5連休の最終日だった2026年9月23日の夜、「1億2000万人のありがとう 歌の感謝祭」で、8人組のtimeleszが熱海の花火をバックに新曲の「消えない花火」を歌いました。

ところが、花火を背にしたロケ映像に並んでいたメンバーは7人だけ。

傷害の疑いで逮捕されたメンバーの猪俣周杜の姿は、どの場面にも見当たりませんでした。

「消えない花火」の中で、猪俣だけが消えていたのです。

歌割り(メンバーごとに歌うパートの割り振り)のところで画面いっぱいに花火が映るたび、これってAIなの、それともカット割り、と思わずテレビ画面に目をこらしてしまいますよね。

ここまできれいに消せるなら、不祥事があっても番組を降りずに済む時代が来るのでは、とつい思えてきます。

ただ、テレビの画面から姿は消えても、あの特徴的な歌声だけは最後まで残っていました

歌の感謝祭から消えた猪俣周杜

timeleszの出番は冠番組の「timeleszファミリア」と組んだコラボ企画で、フランス・カンヌの花火の大会で最高賞を受けた花火師たちが、2000発の花火を打ち上げています。

大輪の花火が広がるその夜空の前で、浴衣姿のメンバーが新曲を歌い上げるという内容です。

コーナーの中では、メンバーが花火師とパソコンの画面越しに打ち合わせをする様子も流れ、「僕らも全力でパフォーマンスします」と意気込む場面も。

収録は2026年8月12日、静岡県熱海市で開かれた「伊豆多賀温泉海上花火大会」の夜で、このときはまだ誰も欠けていない8人のtimeleszでした。

 

それから1か月あまりたった2026年9月19日、猪俣周杜が、知人女性の顔を殴ってけがをさせたとして傷害の疑いで逮捕。

所属事務所は謹慎と活動休止を発表し、本人は取り調べに対して容疑を否認していると報じられました。

放送前には、日本テレビから、timeleszの出演部分は「一部を変更して放送する予定」というコメント。

出演そのものは取りやめず、中身を変えて流すという判断です。

 

当日の放送では、メンバーのうち菊池風磨・原嘉孝・橋本将生がスタジオに顔を見せ、熱海のロケ映像が流れました。

逮捕から放送まではわずか4日で、しかも連休の真っただ中。

そのわずか4日という短いあいだに、コーナーまるごとの映像から1人だけを消す作業が進められていたことになります。

AIで消したのかカット割りなのか

日本テレビは、いったいどうやって映像を作り変えたのか、詳しい手の内までは説明していません。

放送をじっくり見返すと、初見ではまったく気づかないほど自然なところと、画角が少し無理やりに見えるところが入りまじった仕上がり。

ただ、実際の放送で目についた違和感のある場面をつなげていくと、いくつもの編集の技を泥臭く組み合わせていたことが見えてきます。

 

映っていないカメラを選ぶ

まずは、画面の中に猪俣が映っていないカメラの映像だけをつないでいく、編集としてはいちばん基本のやり方。

テレビ番組のプロデューサーによると、バラエティの収録ではカメラを5台ほど同時に回すことが多く、消したい人が映っていない映像だけを選べば、その人がいた痕跡まで消せるのだそう。

花火のロケも、花火とメンバーをいろいろな角度から撮っていたはずで、今回の放送ではメンバーに寄った画が中心になり、全員が横一列に並ぶような引きの画はほとんど出てきませんでした。

 

歌割りに花火を差し込む

猪俣が歌うパートが回ってくるたびに、不自然なほどすっと画面が夜空の花火に切り替わっていたんですよね。

夜空が映っているあいだも、歌そのものは途切れずに流れたまま。

 

画面の端を切り落とす

花火師との打ち合わせの場面では、誰かがいたはずの映像の右側が、ばっさり切れていたんです。

広く撮った映像の一部だけを切り取ってグッと大きく引き伸ばせば、端にいた人を画面の外へ追い出せる、いわゆるトリミングという方法。

切り取ったぶん画面は少し窮屈になりますが、端にいた人の姿はもう映りません。

 

AIで背景ごと塗りつぶす

それでも、単なるカメラ選びと画面の切り取りだけでは、どうしても説明がつかない場面がありました。

数少ない引きの画のひとつ、花火を背に、建物の屋上のような場所で浴衣姿のメンバーが一列に並んで歌う場面でも、そこに立っていたのは確かに7人だけだったんです。

では、AIで人を消すというのは、実際にはどういう仕組みなのでしょうか。

旅先で写り込んだ通行人を指でなぞるだけでサッと消せる便利な機能が、いまはスマホの写真アプリにも普通に入っていますよね。

動画で人を消す仕組みも、考え方は同じで、消したい人がいる場所の背景を、前後のコマで同じ場所が見えている瞬間から借りてきて埋めていきます。

カメラが少し動いたり、人が立ち位置を変えたりすれば、隠れていた背景が別のコマに映るので、それを1枚ずつ貼り合わせていく仕組み。

プロ向けの動画編集ソフトには、もう何年も前から、消したい人をざっくり囲むだけでAIが背景を埋めてくれる機能が入っていて、それまで職人が1コマずつ手で塗り直していた気の遠くなるような手間が一気に減っています。

 

ただ、スマホで手軽に人を消したスナップ写真も、拡大してよく見ると背景の直線が少しにじんでいたり、ゆがんでいたりしますよね。

テレビの映像は1秒のあいだに何十枚もの絵がパラパラ漫画のように続くので、そのすべてで背景を自然に埋めるには、止まった写真1枚とは比べものにならない膨大な手間がかかります。

