性加害やいじめ、暴力を報じられた芸能人が、何ごともなかったような顔でテレビに映っている。

自分に似た経験がある人や、身近な誰かが傷ついたことのある人にとっては、それだけで胸がぎゅっと苦しくなる場面ですよね。

チャンネルを変えても、その日のうちはなかなか気持ちが落ち着かない。

 

テレビを見ていて「もう見たくない」と感じるのは、決してわがままでも、ただの個人的な好き嫌いでもないはずです。

2023年の秋には、大きな企業のトップがこう言い切って、人気タレントの起用を取りやめたこともありました。

そして、テレビの前でひとりで飲み込まなくていい具体的な方法も、ちゃんとあるんです。

テレビで昔の記憶がよみがえるとき

ふと目にしたテレビの中の出来事が、心の奥にしまい込んでいた昔の記憶を一気に連れ戻してくることって、ありますよね。

それが作り話のドラマではなく、ニュースなどで実際に誰かを傷つけたと報じられた本人の笑顔なら、見ている側の苦しさはなおさらです。

性加害のように現実に被害を受けた人がはっきりいる場合、加害をした人がテレビに出続けることは、その人をもう一度傷つける「セカンドレイプ」にもなりかねません。

2025年3月に公表された、フジテレビの問題を調べた第三者委員会の調査報告書。

そこでは、元女性アナウンサーが出演者から性暴力の被害を受けたと認定したうえで、被害の事実を知りながらその出演者を何ごともなく番組に出し続けたフジテレビの判断を、被害者に寄り添わない「二次加害」にあたると重く指摘しました。

 

つらいときに話を聞いてもらえる窓口

テレビで顔を見るたびに夜も眠れなくなる、昔の記憶がフラッシュバックのように何度もよみがえる、というときは、ひとりで抱え込まずに話を聞いてもらえる場所があります。

  • 性暴力の被害=#8891(ワンストップ支援センター) 最寄りのセンターにつながる・通話は無料
  • 性暴力のチャット相談=Cure Time 毎日17〜21時・匿名で相談できる
  • 子どものいじめ=24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310 24時間・年中無休
  • 大人のいじめや人権の悩み=みんなの人権110番 0570-003-110 平日8時30分〜17時15分

#8891の受付時間は都道府県のセンターによって少しずつ違うので、つながらないときは内閣府のページで最寄りのセンターの受付時間を確かめてみてください。

不意打ちを防ぐ番組表とミュート機能

いちばんつらいのは、まったく見るつもりのなかった番組で、画面に急にその顔が大きく映ったとき。

夕飯を食べながら家族と見ていたバラエティで、心の準備もないままいきなり目に入ってしまう。

そうした予期せぬ不意打ちは、その人がテレビに出る日を先に知っておくだけでかなり減らせます。

 

番組表アプリで出演日を先に知る

番組表アプリの「Gガイド」では、タレントのプロフィール画面から、その人のこれからの出演番組まで一覧で確かめられるのが便利なところ。

アプリでお気に入りに登録した番組やタレントは、放送が始まる前にスマホへ通知が届く仕組みです。

本来はファンが好きな人の出演を見逃さないための機能ですが、自分を守る目的で見たくない人の出る日を先に知っておくのにも使えます。

ただ、その名前をスマホに登録することさえつらいときは、放送の直前に番組表の出演者欄を確かめておくだけでも十分です。

 

