2026年10月17日の午後、札幌の創成川公園に、YOASOBIのボーカル・ikuraがギター1本で突然現れました。

ヒット曲の「夜に駆ける」や、NHKの朝ドラ「ブラッサム」の主題歌になっている新曲「咲き誇れ」を弾き語りする姿は、その場にいた人たちの動画であっという間に広まっています。

ところが、その日の夜になると、Xでは「YOASOBI、もしかしてチケット売れてないの?」という声が目立ちはじめます。

路上ライブを報告したikuraの投稿には、「札幌でドーム公演」と大きく書いた手書きのボードを抱えた写真が添えられていました。

世界でもライブのチケットが取れないイメージのあるYOASOBIが、手書きのボードまで用意して、自分たちのドーム公演を呼びかけている。

その姿を見て、「そこまでしないと埋まらないの?」と感じた人がいたんです。

本当にチケットが売れていないのか、それとも札幌ドームという会場がそもそもお客さんを集めにくい場所なのか、気になりますよね。

YOASOBIのプロフィールと路上ライブ

札幌ドーム公演の手書きボードを抱えるikura
引用元:幾田りら公式X(https://x.com/ikutalilas/status/2111348869045104978)
  • 名前=YOASOBI(ヨアソビ)
  • メンバー=Ayase(作曲)とikura(ボーカル)の2人組
  • 結成=2019年
  • 代表曲=「夜に駆ける」「アイドル」
  • ikuraのソロ名義=幾田りら

YOASOBIは、小説を原作にして曲を作る2人組の音楽ユニットです。

2019年のデビュー曲「夜に駆ける」が大ヒットし、2023年にはアニメ『【推しの子】』の主題歌「アイドル」が国内外で広く聴かれました。

2024年の秋には自身初の単独ドーム公演を京セラドーム大阪と東京ドームで開き、4日間で17万人を集めています。

 

そして2026年の秋からは、いよいよドーム&スタジアムツアー「超惑星」が始まります。

国内は大阪・名古屋・札幌・福岡・東京の5つのドームで、それぞれ2日ずつの全10公演。

  • 10月24日・25日=京セラドーム大阪
  • 11月7日・8日=バンテリンドーム ナゴヤ
  • 11月14日・15日=大和ハウス プレミストドーム(札幌ドーム)
  • 11月28日・29日=みずほPayPayドーム福岡
  • 12月5日・6日=東京ドーム

札幌公演を手がけるイベント会社・WESSの告知によると、YOASOBIが札幌でドーム公演をするのは、これが初めてです。

 

路上ライブは、その札幌公演のちょうど4週間前のことでした。

創成川公園では、「仕事帰りに歩いていたら」偶然その場に出くわしたという人もいました。

ikuraは路上ライブを終えたあと、自分のXでこう振り返っています。

YOASOBIの公式Xも、同じ日に「札幌公演 チケット好評発売中」と、購入ページへのリンクをつけて路上ライブを報告しました。

「チケット売れてないの?」と感じた理由

ボードの写真に加えて、公式Xが「チケット好評発売中」と書いていたことにも、首をかしげた人がいました。

一般発売は10月10日に始まったばかりで、まだ1週間しかたっていません。

それでも、人気のドーム公演といえば「一般発売の日に即完売」という印象を持っている人が多いものです。

公演まで1か月を切った時期に「まだ買えます」と呼びかけられれば、「まだ席があるの?」と思う人が出てくるのも無理はありません。

コンサドーレは、北海道のプロサッカークラブ・北海道コンサドーレ札幌のことで、ここでは「お客さんが集まらない」たとえとして名前が出ています。

 

一方で、こうした見方に眉をひそめた人もいます。

「路上をやっただけで、すぐ売れてないと考える人がいるのに驚く」「やりたいからやった、でいいじゃん」と返すファンもいます。

売れ行きとは別に、ボードを置いたこと自体を「路上やるのはいいんだけど、ドームの宣伝札まで置いたのは、ブランドイメージ損ねて逆効果な気がする」と心配する声もありました。

実際のところ、各公演にどれだけ席が残っているのかは公表されていません。

だからこそ、手書きのボードと「好評発売中」の2つだけで、「もしかして」と想像をふくらませてしまった人がいたんですよね。

そのあと2026年10月19日には、SmartFLASHが「札幌ドームチケット売れ残り」という見出しで、販売サイトでは14,000円の指定席にまだ空席がある状態だと伝えています。

