2026年9月12日の夜、ある美容クリニックの口コミを撮ったスクリーンショットが、Xに投稿されました。

星ひとつの口コミに書かれていたのは、鼻の抜糸の最中に痛いと伝えたら「もういいわ」と怒鳴られて、途中で放棄されたという話。

糸は、残ったまま。

ただ、読んだ人がぞっとしたのは口コミそのものより、その下にぶら下がっていた返信のほうです。

書き込んだのはクリニックのオーナーでした。

「どんな根拠があって、悪評価されるのかを教えてください。実際に当院で手術を受けられた事はありますか?」

この画面が回り始めると、返信欄には自分も似た目に遭ったという人が集まってきました。

額のリフトを受けたのに片方の目だけ上がらず、それを直すための手術では説明もないまま眠らされていた、という人もいます。

 

どこのクリニックかを突き止めることに、あまり意味はありません。

値段の安いクリニックのあちこちで、同じことが起きているからです。

鼻、目の下、二重、糸リフト、脂肪吸引。部位を変えながら、同じような失敗の話がXに並んでいる。

安い美容外科で起きていることには、値段の付け方から医師の経歴まで、はっきりした仕組みがあります


Googleの星ひとつにオーナーが反論していた

広まったスクリーンショットは、悪いほうのレビューに、クリニック側が反論しているものでした。

もうひとつの口コミには「安いけど絶対行かない方がいい、こんなとこで大きめの整形して大丈夫?」と書かれていて、そこにも同じ調子の返信が付いています。

書いた人のほうに、証拠を出させる返し方です。

外食のレビューと違って、整形の書き込みは「私はここで手術を受けました」という告白になってしまいます。

「整形したの?」と家族に隠している人ほど、書けなくなる。

 

だから、口コミは消えます。

書いたあとに取り下げる人もいれば、「もう二度と行かない」と何も書かずに別のクリニックへ行く人もいるでしょう。

X上でも、口コミ欄には絶対に出てこない話が回っていると指摘されています。

ネットの口コミ評価は、黙って去っていった人の分だけ底上げされているわけです。

それでも声になっている数だけで、けっこうな量があります。

全国の消費生活センターなどに寄せられた美容医療の相談は、2024年度で10,744件

2018年度は2,000件ほどでしたから、6年で5倍を超えた計算になります。

2022年度の内訳を見ると、相談した人のおよそ8割が女性で、いちばん多い年代は20代でした。

格安の広告から高額な契約が生まれるまで

二重整形が3万円、脂肪吸引が10万円台。

「プチプラで綺麗になれるかも」と期待した人が、提示どおりの安さで帰れるとは限りません。

窓口負担が3割の保険診療と違って、自由診療の美容医療は言い値でいくらでも吊り上げられる世界です。

そしてクリニックにとって、広告に出す金額は売上ではありません。

入口を思いきり下げておいて、実際の契約は中で作る。

スーパーの目玉商品のように、その安さだけで客を帰す気はありません。

美容外科医の高須幹弥先生が、この手口を動画で解説しています。

カウンセラーと呼ばれる人たちが、この構造の要なんです。

逃げ場のない個室で、最初に一対一で向き合う相手。

親身な笑顔で「今やらないと後悔しますよ」と勧めてくる人でしょう。

ただ、カウンセラーは医師ではありませんし、看護師とも限りません

そして2025年8月15日、厚生労働省が全国の自治体へはっきりと文書を出しました

患者の希望を聞き取って、具体的な治療方法を選び、提案して、決める。

それは医師でなければやってはいけない、と書かれています。

それでも施術の内容と金額がカウンセリング室で固まって、医師とは手術の直前に数分会うだけ、という流れが起きうる。

国が文書を出したからといって、翌日から現場のやり方が変わるわけではないからです。

営業ノルマやインセンティブがかかっていれば、不要な施術まで上乗せされます。

 