Xのミュートワードで話題を遠ざける

つらくてテレビを消しても、スマホでSNSを開けば、トレンドなどでその名前が勝手に流れてくることもありますよね。

Xには、指定した単語やハッシュタグを含むポストをタイムラインや通知に出さない「ミュート」の機能があり、止めておく期間も自分で選べます。

ただ、画像の中にその名前が写り込んでいるスクリーンショットの投稿は、文字ではないのでミュートの対象外。

本人の名前と一緒に、まわりの言葉まで幅広く登録しておくと、タイムラインに流れてくる量はだいぶ変わります。

  • 本人のフルネーム
  • ネット上の愛称
  • 所属するグループ名
  • 出演している番組名

テレビ局の視聴者センターへの届け方

でも、画面を避けて自分の心を守るだけでは、どうしても気持ちがおさまらない。

そんなときは、テレビ局の窓口に、視聴者としての声を直接届けてみるのもひとつの方法です。

電話が苦手な人や、声に出して話すのがつらい人は、それぞれのページにあるメールフォームや投稿フォームから文章で送れます。

日本テレビは番号を通知しない電話を受け付けていないので、自分の電話番号を知られたくない人は、メールフォームを使うとより安心かもしれません。

 

NHKには年間300万件を超える声が届いていて、その全部をデータベースに入れ、毎日「日報」にまとめて番組の現場へ戻しているそうです。

特に急ぎの声は、番組のプロデューサーなど現場で作る側の責任者へ直接届けられる仕組み。

テレビ東京の公式サイトの案内にも、視聴者から寄せられた意見にはすべて担当者が目を通すとの一文が、はっきり書かれています。

国の法律である放送法でも、NHKや民放といったテレビ局は届いた苦情や意見をきちんとまとめて、番組について話し合う局内の会議に報告する決まり。

送っても個別の返事が来ないことが多いので手応えは感じにくいのですが、送った声は、この放送法の決まりもあって、どの局でも記録の中にきちんと残っていくのです。

 

気持ちが伝わる書き方

窓口へ送る文章に、自分のつらい過去の経験まで詳しく書く必要はありません。

長い文章を書こうと気負わなくても、たとえばこんな短い文章で、十分に思いは伝わります。

  • 「似た経験があるので、◯月◯日の放送で◯◯が映っているのを見るのがつらかったです。起用について考えていただけないでしょうか」
  • 「◯月◯日の放送で◯◯が笑顔で映っていました。被害を受けた方がこの放送を見たらと思うと苦しくなりました」

スポンサーへの声が効くとされる理由

SNSなどで「テレビ局よりスポンサーに言ったほうが効く」という書き込みも、よく見かけますよね。

実際、スポンサー企業がタレントの広告起用を見直す大きな動きは、2023年と2025年に続けて起きています。

 

企業が起用を見直した主な事例

  • 2023年9月7日 旧ジャニーズ事務所が会見で性加害を認める。同じ日、東京海上日動が「人権尊重の観点」から、12月で切れる契約を更新しないと表明
  • 2023年9月8日 アサヒグループが今の契約を更新せず、新しい広告にも起用しない方針を発表。キリンも新しい広告は展開しないと発表し、日本航空も「適切な対応が取られるまで」起用を見送る
  • 2023年9月11日 日本生命が今後新たに起用しない方針を示す
  • 2023年9月12日 花王が「性加害の問題は花王人権方針の基本的な考え方に反する」として広告を中止
  • 2025年1月17日 出演者と元女性アナウンサーの問題(のちに第三者委員会が性暴力と認定)をめぐり、フジテレビの社長が会見。その直後から、CMを公共広告(ACジャパン)に差し替える企業が相次ぐ
  • 2025年1月20日 フジテレビでCMを止めた企業が少なくとも50社に

東京海上日動も花王もアサヒも、起用を見送る判断の理由として共通して挙げたのは「人権」でした。

 

スポンサーの判断が局に響く仕組み

スポンサー企業の判断がテレビ局にずっしりと重く響くのには、3つの理由があります。

1つめは、民放のテレビ局の収入のほとんどが企業からの広告だということ。

日本民間放送連盟の研究所によると、東京の大きな局でも収入の約8割、地方の局なら9割以上を広告に頼っているそうです。

そのため、スポンサー企業が次々に離れていったフジテレビでは、騒動の翌年度にあたる2026年3月期の決算で、放送収入が840億円と、前の期と比べて32.1%も大きく減りました。