ただ、これも記者が販売サイトの画面を見て書いたもので、何枚売れたのかという数字は、いまも出ていません。

札幌ドームを2日埋めるのが難しい理由

Xでは「札幌ドームは嵐くらいしか埋められない」と書き込む人までいるほどです。

大げさに聞こえますが、札幌には、遠さや帰りの電車、ホテルの取りにくさといった、大阪や東京よりも重くのしかかる事情がいくつも重なっています。

道内のファンだけでは足りない

北海道はとにかく広く、札幌ドームまで電車や車で何時間もかかる人がたくさんいます。

しかも公演は夕方に始まるので、終わるのは夜。

札幌の外に住む人は、その日のうちに家へ帰れるかどうかを考えないといけません。

JR北海道は、10月から11月にかけて札幌ドームで開かれる大きなコンサートに合わせ、札幌発・旭川行きの臨時特急を走らせると発表しています。

夜の公演のあとに道内の遠くまで帰る人のための足を、わざわざ用意するほどなんです。

11月15日の日曜公演については、「札幌の外に住む人は翌日の月曜の仕事に間に合わないから敬遠しがち」という声もXにありました。

 

道外のファンは飛行機とホテルが要る

道内のお客さんだけで埋まらない席は、本州から飛行機で遠征してくるファンが頼りになります。

ただ、その人たちにはチケット代のほかに、飛行機代とホテル代がかかります。

2026年3月の嵐のラストツアーは、札幌ドームの3日間で約15万人を集め、札幌のホテルが取りにくくなったと報じられました。

 

3週間で3組のドーム公演が続く

札幌ドームでは10月24日にNumber_i、10月30日から11月1日までの3日間にSnow Man、そして11月14日・15日にYOASOBIと、3週間で3組・6日間のドーム公演が続きます。

快速エアポートは、新千歳空港と札幌を結ぶJRの電車です。

公演の日はずれていても、秋の週末が続けて大きな公演で埋まるので、遠征する人にとってはホテルや飛行機が取りにくい時期が長く続きます。

14,000円のチケットは高いのか

Xでは札幌ドームの話と並んで、「行きたいけど1人14,000円と知って、妻と2人で絶句した」「夫婦で行ったら28,000円。昔みたいに8,800円なら行くのに」と、ひと昔前の値段を引き合いに出してチケット代に悲鳴を上げる人もいました。

 

「超惑星」のチケットは、指定席が一律14,000円(税込)です。

4歳から小学生までの子どもと一緒に申し込めるファミリーチケットでは、子どもの席が8,000円になります。

この14,000円という値段は、ツアーが発表された2026年1月の時点から、ファンのあいだで話題になっていました。

ライブの調査をしているぴあ総研によると、2025年のライブや舞台の参加者1人あたりの単価は9,286円。

14,000円は、その平均のおよそ1.5倍にあたります。

 

しかも席は選べません。

ドームの上の階になることもあります。

札幌の外から行くなら、この14,000円に交通費とホテル代が上乗せされます。

家族で行こうとすれば、1回のライブで数万円はあっという間です。

その合計を見てためらい、「行きたいけど、さすがに今回は見送る」と考える人が出てくるのも、うなずけます。

ドームのチケットが売れ残るとどうなるのか

では、もし札幌ドームのチケットが売れ残ったら、ライブを開く側にはどんな困りごとが起きるのでしょうか。

2024年の初ドーム公演の17万人は、1日あたりにすると4万人あまり。

札幌ドームでも1日4万人あまり入れる形なら、2日間で8万人を超える人にチケットを売ることになります。

仮にそのうち1万席が売れ残れば、14,000円×1万人で、1億4,000万円ぶんのチケット収入が入らなくなります。

 

空席でも費用は減らない

ところが、ライブにかかるお金は、客席の埋まり方ではほとんど変わりません。

日本経済新聞(2019年12月)によると、ライブを開くには、会場を借りるお金、ステージの機材、スタッフの人件費などがかかります。

機材の費用は、会場が大きくなるほどふくらみます。

ステージや照明は、客席が半分でも満員でも、同じものを組まなければなりません。

 

