愛知・名古屋アジア大会の運営がここまで荒れているのは、裏に利権があるからではないか。

そう感じている方は、けっこう多いと思います。

2026年9月19日の開幕から、宿も送迎も中継も足りないまま進んでいますからね。

出ている疑いは、大きく3つ。

  • 税金の行き先
  • 外国企業の受注
  • 報じられない理由

大会の経費は、2016年に招致したころの計画のおよそ1000億円から、いまは3700億円まで膨らんだと組織委員会が説明しています。

その使い道は、愛知県議会の議事録と組織委員会が公表している資料に、金額も相手も選んだ理由まで書かれていました

入札にかけていない630億円

ネットで囁かれる1つ目の疑いは、私たちが納めた税金の行き先。

なかでも名前が挙がるのが、大会の運営を請け負った会社の選ばれ方です。

ネットの怒りの矛先は、裏で入札を通した誰か。

ところが公文書を見ると、この630億円の契約はそもそも公の入札にかけられていません

 

競技会場の設営と運営をおよそ630億円という巨額で請け負ったのは、フランスに本社があるGLイベンツの日本法人でした。

仮設のスタンドやテント、会場の看板や仕切りまで、競技の舞台そのものを組み立てて動かす仕事です。

組み立て途中の仮設観客席と積まれた足場のパイプ

630億円を受注したのが日本法人で、スポンサーになっているのは海の向こうの親会社。

2025年12月18日の愛知県議会・教育スポーツ委員会の場で、この会社をどうやって選んだのかが議員から質問されました。

議場でマイクを握った県の担当者の答えがこれです。

  • 親会社であるGL events SAが両大会のプレステージパートナーであることから
  • 組織委員会契約規則第20条第14号に基づく随意契約の候補者として選定
  • 組織委員会理事会での承認を得て契約を締結

両大会というのは、秋のアジア大会とアジアパラ大会のこと。

プレステージパートナーは大会の最上位のスポンサーで、随意契約は公の競争入札をせずに相手を決めて結ぶ契約を指します。

つまり、協賛金を出している会社の子会社だから競争にかけずに選んだ、という説明。

 

契約のルールを持っているのは愛知県でも名古屋市でもなく、役所である県や市とは別の公益財団法人である組織委員会が、契約規則も自前で作っています。

原則として競争入札が要る県のルールとは別物で、どんな場合に競争を省けるかも自分たちで決められる形です。

組織委員会のサイトの入札・契約関係情報というページには、契約規則の全文がPDFで置いてありました。

第20条には競争入札を省いてよい場合が15通り並んでいて、その14番目がこれです。

  • スポンサー又はサプライヤー契約上、特定の相手方と契約する必要があるとき。

協賛するかサプライヤーになれば、競争を省いてよい

 

親会社のGL events SAは世界20か国以上で巨大なイベント事業をやってきた会社ですから、実績そのものは現場に十分にあるでしょう。

県は2025年9月2日の県議会で、個別に発注すれば700億円かかるところを一体で頼んだので630億円に抑えられた、と説明しました。

それでも、海外での実績があることと国内で競争にかけなかったことは全く別の話ですよね。

契約の根拠になったのは、組織委員会が自分で作った規則の第20条第14号でした

全額が入っていない協賛金22億円

大口のスポンサーだから競争にかけない。

世間一般のビジネスでそれだけなら、よくある優遇の話で済みます。

ところが同じ愛知県議会の質疑で、その前提が早くも崩れていました。

スポンサー側が納めるはずの協賛金22億円は、2025年12月の時点で全額は口座に入っていないと答弁されています。

具体的に何億円足りないのかまでは、公表されていません。

 

