとりで様子を見ずに手術を受けた病院で診てもらってください。

絶賛する声も後悔する声も、どちらもその人の目で起きた本当のことなので、自分の目がどちらに近いのかは、検査を受けてみるまで誰にも分からないんですよね。