昔行ったコラボカフェの公式サイト、ブックマークやパスワードの保存一覧に、まだ残っていませんか。

2026年10月21日の夜、パスワードを見直していた人が、その一覧の中で妙なものに気づきました。

ゲーム『ヘブンバーンズレッド』(ヘブバン)のコラボカフェが使っていたアドレス、heavenburnsred-cafe.jp。

いまそこを開くと出てくるのは、「パパ活ヘブンズ」という名前のパパ活アプリの比較サイトです。

翌22日の朝には検索結果の画面がネットで広まり、「ヘブバンカフェがパパ活カフェにw」と笑う声に、「あーあ」と肩を落とす声も混ざりました。

 

カフェはもう閉まっているのに、なぜアドレスだけが別の誰かの手に渡ったのか。

そしてなぜ、名前に「ヘブン」を残したパパ活サイトになったのか。

アドレスの記録をさかのぼると、そのいきさつがかなりはっきり見えてきます。


公式カフェのアドレスの4年

笑ってしまう話ではあるんです。

でも、実際にカフェへ足を運んだ人や、限定のグッズを通販で買った人にとっては、話が少し違います。

思い出の場所の看板が、ある日いきなり掛け替えられていたようなものなので、さすがに複雑ですよね。

期間限定のカフェが最後に開かれたのは2年前の夏で、そのあいだに、このアドレスの持ち主は入れ替わっています。

 

3回の期間限定カフェ

期間限定のヘブバンカフェが最初に開かれたのは2022年5月、ゲームの配信が始まってまだ3か月ほどのころでした。

東京の池袋と大阪の梅田で、主人公たちの部隊の名前を付けた「31Aランチプレート」や「謎の生命体モンブラン」など、ゲームの場面を思い出させるメニューが並んだそうです。

その後も、1周年の2023年2月には東京・名古屋・大阪で、2024年8月には「海の家」をテーマに池袋と梅田で開かれています。

予約もメニューも通販も、案内の入口は3回とも heavenburnsred-cafe.jp。

1周年のカフェには、ゲームで水瀬いちごの声を担当している愛美も、出演者仲間と足を運んでいます。

ムービーが流れる店内で、ゲームの話をしながらメニューを食べる。

あのアドレスの奥には、そういう時間が何年ぶんも積み重なっていたわけです。

 

5月1日の新しい持ち主

インターネットの古いページを保存している「ウェイバックマシン」という記録サービスには、このアドレスの昔の姿が残っています。

カフェの案内が残っている最後の記録は、2024年9月の「海の家」のページ。

2025年4月以降の記録では、ページに閲覧の制限がかかっていて、中身はもう見られなくなっていました。

そして、.jpのドメインを管理しているJPRS(日本レジストリサービス)の登録情報では、いまの登録日は2026年5月1日になっています。

  • 2022年5月 1回目のヘブバンカフェ(池袋・梅田)
  • 2023年2月 1周年のカフェ(東京・名古屋・大阪)
  • 2024年8月 「海の家」のカフェ(池袋・梅田)
  • 2025年4月 サイトに閲覧の制限がかかり、中身が見られなくなる
  • 2026年5月1日 いまの持ち主がドメインを登録
  • 2026年8月23日 「運営者情報」などのページができる
  • 2026年9月9日 パパ活アプリのランキングのページができる

気になるのは、この5月1日という日付。

JPRSの決まりでは、.jpのドメインは廃止されると、その翌月のまる1か月が凍結の期間になり、その月が終わった翌日から誰でも登録できるようになります。

凍結が明けるのは、いつも月の初日。

つまり、5月1日の登録は、空いたその日に取られた形とぴったり重なるわけです。

JPRSは、こうして再び登録できるようになる瞬間を狙って取ることを「ドロップキャッチ」と呼び、注意を呼びかけています。

ハッキングで乗っ取られたわけではなく、サイトを閉じたあとも1年ほど持ち続けられたアドレスがこの春に手放され、空いたところを次の人が正規の手続きで登録したとみてよさそうです。


名前を残したパパ活サイト

「よりにもよってパパ活とは…」という声も上がりました。

ゲームとは何の関係もないパパ活のサイトが、なぜコラボカフェのアドレスを使っているのか、ふしぎに思った人も多いはずです。

このアドレスが選ばれたのには、理由があります。

まっさらなアドレスには無い財産が、このアドレスには最初から付いていたからです。

 

古い記事がまだ指している

ヘブバンカフェが開かれるたびに、ファミ通や4Gamer、電撃オンラインといったゲームの大手ニュースサイトが記事を出しました。

そうした記事はいまも残っていて、どれもheavenburnsred-cafe.jp へのリンクを載せたままです。

そして検索エンジンは、信用のあるサイトからリンクされているページを「ちゃんとしたサイト」と見なして、上に出しやすくするもの。

JPRSも、廃止したドメインでも「他のWebサイトからのリンクや、検索エンジンによるドメイン名の評価に関する情報は残り」、関係のない第三者に登録されて悪用されるおそれがある、と注意しています。

大手の記事からいくつもリンクを張られた公式サイトのアドレスなら、ゼロから何年もかけて集める信用を最初から手に入れられるんです。

 

競売に並ぶ公式のアドレス

こうして使い終わったアドレスは「中古ドメイン」と呼ばれ、実際に売り買いされています。

有名人の公式サイトでも同じで、大手のドメイン会社の競売ページに、浅田真央の公式サイトだったアドレスが「アフィリエイトサイトに」というおすすめ付きで並んでいたことがありました。

画面には、ほかのサイトから張られているリンクの数まで書かれています。

中古ドメインの値打ちを決めているのは、その数。

 