もうひとつ、広告そのものにも決まりがあります。

国の医療広告のルールでは、クリニックが自分の広告に患者の体験談を載せることは認められていません

術前術後の写真のほうは、費用やリスク、副作用まで詳しく添えてあれば載せられます。

逆にいえば、「お客様の声」がずらりと並んだページや、説明のない before after だけを見せてくる広告は、それだけでルールから外れています

 

そこへ重なるのが「今日決めてくれたら、モニター価格で半額ですよ」という一言。

モニターというのは、経過の写真や感想をクリニックに使わせる代わりに、値引きを受ける契約のこと。

半額という言葉で迫られたら、冷静に比べる余裕なんて吹き飛びます。

手持ちの現金が足りなくても、その場でクレジットカードやローンの手続きを急かされる。

気づいたときには、3万円のつもりで入った人が数十万円の分割契約を抱えている。

2022年度に寄せられた相談を見ると、契約金額の平均は約56万円で、支払い方法でいちばん多いのは分割のローンでした。


頼んでいない材料が体に入っていた

高いお金を払ったとしても、仕上がりに満足できたのならまだ救いはあるでしょう。

美容整形の失敗と聞いて思い浮かぶのは、「思っていた顔と違う」という形だと思います。

ただ、Xに流れてくる話のなかには、形が違うどころではない、もう一段こわい種類のものが混ざっていました。

自分が頼んでいないものを、体の中に入れられていたという話です。

 

鼻先に4ミリのプロテーゼ

2025年に韓国で鼻の手術を受けた人が、そこで何をされたのかを振り返って、注意喚起として投稿していました。

鼻先は耳の軟骨でお願いしていたのに、実際に入っていたのは4ミリのシリコン(プロテーゼ)だったそうです。

しかもプロテーゼが皮膚を突き抜ける手前だったと書かれている。

返金の対応も、いまだに無いまま。

本人からは、体の中に入れられた材料がどうやっても見えません。

別のクリニックで画像を撮ってもらうまで、何を入れられたのか確かめようがないわけです。

 

糸リフトから2週間で頬が引き攣れた

顔に糸を通して皮膚を引き上げる糸リフトでも、似た形の話が出ています。

術後2週間で頬がこけたように引き攣れ、別の医師のところで整復してもらったという人の投稿。

同じように引き攣れが出た人からDMがたくさん届いた、とも書かれていて、ひとりだけに起きた珍しい例ではないことがわかります。

ある美容外科医は、手術台の上で「糸を切る前に鏡で見せてください」と頼むよう、これから受ける人へ呼びかけていました。

糸は切ってしまうともう引き直せませんが、切る前なら入れ直せるからです。

わざわざ医師の側から呼びかけるということは、鏡を見せないまま終わってしまう施術が現にあるのでしょう。

プチ整形でも元に戻せないことがある

切らない、腫れない、お昼休みに受けられる。

そんなふうに売られている施術は値段も手ごろですし、休みを取らずに受けられるぶん、つい軽い気持ちで手が出てしまう。

ただ、元に戻せるかどうかで言えば、切る手術よりも厄介な場合があります

 

2年経っても目の下はへこんだまま

そのひとつが、下まぶたの裏側から脂肪を取り出すクマ取り、あるいは脱脂(だっし)と呼ばれる施術です。

ところが取りすぎると、膨らみが消えるどころか影が濃くなって、かえって老けて見えてしまう。

そのへこみを埋めようと今度は脂肪を注入して、さらにこじれてしまう人もいます。

入れた脂肪の位置がそもそもおかしいまま、2年近くが過ぎているそうです。

取ってしまった脂肪は、もう戻ってきません。

入れ直したところで、もともとそこにあった脂肪と同じようには落ち着かない。

だからクマ取りはやり直しのきかない手術だと思って選んだほうがいいわけです。

 