随意契約にした理由がスポンサーであることなのに、肝心のそのスポンサー料が手元に届いていない。

しかもこの日本法人は、大阪・関西万博の海外パビリオン建設で下請けへの代金が支払われていないと報じられ、その下請け業者と係争中だと県議会でも質疑が出ました。

現場の下請けの会社が代金を受け取れないまま、夢洲(ゆめしま)の工事だけが先に進んだという話です。

訴えが起きているのはセルビア館とドイツ館、ルーマニア館、マルタ館の4つで、2025年10月の時点で争われている金額は合わせて5億7000万円あまりでした。

日本共産党の県議団は2025年12月に契約の白紙見直しを申し入れ、全国商工団体連合会も2026年9月に組織委員会へ出向いて監督を厳しくするよう求めています。

それでも契約は何事もなく続きました。

 

お金の流れも、同じ委員会の資料にしっかり出ています。

県がいったん組織委員会へ負担金として渡し、そこからGLイベンツへ支払われる形。

2025年12月の県の補正予算では、国際スポーツ推進事業費のおよそ64億8000万円が全額この会社への委託に充てられました。

同じ補正予算に載っている組織委員会負担金からも、およそ141億9000万円が同じ会社へ回ります。

この2つを合わせた206億円を超える大金が、630億円の契約のうち議会のわずか1回の補正で一気に組まれた計算です。

主催者の手元に入るはずの22億円は届かないまま、出ていく206億円の支出だけが先に決まっています

決めたのは組織委員会の理事会

では、その随意契約にハンコを押して通したのは誰なのか。

公益財団法人のこうした大きな契約は、幹部の理事会にかけて承認を取る決まりです。

大会の現場を実際に回すのが組織委員会で、その上にアジア全体の大会を仕切るアジア・オリンピック評議会(OCA)がいます。

その組織委員会の会長を務めているのが、愛知県の大村秀章知事。

会長代行には、こんな顔ぶれが並びます。

  • 名古屋市長
  • 日本オリンピック委員会の副会長
  • 愛知県商工会議所連合会の会長
  • 中部経済連合会の会長

630億円の随意契約も、この理事会の正式な承認を経て結ばれたと県議会で答弁されました。

理事会は50回を超えて開かれ、資料には契約の相手と金額と方式が一覧で載っていますから、どの回で何が承認されたのかは日付で特定できるということですね。

規則を作ったのも、その規則を使って契約を承認したのも、すべて同じ組織委員会です

26億円から51億円になった放送契約

ネットで騒がれている2つ目の疑いが、外国企業の巨額受注です。

利権の疑いが画面にはっきり出ているのが、テレビ中継の映像を作る仕事でした。

競技の生中継の映像を各国のテレビ放送局へ配る大役を、ホスト放送局といいます。

競技場の外に停まった中継車と三脚に載った放送用カメラ

 

2025年4月2日、この仕事をスペインの放送会社ISBと中国のヤハオ社が組んだ共同体が落札しました。

ISBは世界で国際的なスポーツ中継を手がけてきた放送制作の会社で、ヤハオ社は中国国内でスポーツ映像を扱う会社です。

最初の契約は税込でおよそ26億2000万円という金額でした。

 

ところがこの契約が、落札から4か月もたたない2025年7月28日に突然解除されます。

県のウェブサイトに公表された理由は「協議が整わなかった」「実施体制等について十分でなかった」の書類の2行だけ。

26億円もの契約をバッサリ切った説明としては、ほとんど何も言っていないのと同じです。

報道では、契約のあとに出すはずの書類が一部そろわなかったことも理由に挙がっています。

やり直しの選考は指名競争入札で行われ、2025年9月16日に中国のCMG-IMPが税込およそ51億6000万円で決まりました。

指名競争入札は、あらかじめ選んだ特定の会社だけを部屋に呼んで札を入れさせるやり方です。

 

CMG-IMPは、中国の国営放送である中央広播電視総台(CCTV)の系列企業。

大会を主催するOCAのお墨付きの承認も受けた、正式なホスト放送局ですね。

それでも、日本国内で開かれる大会の国際映像を開催国以外の海外メディアがまとめるのは異例です。

 