ツアーの採算を支えるのはグッズ

そこで頼りになるのが、会場で売られるTシャツやタオルなどのグッズです。

同じ日本経済新聞の記事では、業界関係者がこんなふうに話しています。

  • グッズの売り上げは、基本的にアーティストや事務所に入る。ライブ収入だけでは赤字でも、グッズが売れることで興行として成り立つケースも少なくない

アーティスト本人が、ファンに向けて「グッズがライブを支えている」と口にすることもあります。

少し前の数字ですが、ぴあの2019年の調べでは、首都圏の回答者の37.3%がライブグッズを買っていて、1年間に使う金額は平均2万2,386円でした。

開演前に長い列に並んで買うツアーTシャツが、じつはツアーそのものを支えているんです。

裏を返せば、空席が多いとグッズを買う人もそのぶん減るので、売れ残りの痛手はチケット代だけでは済みません。

 

残った席は直前に売り出されることもある

チケットが残っているからといって、公演がなくなるわけではありません。

ドーム公演では、ステージやカメラの位置が決まったあとに、機材のために空けていた場所を「機材開放席」として、あとから追加で売り出すことがあります。

ライブ好きのあいだで「直前にいい席が出ることがある」と言われているのは、この機材開放席があるからです。

公演の4週間前は、まだ席を売り切る前で、このあと機材開放席のような売り方もできる時期です。

公式Xの「好評発売中」は、その途中での呼びかけだったんです。

それでも札幌ドームで2日やる意味

「なぜわざわざ札幌ドームで2日も?」と思った人もいるかもしれません。

ただ、ライブ好きのあいだでは、札幌ドームの複数日公演こそがトップアーティストの証だと見る人もいます。

この投稿は2026年7月時点の数え方で、この秋はSnow Manも札幌ドームで3日間の公演を予定しています。

投稿の「ミセス」はMrs. GREEN APPLEのことで、2025年11月の札幌ドーム2日間は売り切れだったと、行ったファンが振り返っています。

「嵐しか埋められない」は言い過ぎで、条件の厳しい札幌でも、満員になった公演はあるんです。

 

8年ぶりの路上ライブは、もちろん宣伝でもあります。

それでもikuraは投稿の続きで、「そして今日お会いした皆さま、また再会しましょう」と、足を止めてくれた人に向けて書いていました。

 

ikuraは中学3年生のころから本格的に歌手を目指し、オーディションに「20個以上は落ちた」とテレビ番組で振り返っています。

落ちた悔しさから、ライブハウスや路上で歌い始めたそうです。

「裸の心で、また夢をみることができました」の「また」からは、路上で歌いながらデビューを夢みていたあのころに、もう一度戻れたという気持ちも読み取れます。

路上ライブの前後にも続いた北海道での呼びかけ

ikuraが北海道で動いたのは、10月17日の路上ライブだけではありませんでした。

  • 10月16日(金)=札幌のラジオ局AIR-Gの番組「イマリアル」にスタジオ生出演
  • 10月17日(土)=昼に「お天気晴れたし、なにか歌ってみようかな。わくわく。」と投稿し、創成川公園で路上ライブ
  • 10月18日(日)=YOASOBIとコラボしたお菓子を出す北海道の菓子メーカー・わかさいも本舗が「幾田りらさんが新千歳空港店に遊びに来てくださいました」と報告し、店でサインを書くikuraの写真も投稿

YOASOBIの公式Xはラジオのあと、前回のホールツアー「WANDARA」以来の北海道について、「北海道の地に戻って来れて嬉しいです」と書いています。

 

ただ、ドームツアーに合わせた呼びかけは札幌だけではありません。

大阪と愛知では、ikuraとAyaseがそれぞれ監修したコラボドリンクが、ドームツアーを記念してカフェで売られています。

北海道の銘菓とのコラボも含めて、行く先々の土地でファンを迎える準備は、ツアー全体で進められているんです。

 

路上ライブの数時間後には、ikura本人がこんな一言を投稿しています。

そして10月18日になると、ファンの側からも、札幌ドームへ足を運んでほしいと呼びかける声が出てきました。

「売れてないの?」と首をかしげた人がいたのも、札幌ドームの2日間が、YOASOBIでも楽に埋まるとは言い切れない舞台だからです。

だからこそ、ギター1本で街に立つikuraの姿に、あれだけ多くの人が足を止めたんですよね。