2026年10月17日と18日の2日間、徳島市の中心部で開かれたアニメの祭典「マチ★アソビ vol.31」に、約8万6000人が詰めかけました。

川沿いの公園にはコスプレをした人とカメラを構えた人があふれ、痛車(アニメのキャラクターを車体に描いた車)のグランプリまで開かれる、いつものにぎわいです。

ところが、このお祭りは2年前、一度止まっていたのです。

 

2024年は春も秋も本来の形では開かれず、県のお金の出し方を変えると言い出したのは、2023年に就任した徳島県の後藤田正純知事でした。

2024年に引っ越してきた人が、マチアソビの話を全く聞かなかったのはこれのせいだったのか、と書き込むほど、お祭りは1年半あまり、本来の形では街から消えていました。

知事はなぜマチ★アソビに厳しかったのか、そして復活したいま、なぜ「手のひら返し」と言われているのか、2023年から起きた順に振り返っていきましょう。

マチ★アソビはどんなお祭りか

マチ★アソビ vol.31の公式画像
引用元:マチ★アソビ公式サイト(https://www.machiasobi.com/)
  • 名前=マチ★アソビ
  • 始まり=2009年10月(第1回)
  • 開催=春と秋の年2回が基本・徳島市の中心部(2026年秋で31回目)
  • 主催=特定非営利活動法人マチ★アソビ(2025年から。それまでは県の事業)
  • 総合プロデューサー=ufotable(ユーフォーテーブル)の近藤光社長(徳島市出身)

ufotableは『鬼滅の刃』や『Fate』シリーズのアニメを作っている制作会社で、徳島にはufotable Cafeや映画館「ufotable CINEMA」もあります。

マチ★アソビは近藤社長が地元の徳島で始めたお祭りで、当時の飯泉嘉門(いいずみ かもん)前知事のもとで、県がお金を出して支えてきました。

会場は眉山(びざん)の山頂から新町川沿いの公園、東新町の商店街まで散らばっていて、街全体がそのまま会場になるお祭りなんです。

声優のトークやステージ、作品の展示、コスプレの撮影会がそこかしこで開かれ、今回のvol.31だけでも2日間で100を超えるイベントがありました。

阿波おどりと並んで、県外から人が泊まりがけで来る、徳島では数少ないイベントです。

2024年春のマチ★アソビが中止になるまで

2023年4月の徳島県知事選挙で後藤田正純知事が初当選してから、県はマチ★アソビへの接し方を変えていきます。

それまで県は、イベントを運営する「アニメまつり実行委員会」に、毎年約8000万円を負担金として出していました。

新しい知事はこのお金の出し方を見直し、民間が中心になって運営するイベントへ切り替えると言い出します。

  • 2023年5月=後藤田知事が就任
  • 2023年10月=vol.27が開かれる(これが中止前、最後の通常開催)
  • 2024年2月=春の見送りが報じられ、知事が「今春は民間主導で開催を」と表明
  • 2024年3月15日=知事が記者会見で、県の支援を見直す考えを改めて説明

県が説明した中止の理由

県は春を見送る理由として、イベントの企画を任せる業者の選び方を変えるため、と説明しています。

それまでの5年ほどは、東京の音響制作会社に、競争なしの随意契約(相手を決め打ちにする契約)で企画を任せていました。

これを、複数の業者から企画を出させて選ぶ方式(プロポーザル方式)に切り替えるため、選ぶのに時間がかかって、春には間に合わない、と県は説明しています。

ただ、知事が「民間主導で」と言い出したのは、春の開催まで3か月を切ってから。

ファンは見直しの中身だけでなく、それを知らされるのが遅すぎたことにも怒っていました。

2024年3月15日の会見で、記者から「もうちょっと早く言っといてよ」という声があると問われた知事は、「責任は私に全てありますから、そういった意思疎通ができていなかったところは反省をしたい」と答えています。

 

この会見で知事は、県がこの14年でマチ★アソビに、会場などの施設の整備と、イベントそのものに、合わせて約10億円を使ってきたと聞いている、と話しました。

記者からは、これまで1回の開催につき4000万円の公的なお金が出ていた、という指摘も出ています。

春と秋で年に約8000万円、そのうち半分ほどは国の補助なので、計算すると、県が自分の財布から出していたのは1回あたり2000万円ほど、年に4000万円ほどになります。