そもそも春の最初の入札に手を挙げた4つの陣営に、日本企業は1社も入っていません。

参加するための応札の条件が、2015年4月以降に30以上の国と地域が集まる大会でホスト放送局を元請けでやった実績、という厳しい一行に絞られていたからです。

五輪やワールドカップのあの巨大な規模を元請けで回した経験が要る、という条件でした。

その高いハードルの条件を決めたのも組織委員会ですから、日本の会社が最初から入れない枠を先に作ったことになります。

全く同じ放送の仕事の値段が、半年たたないうちに25億円も跳ね上がりました

開会式を作った会社が日中で違う

世間でくすぶる3つ目の疑いが、テレビや新聞で報じられないことへの不信です。

その違和感がテレビで一番分かりやすいのが、開会式。

日本の新聞は、地元名古屋出身の有名な映画監督である堤幸彦が総監督として演出したと伝えています。

一方で中国の現地メディアは、浙江大豊実業という会社が開閉会式の総合オペレーターを務めたと、独占記事として報じました。

総合オペレーターは、演出のプランから現場の機材や設備までステージ全体をまとめる現場総責任者の役のこと。

 

コンセプトから照明、音響、映像、ハート型の主聖火台まで手がけ、中国企業がアジア大会の開閉会式をまとめる立場に立ったのは初めてだと書かれていました。

火の灯っていない聖火台と交差するスポットライト

この会社はCCTVの春節の特番の舞台を長く担当し、広州とジャカルタと杭州のアジア大会にも入っています。

県議会の配布資料にも、組織委員会からこの会社への委託としておよそ6億4000万円がしっかり計上されていました。

630億円の会場運営とは別に、きらびやかな開閉会式の制作で動いたお金。

堤幸彦が総監督として演出を、浙江大豊実業が裏の制作の統括を担当したのだと思いますが、その浙江大豊実業の名前を日本語の記事で見かけることは、ほとんどありません

 

そしてこの開会式はテレビの地上波で生中継されず、日本の放送権を持つTBSでも、当日に流れたのは配信サービスだけだったんです。

TBSがやるのは、中国の会社が作った国際映像を受け取って日本向けにお茶の間へ流すところまで。

あの東京五輪の開会式が地上波に乗ったことを思えば、日本国内で開かれる大会としてはめずらしい形ですね。

開会式の現場を実際にまとめた中国企業の社名は、日本語のニュース記事ではほとんど出てきません

スポンサー一覧にいる中国企業7社

会場で361°の看板を見て、そのまま検索した人も多いはずです。

361°は中国の福建省に拠点を置くスポーツウェアブランドで、契約が公表されたのは2025年2月27日でした。

協賛ランクは「OCAスポンサー(AINAGOC Tier1:プレステージパートナー)」。

GLイベンツの親会社と同じ、最上位の枠です。

2025年8月1日には、OCAの役員や審判員、組織委員会の職員、それに大会と都市のボランティアが着るユニフォームを361°が提供すると発表され、中身はキャップからシューズ、ジャケットやネクタイまで一式でした。

会場のあちこちで目につくのは、このためです。

 

ただ、大会のパートナー企業の一覧には、もう1社気になる名前が並んでいました。

同じ表に、開会式をまとめた浙江大豊実業も載っています

2026年2月6日に本契約、肩書きはOCAスポンサーで、協賛ランクはTier2のオフィシャルパートナー。

協賛カテゴリーの欄には「開会式及び閉会式(企画、制作、運営、デジタルコンテンツ、聖火台の設計・制作、パフォーマンス、文化プログラムを含む)」と書かれていました。

開会式を作った会社も、GLイベンツと同じでスポンサーだったわけです。

ほかにも、仮設電源の上海ユード・エナジー、競技用具の山東泰山体育器材、会場のシステムを担う北京のStarting Futureが並びます。

競技会場の大型ビジョンを出す深圳トランステック・ディスプレイ・テクノロジーと、eスポーツを担当するテンセントも同じ表の中。

361°と浙江大豊実業を入れて7社です。

 