聞いていなかった後遺症が残る

二重の埋没法は、広告で3万円と出ているような、いちばん手の届きやすい手術でしょう。

まぶたを切らずに糸で留めるだけなので、取れたらやり直せばいいと説明されることもあります。

ところが、その糸を入れたあとに、二重とは関係のない不調が続いてしまう人もいるのです。

手術のあと重いドライアイになって困っている、という発信で、アカウント名にも「埋没法後遺症」と入っていました。

手術の前に渡される同意書には、たいていリスクが書いてあります。

ただ、それが読み上げられたかどうかは別の話です。

言われるまま書類にサインをした記憶しか残っていない人は、けっこういるのではないでしょうか。


切らない注射でも目に障害が出かねない

ヒアルロン酸などを注射して顔の形を変える施術は、メスを入れる手術よりも軽いものだと思われがちです。

入れたものは時間が経てば体に吸収されますし、あとから溶かす薬もあると説明されます。

ただ、入れる場所によっては、切る手術よりも早く、その日のうちに取り返しがつかなくなる。

2026年9月14日、額と眉間がまるく盛り上がった人の写真がXへ流れてきました。

添えられていたのは「医師は止めないの…?」という一言だけで、それを見た形成外科医がはっきり書いています。

眉間と額に走っているのは、目の奥へそのままつながっている血管です。

入れたものがその血管に誤って入ってしまうと、血の流れが止まって視力が戻らなくなることがある、と説明されています。

注射がこわいのは、受ける側からいちばん軽く見えるところです。

入れる深さも場所も決めているのは打つ人のほうで、こちらの目には最後まで見えません。

「直美」と呼ばれる医師が増えている

値段より根が深いのは、その手術をする医師の経歴のほうです。

ここ数年、美容医療の世界で「直美(ちょくび)」という言葉が使われるようになりました。

医学部を出て2年の初期研修を終えたあと、大学病院の当直や手術で揉まれることなく、最初から美容へ直行するルートのことです。

2025年には、美容皮膚科の医師が集まる日本美容皮膚科学会のシンポジウムでも「直美問題」として取り上げられました。

なぜそれが可能なのかというと、日本の診療科の名乗り方が自由だからです。

日本には自由標榜制(じゆうひょうぼうせい)という仕組みがあって、医師免許さえあれば、専門に学んでいない科でも掲げることができます

研修を終えたばかりの医師が、翌月から「美容外科医」として二重の手術をしていても、制度の上では違法ではない。

 

患者側からすれば、これほど見分けのつかない話もありません。

ホームページの立派な肩書きだけでは、その先生がメスを握った回数までは見抜けないからです。

2026年9月にも、施術後の肌のトラブルをめぐるクリニックの対応がXで取り上げられ、そこでも「また直美の院長だ」という言葉が出ていました。

「直美」はいま、怒りをぶつける先の名前にもなっています。

「潰れてください」とまで書いている人もいました。

それだけの目に遭った人がいる、ということでもあります。

「若手だから下手」と決めつけたいわけではありません。

ただ、手術には、うまくいかなかったときにどう戻すかという技術がついて回ります

修羅場をくぐってきたベテランと比べると、トラブルが起きた日の立て直し方がまるで違う。

安い施術ほど短い時間で数をこなす必要があるので、その日がいつ来てもおかしくありません。

 

