「石原さとみがここまでやるのは、創価学会が完全に自民党と切れたということか」。

2026年10月21日の夜10時41分、石原さとみ主演のドラマ『ポリティカルパン』(フジテレビ系)の第3話が放送されている最中に、作家の中川右介がXにこう書き込みました。

石原さとみと創価学会の関係は、ネットでたびたび語られてきました。

投稿は、その石原さとみが与党の金を盗む役を演じていることを、学会が支える公明党と、長く組んできた自民党の関係に重ねたものです。

返信欄には、受け止め方の違う声が並んでいます。

  • 「そうです、パーフェクトな意見です」とうなずく声
  • 「石原さとみが何をやったんですか?」と首をかしげる声
  • 「公明党は自民党ととっくに袂を分かっておりますが」と返す声

「ここまで」と言われたこの回で描かれたのは、選挙のさなかに流された中傷動画と、それを作っていた会社が与党の議員たちに使われていたという筋でした。

ドラマ評を書いているライターの田幸和歌子も、追っかけ再生で見たあとにこう書いています。

では、これは学会と自民党が切れたサインなのか。

その答えは、この役が誰のどんな言葉から始まったのかをたどると見えてきます。


「ここまでやる」第3話の中身

『ポリティカルパン』は、10月7日に始まったフジテレビの水曜夜10時のドラマです。

脚本は『アンナチュラル』『MIU404』の野木亜紀子のオリジナルで、石原さとみが演じるのは、政治の世界に潜り込んで使い道の見えない「政治の金」を盗む女怪盗・如月弥生。

舞台は日本によく似た架空の国「ニッポニア」で、与党の名前は「国自党」です。

弥生とだまし合いをする国自党の金庫番の議員・夏目将門を高橋一生が、弥生が国会議員に仕立てる元総理の娘・小早川雅を河合優実が演じています。

 

雅を叩いた動画の出どころ

第3話「怒り」の弥生は、当選した雅の秘書になっています。

話が動くのは、選挙のあいだSNSで雅をくり返し中傷していたアカウントについて、持ち主を明らかにするよう弁護士を通じて求める「開示請求」を、弥生がかけるところからでした。

動画サイトに大量に上がっていた中傷動画の出どころをたどると、仕事を頼みたい人と受けたい人をつなぐサイトで、作り手が募集されていたことがわかります。

引き受けていたのは、政治の考えよりもお金のために動く人たち。

この回に神崎という役で出演した坂口涼太郎も、放送の直後に、自分の役に重ねてこう問いかけています。

放送後のマイナビニュースのまとめによると、その募集の裏にいたのはインターネット広告会社の「ポンズネクスト」で、多くの国自党議員がこの会社を使っていて、社長は党の事務局長の親戚だったそうです。

 

 

現実の裁判と重なる名前

田幸和歌子の投稿にあった「Dappi」「ワンズクエスト」は、現実の裁判に出てくる名前です。

匿名のXアカウント「Dappi」が野党の議員を中傷していたとして、議員たちが東京都内のIT企業「ワンズクエスト」を訴えた裁判でした。

2023年10月16日、東京地裁は投稿を会社の業務として行われたものと認めて220万円の支払いを命じ、判決はそのまま確定しています。

ドラマの「ポンズネクスト」は、この会社を思わせる名前です。

石原さとみが「ここまでやる」と言われたのは、こうした現実の出来事を思わせる話を、主演として真ん中で背負っているからなんですね。


公明党は1年前に自民と別れた

では、投稿の後半の「創価学会が完全に自民党と切れた」はどうでしょう。

創価学会は、公明党の支持母体として知られる宗教団体。

その公明党と自民党は、このドラマが始まる1年前に、連立を解消しました。

返信欄にあった「公明党は自民党ととっくに袂を分かっておりますが」という声は、このことを指しています。

 

26年続いた協力の終わり

2025年10月10日、公明党の斉藤鉄夫代表は、自民党の高市早苗総裁に連立から離れると伝えました。

1999年から、自民党が野党だった時期もはさんで26年続いた協力の終わりで、理由は「政治とカネ」をめぐる考えの違いだったと報じられています。

自民党の広報アカウントも、その日のうちにこう発表していました。

公明党はその後、2026年1月に立憲民主党と新党「中道改革連合」をつくり、衆院選を戦いました。

その新党は9月に解体が決まりましたが、公明党は自民党との連立には戻っていないと報じられています。

しかも、支持母体の創価学会も1月には、その新党を支持すると公式サイトで発表していました。

学会が支える公明党が自民党と切れたことは、ドラマが始まる前から公の記録に残っているんです。

それなら、切れたからこそ、この役を引き受けられたのか。

そこは、役がどう決まったのかを見ないと分かりません。


決め手は野木亜紀子との再会

この役がどう決まったのかは、放送が決まった8月19日に作り手と本人が出したコメントと、放送前のインタビューで明かされています。

本人はその日のコメントで、野木亜紀子から話を聞いたときのことを「叫びたくなるほどうれしく涙が出ました」と書いていたほどです。

ただ、並べてみると、最初に動いたのは石原さとみではありませんでした。

 