ただし7社のうち5社は、肩書きが「OCAスポンサー」。

大会を主催するOCAの側が連れてくる枠で、組織委員会が探してきた相手ではありません。

同じ枠にはスイスのBORNAN SPORTS TECHNOLOGYも入っていて、こちらはOCAのIT担当として2034年までのアジア大会を任されています。

組織委員会が自分で選んだ中国の会社は、競技用具の山東泰山体育器材と会場のシステムのStarting Futureの2社でした。

開会式を作った会社も、スポンサーの一覧に載っています

日本の会社も54社入っている

日本でやる大会なのに、なぜ日本の会社に回らないのか。

ところがパートナー企業の一覧には、63社の名前が並んでいました。

そのうち中国に本社がある会社が7社、630億円を受注した日本法人の親であるフランスのGL events SAと、スイスのボーナンが1社ずつ。

残る54社は、日本の会社です

 

最上位のプレステージパートナーには、GLイベンツの親会社や361°と並んで、トヨタ自動車と中部電力、JR東海、イオンの名前もあります。

競技用具の欄にも日本の会社の名前があって、バドミントンとテニス、ソフトテニスはヨネックスが受けていました

体操やレスリングが中国の会社で、ラケットを使う競技が日本の会社。

組織委員会の契約規則には、第20条の15番目に「国際競技連盟が定める技術的な規則等に基づき相手方が限定されるとき」という号もあります。

競技で使う道具は、その競技の国際連盟が認めたものでないと使えません。

どの国の会社かより先に、連盟の規則が相手を絞っているわけです。

 

選手団の一部が泊まっているのは、大会が用意したクルーズ船。

9月16日の乗船では長く待たされ、混乱した様子がSNSに次々と上がりました。

そして大会が始まったあとの2026年9月22日、この船の宿泊について組織委員会が説明を出しています。

乗船が遅れた原因は、組織委員会が宿泊情報を送らなかったことではありません。

選手団から出された書類の不備をそろえるのに時間がかかったから、というのが組織委員会の見方です。

その文章には、こんな一行も入っています。

  • クルーズ船の運営については、コスタ社及び運営を委託している株式会社JTBと連携し、適切に対応しています

JTBは2025年7月14日に本契約を結んだTier2のオフィシャルパートナーで、協賛カテゴリーの欄は「旅行業(大会関係者宿泊及びその他関連サービス)」でした。

いま揉めている船の宿泊も、スポンサーの日本の会社が受けています

出てこない3つの書類

大会そのものがなぜここまで崩れたのかは、運営が崩れた理由という記事にまとめました。

愛知県議会の公式な委員会記録と、組織委員会が公表している入札や契約の資料。

ここまでの具体的な金額も契約の相手も入札の方式も、全部そこに書いてあります。

 

逆に、出てこないものが3つありました。

  • 放送の契約が解除された本当の理由(公表されたのは2行だけ)
  • やり直しの指名競争入札で、組織委員会が何社を指名したのか
  • 総額3700億円が、どの契約にいくら渡ったのかの全体の内訳

裏の利権があったのかどうかをハッキリ決めるにはこの3つが要りますが、3700億円の内訳にいたっては、大会が終わったあとの決算まで出てこないかもしれません。

県庁には情報公開の窓口があるので、県が持っている文書なら誰でも請求できますし、組織委員会は別の法人でも、県が受け取った文書ならそちらから開示されて出てくるはずです。

表に出てこないこの3つは、どれも組織委員会が持っている書類です

スポンサーなら競争にかけなくていい。

その規則を作ったのも、それで630億円を承認したのも、会長の席に知事が座る同じ理事会だったんですよね。