2つめは、広告を出す企業がいちばん気にしている、自社の商品を買ってくれるお客さんの受け止め方。

3つめは、企業が「人権」を大事な基準にして判断するようになったこと。

国連や経済産業省も企業に人権を守る取り組みを強く求めていて、人権を損なう相手との取引を続けることは、ブランドのイメージを傷つけるなど、企業自身の問題にもなってしまうのです。

 

お客様相談室に送るなら

意見を届けるスポンサー企業への宛先は、その会社の公式サイトにある「お客様相談室」や問い合わせフォームになります。

送る言葉は、たとえばこんな一言で大丈夫です。

  • 「被害を受けた方のことを思うと、◯◯が出ている広告を見るのがつらいです」

BPOへの意見の送り方

テレビ局やスポンサーのほかに、声を届けられる場所がもうひとつ。

BPO(放送倫理・番組向上機構)は、NHKと民放がつくった第三者の機関。

ウェブのフォームや電話(03-5212-7333)、FAX、郵便で意見を受け付けていて、特定の番組名を名指しした意見は、その番組を流した局へ送られ、必要があれば専門の委員会にも報告される流れです。

2026年8月の1か月だけでも2,603件の意見が届き、そのうち1,008件が全国57の局へ個別に送られました。

ただ、BPOから一人ひとりに個別の返事が届くことはありません。

そのかわり、届いた意見の中身は毎月まとめて、BPOのサイトで誰でも読める形で公開されているんですね。

不祥事の種類ごとの伝え方

同じ「もう見たくない」という思いでも、画面の向こうで何があったのかによって、気になるところや引っかかるところは少しずつ違ってきます。

  • 刑期を終えて戻ってきた人
  • 疑惑や噂の段階の人
  • いじめやDVの過去が語られた人
  • メンバーから逮捕者が出たグループ

 

刑期を終えて戻ってきた人

「罪を償って戻ってきた」と周りからいくら説明されても、どうしても気持ちが追いつかない人もいるはずです。

そんなときは、「被害を受けた人への配慮はどうなっていますか」と、胸の奥でいちばん気になっていることを、そのまま素直にたずねてみてください。

 

疑惑や噂の段階の人

週刊誌などで報じられただけで、まだ本人が否定していたり、裁判で白黒を争っていたりする人もいます。

事実関係がまだはっきりしない段階なら、「報道を知ったうえで、起用を続けている理由を教えてほしい」とたずねる形でも、十分に気持ちは伝わるはずです。

 

いじめやDVの過去が語られた人

インタビューなどで本人が昔のいじめを語っていたり、元交際相手が「この人からDVを受けていた」と明かしたりした人もいます。

子どもと一緒に居間で見る番組や、ヒーローのような正義の味方の役で映るときほど、その過去との落差に苦しくなるもの。

「子どもと一緒に見る番組で、この人が優しいお兄さん役をしているのがつらい」のように、どの番組のどんな役がつらいのかが書いてあれば、担当者にはそれで十分に伝わります。

 

グループから逮捕者が出たとき

同じグループのメンバーのひとりが逮捕されると、どうしてもその人を思い出してしまい、グループごと見たくなくなるのも自然なことですよね。

ただ、局の実際の対応としては、逮捕された本人の出演場面だけを編集で外したり、出演回そのものを別の番組に差し替えたりする形になることがあります。

それでも、残ったメンバーを含めてグループが映るだけでつらいなら、遠慮せずにそのまま「グループの出演を見るのがつらい」と書いてかまいません。

つらさを抱えたままの人へ

もし自分自身が被害を受けた本人なら、無理に声を上げなくても大丈夫です。

まずは、ゆっくり休んでくださいね。

被害を受けた人の目に何が映るのかまで考えるのは、本来なら番組を作る側の仕事なのですから。