題材を決めたのはプロデューサー

「政治の金」を題材にしようと言い出したのは、フジテレビのプロデューサーの北野拓で、「この国ではタブー視されている“政治の金”をテーマにした物語を、脚本家の野木亜紀子さんに書いてほしいとお願いしました」とのこと。

そして頼まれた野木亜紀子は、「ふざけた舞台の真ん中に降り立つのは誰か。真っ先に思い浮かんだのが石原さとみさん」とコメントしています。

題材が先で、主演はそのあと。

弥生は、野木亜紀子が石原さとみを思い浮かべて書いた、いわゆる「当て書き」の役だったわけです。

なお、2018年のTBSのドラマ『アンナチュラル』以来、8年ぶりの組み合わせでもありました。

「泥棒」と知ったのは再会のあと

本人は、9月23日に公開されたモデルプレスのインタビューで、話を聞いたときのことをこう振り返っています。

「野木さんとご一緒することが決まった直後にお話するタイミングがあって何の作品なのか伺うと、『泥棒』だと教えてくださいました」

政治のお金を盗む話だと知り、企画書を受け取ったのは、「泥棒」と聞いたあとだったそうです。

 

もちろん、いまは題材を承知のうえで演じていて、10月7日に開かれた試写会では、この作品を「政治と金という攻めたお話」と呼んでいます。

そのうえで、この役を「挑戦」だとはあまり感じていないと前置きして、こう話していました。

「ずっとお願いし続けて、願ってきた野木さんとご一緒できることが本当に嬉しくて」

ただ、作り手と本人が明かしているいきさつの中に、学会や政党の話は一度も出てきません。


架空の国ニッポニアの役目

中川右介の投稿の返信欄には、こんな声もありました。

「舞台設定から日本としていないし(ニッポニア)めちゃくちゃ安全圏にいますよ」。

日本を舞台にしていないぶん、作り手は安全なところにいる、という見方です。

いっぽうで、架空の国にしたからこそ書けることがある、と受け取ったドラマ評論家もいます。

 

官房機密費を「執拗に」

木俣冬は、初回の放送直後に、架空の国という作りをこう受け止めていました。

官房機密費は、使い道が公表されない政府のお金で、弥生が「お宝」として狙っているのも、首相官邸の金庫にあるこのお金です。

第1話を見た人の中には、官房機密費のほかにも、世襲の議員の多さや、女性議員の少なさ、任期の途中での解散まで「1話で全部詰め最高!」と書き出していた人もいました。

当の野木亜紀子は、放送決定のコメントで、架空の国という舞台について「そこそこふざけてます」と書いています。

 

 

構造を書く脚本家

沖縄の米軍基地と性暴力を描いたWOWOWの『フェンス』(2023年)は、公式サイトによるとギャラクシー賞テレビ部門の大賞を受けた作品で、『ポリティカルパン』と同じく北野拓と組んだドラマでした。

2024年8月に公開されたキリンのウェブメディア「KIRINto」のインタビューでは、野木亜紀子は「社会問題のほとんどは構造の問題なので」と話しています。

第3話でも、描かれたのは国自党だけでなく、お金のために中傷動画を作る人や、その仕事を回すサイトまで含めたしくみでした。


何に怒るかは自分で決める

残るのは、投稿の前提にあった石原さとみと学会の関係です。

石原さとみ本人が、インタビューや会見、自分の発信の中で信仰について話した記録は見当たりません。

ネットで語られてきたつながりも、本人の言葉では確かめようがないのが実情です。

そのかわり第3話には、弥生が自分の怒りについて言い切る場面がありました。

 

第3話「怒り」のセリフ

放送のあと、複数の視聴者が書きとめていたのが、このやりとりです。

与党の金庫番として怒りたいことにも怒れない夏目に、弥生は「何に怒るかくらい自分で決める」と返していました。

学会と自民党が切れたサインというより、何に怒るかを自分で決める女怪盗を、石原さとみがずっと願ってきた脚本家のもとで演じている、ということですね。