特に、消したい人の手前を別のメンバーが横切ったり、浴衣の袖が重なったりする場面では、隠れていた背景をどのコマからも借りてこられません。

そうした場面ほど、最後は編集する人がパソコンの画面に目を凝らしながら、1コマずつ手作業で直していくことになります。

この屋上の場面で最先端のAIが使われたのか、それとも立ち位置を変えて何人かずつ撮ったカットがもともとあったのかまでは、真相は分からないまま。

消えずに残った猪俣周杜の歌声

8人で歌い分ける曲なので、猪俣のパートだけを無音にすれば、曲の途中にぽっかり穴が空いてしまいます。

熱心なファンなら誰がどこを歌うかの歌割りまで覚えているので、声が聞こえた瞬間に、ここは猪俣のパートだとすぐに分かってしまうもの。

ほかのメンバーがスタジオで歌い直す手もありますが、ロケの映像に合わせて歌を録り直すのは、スケジュールの面でもほとんど新しく作り直すのと変わりません

 

楽器の音と歌声を分けるくらいなら、いまのAIにとっては朝飯前。

けれど、同じメロディーを何人もで重ねて歌った声から1人ぶんだけを抜き取るのは、あの映像から人を消す作業よりずっと手ごわい、至難の業。

だから画面は7人でも、耳に届いていたのは8人のままのハーモニーで、姿は見えないのに声だけが聞こえる、ファンにはいちばんつらい放送になってしまいました。

一度きりだった熱海の花火

そもそも、なぜここまでして放送したのでしょうか。

現場にとっていちばん大きかった理由は、夜空に打ち上がったあの花火が二度と撮れないものだったことだと思います。

伊豆多賀温泉の海上花火大会は、暗い海の上から花火を豪快に打ち上げる地元の夏の行事で、番組は大会の全面協力を得て、この企画を組んでいました。

 

お蔵入りにすれば、町が協力してくれた花火も、花火師たちとの打ち合わせも、テレビで流れないまま終わってしまいます。

あの熱海の夜の花火と、まだ8人だったtimeleszの姿は、もう二度と撮り直せません。

自分たちの冠番組と組んだ大がかりな企画ですし、何より残された7人のためにも、この美しい映像はお蔵入りにせず届けたかったはずです。

ただ、逮捕からまだ日が浅く、猪俣は勾留されたまま、けがをした女性がいる事件の中身もまだ捜査の途中。

そのタイミングで「ありがとう」を歌う番組に同じグループが出ることを疑問に思う声は、放送の前から上がっていました。

テレビ局や現場の苦しい事情が痛いほど分かるだけに、本当に今でよかったのかと、放送のタイミングにはどうしても引っかかりが残るんですよね。

消せるなら番組辞退はいらないのか

デジタル技術で映像から1人を消せるなら、不祥事があってもタレントは番組を降りずに済むのか。

今回それができたのは、いくつかの条件がそろっていたからです。

  • グループで出ていて、1人を映さなくても場面が成り立つ
  • 収録済みの映像
  • 放送まで数日あり、編集をやり直す時間があった

どれか1つでも欠ければ、消すという手は使えません

生放送ならその場で映ってしまいますし、1人で出る番組なら、その人を消した時点で番組そのものが成り立たなくなります。

 

ドラマは撮り直すしかなかった

2019年には、それぞれの出演者の逮捕を受けて、NHKの大河ドラマ「いだてん」と「麒麟がくる」が続けて代役を立てての撮り直しになり、翌2020年1月に始まる予定だった「麒麟がくる」は初回が異例の2週間遅れとなりました。

ドラマの物語の中の役は、消してしまうと話がつながらないので、スタジオのセットを組み直し、出演者の予定を合わせて、場面ごとに撮り直すしかなかったんです。

消すという手が使えるのは、何人かで並んで歌ったり話したりしている場面だけで、グループで出る歌番組だったから、7人での放送が成り立ったわけです。

 

それに、グループとして歌番組に出ることはできても、猪俣が単独で出ていたCMは、日清食品のチキンラーメンや紳士服のAOKIなど、逮捕が報じられた当日から次々に止まりました。

逮捕のあとに放送された冠番組の「timeleszファミリア」も、画面の冒頭に「内容を変更してお送りします」とテロップを出して、猪俣の映る場面を削っています。

技術的にどれだけきれいに映像から消せても、番組やスポンサーが「いまは流さない」とシビアに決めれば、結局はその場面は流れないんですね。

 

消して流すなら欲しかったひと言

番組を降りずに、映像から消して流す。

その道を選ぶなら、見る側には先に伝えてほしいことがありました。

実際、同じ週に流れた菊池風磨のラジオ番組「菊池風磨 hoursz」(TOKYO FM)は、逮捕の前に収録した回を流すにあたって、放送の最初に「8月下旬に収録したもの」と丁寧な断りを入れています。

まだ8人がそろっていた夏の映像だとあらかじめ分かったうえで見るのと、いつ撮った映像なのかを知らされずに画面と向き合うのとでは、お茶の間の受け止め方もずいぶん違ったのかもしれません。

7人の映像に残ったモヤモヤ

私も画面の中の7人の浴衣姿を見ながら、花火をきれいだと思う気持ちと、やりきれない気持ちを、どちらも手放せずにいました。

声だけでも聴けてよかったと胸をなでおろすファンもいれば、声が聞こえるからこそ苦しかった人もいて、同じ「消えない花火」という1曲でも、受け取り方はまるで違います。

7人での放送を喜ぶ声の奥には、残された7人の仕事まで奪わないでほしいという願いもあるのでしょう。

それでも、どこか落ち着かない。

落ち着かないのは、画面から消えたのが1人の姿だけで、起きたことまでは消えていないと、見ている側がちゃんと知っているからでしょうか。