そのうえで知事は、コンテンツ自体は「素晴らしい」と言いながら、「民でできることは民で」と、主催者がまず自分でお金を集めるべきだと話しました。

比べる相手として知事が挙げたのは、県が約1000万円を出している阿波おどりと、県が1円も出していない県西部の「にし阿波」の花火大会。

 

知事は、税金の使い道は「費用対効果」を前提に説明しなければならない、とも話しています。

その費用対効果について、県などでつくる実行委員会は以前、2017年秋のvol.19の1回だけで、県内への経済波及効果(来場者が使ったお金が、県内のお店や仕事に回っていった分)を約7億3000万円と見積もっていました。

ところが知事は同じ会見で「こういった検証は今までなされてこなかったものですから」とも話しているんです。

県の持ち出しは1回あたり2000万円ほどなのに、その1回の開催で30倍を超えるお金が県内に回っていた、という見積もりが、2017年の時点ですでにあったのに。

知事は同じ会見の中で、この見積もりのことには触れていません。

「なんとかアソビ」発言は本当にあったのか

このころ、知事がマチ★アソビを「なんとかアソビ」と呼び、8000万円も出せないと言った、という話が一気に広まりました。

2024年3月に県内で開かれたプロレスの大会のあいさつで、知事がマチ★アソビの費用に触れたことが、話のもとになっています。

知事自身も3月15日の会見で、プロレスの団体はTシャツを売ったりスポンサーを集めたりして自分でお金を集めている、という話もしていました。

 

ただ、「なんとかアソビ」という呼び方や、出せないという言葉そのものを、知事が本当に言ったと確かめられる録音や報道は、いまのところ出ていません。

知事が厳しくなったきっかけ

2026年5月の徳島新聞の連載「後藤田県政3年」には、知事とマチ★アソビの関係について、次のような話が書かれています。

  • 知事は就任前、徳島を「アニメの聖地」にしたいと発信していた
  • 就任直後、ufotableの人気アニメのキャラクターを県のPRに使おうとしたが、版権(キャラクターを使う権利)などの問題で早い段階で頓挫した
  • 複数の県関係者によると、マチ★アソビへの批判が始まったのはそのころから
  • 年約8000万円の負担金を、国が約半分を出していることにも触れながら「高過ぎる」と問題視し、周囲には「なくなってもいい」と漏らしていた

ネットで「本当の理由」として語られているのは、主に3つの話。

それぞれ、いま分かっていることと一緒に見ていきます。

  • ufotableのキャラクターの件が通らなかったから=頓挫と批判の始まりが重なるという県関係者の話はあるが、2つを結びつける本人の言葉はない
  • 飯泉前知事の時代の看板事業だったから=後藤田知事が2023年の知事選で破った相手が、6期目を目指した飯泉前知事だったのは事実だが、それを狙ったと示す話は出ていない
  • 近藤社長の脱税事件があったから=時期が合わない(次の章)

知事が「民でできることは民で」という考えでマチ★アソビへの県のお金を減らそうとし、その伝え方を誤った。

はっきり言えるのは、ここまでです。

そこにキャラクターの件や前の知事への思いが混ざっていたのかどうかは、知事本人が語らない限り分かりません。

ufotableの脱税は中止の理由だったのか

反対に、知事の判断をかばう人たちは、マチ★アソビの総合プロデューサーである近藤社長の脱税事件をよく持ち出します。

  • 2020年6月=ufotableが東京国税局から告発を受けたと発表
  • 2021年7月=東京地検が近藤社長を、身柄を拘束しない「在宅起訴」で起訴
  • 2021年12月10日=東京地裁が近藤社長に懲役1年8か月・執行猶予3年(すぐには刑務所に入らない判決)、会社に罰金3000万円の判決

免れた法人税と消費税は約1億3800万円で、ufotable Cafeなど飲食店の売り上げの一部を帳簿から外していたとされています。

税金が入っているイベントの中心にいる人が、税金をごまかしていた。

そう聞けば、引っかかってしまう人がいるのも無理はありませんよね。

 