今回のサイトも、パパ活アプリのランキングの表から、それぞれのアプリの公式サイトへ案内する作りになっています。

こうした比較サイトは一般に、紹介した先で登録してもらえると報酬が入るアフィリエイトの仕組みで成り立っていて、競売の画面にあった「アフィリエイトサイトに」は、この使い道のことです。

しかも、公式のアドレスがパパ活の比較サイトになった例は、ヘブバンが最初ではありません。

セキュリティ研究者のブログが2026年8月に、名古屋市の支援金の案内サイトと宮崎県のプロジェクトのサイトだった古いアドレスが、どちらも「パパ活」関連アプリの比較・紹介サイトになっていたと伝えています。

 

新しいサイトの運営者情報のページでは、サイト名の欄に、heavenburnsred-cafe.jp とは別のサイトの名前が書かれていました。

同じ運営者が、ほかのサイトのひな形をそのまま使っているようです。

検索の信用を目当てに集められたアドレスのひとつと見るのが自然だと思います。

名前の「パパ活ヘブンズ」も、ゲームとは関係なく、もとのアドレスの「heaven」に寄せて付けた看板なのでしょう。

その「ヘブン」の残り方こそ、ネットで「ちょっと原型残してるのが尊厳破壊過ぎて最悪」と言われたところでした。


手放されたカフェのアドレス

「キャンペーン終了後もドメインだけは抑えておけと…」「なんでドメイン抑えとらんねーん!!!」という声も上がっていました。

ここは、いちばん文句を言いたくなるところですよね。

矛先を向ける前に、このアドレスを使っていたのが誰だったのかを確かめておきましょう。

 

カフェを運営していた会社

カフェのサイトに載っていた個人情報の取り扱いの名義は、「株式会社エルティーアール」でした。

コラボカフェの企画と運営をしている、CLホールディングスの子会社です。

ゲームを作って運営しているWFS(Wright Flyer Studios)とは別の会社で、ゲームそのものの公式サイトは heaven-burnsred.com という別のアドレスにあり、こちらは今も変わらず動いています。

ドメインの登録者の名前は伏せられているので、エルティーアールとWFSのどちらの名義だったのかまでは、外からは分かりません。

確かなのは、カフェのために取ったアドレスが、カフェを終えたあとに手放されたということです。

10月22日の時点で、エルティーアールからもWFSからも、この件についてのお知らせは見当たりませんでした。

 

守る手はあった

このトラブルを防ぐいちばん確かな方法は、とても地味です。

JPRSは「トラブル防止に最も有効な対策はドメイン名登録の継続」と書いていて、ネット詐欺の対策に取り組むフィッシング対策協議会のガイドラインも、サービスが終わってから最低10年程度は持ち続けてから廃止するといった対策を挙げています。

自治体でも、名古屋市が2026年3月に、閉じたサイトのアドレスを3年間は持ち続けると決めました。

 

たしかに、カフェのサイトに閲覧の制限をかけたところまでは、きちんと後片付けをしていたように見えます。

それでも、アドレスそのものは手放されました。

ゲームやアニメの公式サイトでも、同じことが続いています。

2025年7月にはゲーム『BLUE REFLECTION SUN/燦』の終わったサービスの公式サイトが、2025年12月にはアニメ『温泉妖精ハコネちゃん』の昔の公式サイトが、それぞれオンラインカジノへ誘うページにされたと報じられました。

音楽の世界でも、ボーカロイドで曲を作るボカロPのNeruが、同じボカロPのトーマの公式サイトについてこう書いています。


手元に残った古い入口

カフェのサイトは閉じても、そのアドレスはファンの手元やネットのあちこちに、まだ残っているんです。

ブラウザのブックマーク、パスワードの保存一覧、届いた予約確認のメール、そしてニュースサイトの古い記事のリンク。

どれも、開けばいまはパパ活サイトにつながります。

公式の名前が付いたアドレスなので、開く前に疑う人はまずいません。

 

パスワードとブックマーク

ヘブバンカフェのサイトには会員登録とログインの機能があり、予約や通販のために登録した人も多かったはずです。

ブラウザやスマホのパスワード管理はアドレスごとにパスワードを覚えているので、このアドレスの登録が今も一覧に残っていることがあります。

冒頭の、パスワードを見直していた人が気づいたのも、この一覧でした。

いまのパパ活サイトにログインの画面はありませんが、持ち主が変わったアドレスの登録を残しておく理由もありません。

  • パスワードの保存一覧から heavenburnsred-cafe.jp の登録を消す
  • ブックマークに残っていたら消す
  • カフェから届いた昔のメールに返信しない

囲みの3つ目は、メールの届け先を決めるドメインの設定にかかわる話。

その設定を調べると、このアドレスのメールの受け口は、いま新しい持ち主のサーバーを向いています。

つまり、昔のカフェのメールに返信すると、届く先はもうカフェではないということ。

 

早い者勝ちの空き地

凍結が明けたアドレスは、早い者勝ちで誰でも登録できるもの。

取るのがパパ活サイトのこともあれば、ファンのことも。

今回は、先に取ったのがパパ活サイトの側でした。

いまの持ち主の登録期限は2027年5月31日で、少なくともそれまではこのアドレスはその人のもの。

しかもフィッシング対策協議会のガイドラインには、元の持ち主だったというだけで取り戻すのは「極めて難しい」とあります。

 

開けばメニューやグッズのページが出てくるはずだったアドレスで、いまはパパ活アプリのランキングが読まれています。

カフェを閉じたあともアドレスだけは持ち続けていれば、こうはならなかった。

そこはやっぱり、惜しかったと感じてしまいます。

笑ってしまうのに少しさみしいのは、行った人にとってあのアドレスが、まだヘブバンカフェの入口のままだったからかもしれませんね。