ただ、判決が出たのは2021年12月で、そのあとの2022年秋も2023年も、マチ★アソビは県の事業として開かれ続けていたんです。

この投稿では「逮捕」とありますが、近藤社長は身柄を拘束されない在宅起訴です。

それに、知事が就任直後にPRに使おうとしたのは、そのufotableのキャラクターでした。

脱税が許せないから距離を置いたのなら、同じ会社のキャラクターを県の顔にしようとはしないはずです。

知事自身も、見直しの理由として脱税事件を挙げたことは一度もありません。

民間主導で復活したマチ★アソビ

中止のあと、マチ★アソビは形を変えて戻ってきました。

  • 2024年10月5日=再開の準備として「プレマチ★アソビ」が始まり、誰でも見られる企画会議を開く
  • 2025年5月10〜11日=vol.28で1年半ぶりに本格開催(約5万8000人)
  • 2025年10月18〜19日=vol.29(約5万6000人)
  • 2026年5月16〜17日=30回目の節目のvol.30(約10万5000人)
  • 2026年10月17〜18日=vol.31(約8万6000人・前日に爆破予告が届いたが2日間とも開催)

2025年からは、県の事業ではなく、NPO法人マチ★アソビが中心になって運営していて、県はそこへ補助金を出しています。

2025年春の再開に向けて、県は2024年12月27日に最大3000万円の補助を決めました。

以前は国の補助を含めて1回あたり約4000万円でしたが、新しい補助に国のお金が入っているかは公表されていないので、県の持ち出しがどれだけ減ったのかは、はっきりとは比べられません。

はっきり変わったのは、お金の出し方と、赤字になったときに誰が心配するのか、です。

vol.28の開会式では、運営側が自分たちから、マチ★アソビは赤字からのスタートだったと明かしています。

お金を集めるために、有料の席も初めて用意されました。

 

県のお金の出し方が変わっても、徳島へ通い続けたファンと出展を続けた会社がいたから、人はまた戻ってきたんです。

後藤田知事が手のひら返しと言われる理由

マチ★アソビが復活すると、知事の態度も変わっていきました。

2025年5月16日の会見では、1年半ぶりの本格開催について、事業者との話し合いを進めたことでにぎわったと語り、秋も手伝いたいと話しています。

 

2026年5月11日には、ufotableが徳島市の歴史ある建物「旧みずほ銀行徳島支店」を買い取ったと発表しました。

銀行だった古い建物を、新しいエンターテインメントの拠点にする計画です。

そして30回目のvol.30が終わった翌日の5月18日、知事は県庁で近藤社長と面会し、そのあとXに、近藤社長の考えに感激したと投稿しました。

この投稿には「まさに手のひら返し」「つぶそうとしてましたよね。忘れませんよ」といった返信が並んだと、徳島新聞は伝えています。

2年前に「民間でやって」と突き放されたことを覚えている人からすれば、盛り上がったとたんにお礼を言われても、素直に受け取れないですよね。

 

知事は、マチ★アソビ以外のことでも厳しく見られるようになっています。

2026年10月7日、徳島県議会は知事の言動や県政の進め方を問題にして問責決議を可決し(議会として知事の責任を問う決議で、法的な拘束力はありません)、知事はその直後に、2027年春の知事選に再選を目指して立候補すると表明しました。

後藤田知事はもともと自民党の衆院議員でしたが、県議会の自民党なども10月19日に別の候補に出馬を求めると発表していて、自民党に近い人どうしが分かれて争う選挙(保守分裂)になりそうです。

 

知事が2024年3月に「反省をしたい」と言ったのは、見直しを伝えるのが遅れたことについてでした。

見直しそのものを誤りだったとは言っていませんし、2026年5月の投稿にも、2年前のことには触れないまま、感激と感謝の言葉だけが並んでいます。

お礼の前に、2年前に止めたことへのひと言が先ではないか、と謝罪を求める返信が届くのも、そのためでしょう。

2年前に突き放されたファンと運営の踏ん張りでお祭りが戻ってきたからこそ、知事から聞きたかったのは、感謝より先に「あのときは止めてしまった」のひと言なんですよね。