2024年11月にまとまった厚生労働省の検討会の報告書には、実際に起きた出来事が並んでいました。

脂肪吸引の手術による死亡、ショック症状、重い感染症、失明。

「可愛くなりたい」という願いを通り越して、命の危険の話です。


日本美容外科学会という名前の学会は2つある

では「専門医」と書いてあれば安心なのかというと、ここに、知らないとまず気づけない仕掛けがあります。

日本美容外科学会という名前の学会は、日本に2つ存在します

ひとつはJSAPS、もうひとつはJSAS。

略称が違うだけに見えて、中身はかなり違います。

JSAPSのほうは形成外科を土台にした学会で、その専門医を持つには、まず形成外科の専門医資格が要ります。

大学病院などで厳しい下積みを重ねる必要があるため、研修を終えてすぐ美容へ行った人はそもそも門前払い。

もう一方のJSASは、美容外科での勤務歴などを軸にした認定になっていて、必要とされる年数も条件もかなり緩やかです。

JSAPSは自分たちのサイトで、だからこそ正規の訓練を受けた医師を患者の側が自分で探す必要がある、とはっきり書いています。

2024年11月の報告書でも、専門医を取ることが美容医療で働く医師のキャリアの基本になっていない、と指摘されていました。

2つの違いを図にして、注意を呼びかけている人もいます。

大事なのは、どちらが偉いかではありません。

患者が見るサイトには、どちらも「日本美容外科学会 専門医」としか書かれないという点です。

看板として掲げられる科の名前と、国が認めている専門医の枠組みは別のもので、専門医のほうには「美容外科」という科がありません。

サイトに並んでいる「日本美容外科学会 専門医」は、国の制度ではなく学会が独自に出している認定なのです。

派手な院長の肩書きよりも、形成外科専門医を持っているかどうかのほうが確かな手がかりでしょう。

これは公式サイトの医師紹介に書かれていることが多いですし、書いていなければ、それも答えのうちです。

「失敗」ではなく「経過です」と言われる

とはいえ、こうした見分け方にたどり着くのは、たいてい受けたあとになってからでしょう。

手術のあと、思っていた形と違う、左右が揃っていない、腫れが引かない。

そう思って再診に行くと、返ってくる言葉はだいたい同じです。

「ダウンタイムの個人差ですから、様子を見てください」という決まり文句。

顔全体の脂肪吸引を受けた人が、言われた言葉を順番に並べていました。

拘縮(こうしゅく)は、脂肪を吸ったあとに組織が硬く縮んで、かえって膨らんで見える反応のことです。

実際、術後の腫れや硬さが落ち着くまでに数か月かかる施術はありますから、この説明自体が嘘とは限りません。

問題は、鏡を見るたびに泣きたくなるのに、1年経っても「まだ様子見です」と突っぱねられることなんです。

そのうち、診てもらいに行くこと自体が気まずくなってくる。

「主治医から失敗と言われる日など来ません」。

この一文に、同じ道を通ってきた人たちが次々と反応していました。

ここから修正に進むと、お金の話がもう一段きつくなります。

一度手を入れた組織は癒着していて、皮膚も脂肪も元の位置にありませんから、まっさらな状態の手術と比べて、やり直しの難易度も費用も跳ね上がる

入れた糸や材料を取り出す工程が増えることもあるので、安く済ませたはずの数万円が、他院での修正代として何倍にもなって返ってくる。

しかも直してもらう相手は、別のクリニックを一から探すことになります。

リプ欄にいた、額のリフトのあと目の修正まで受けたという人が抱えているのは、体とお金の両方です。


契約の前に確かめられる4つのこと

整形そのものをやめる必要は、まったくありません。

確かめる順番を変えるだけで、避けられる失敗はかなりあります。

現役の美容外科医が、注意点を並べていました。

たくさん並んでいますが、覚えて帰るのは次の4つでいい。

 

  • 診察と治療方針の説明は、医師がするもの。カウンセラーだけで話が終わるなら、そこで一度立ち止まる
  • 「今決めないと損」は契約を急がせる罠。一度お茶でも飲んで帰れば、頭はちゃんと冷えます
  • 持ち合わせのない金額を、その日のうちにローンで組まない
  • 見積もりをもらう日と、ハンコを押す日を別にする

それでも、契約書にサインしてから我に返ることはあります。

その場合、美容医療は2017年12月から特定商取引法の特定継続的役務提供にあたるので、条件を満たせばクーリング・オフや中途解約ができます

対象になるのは、契約期間が1か月を超えていて、金額が5万円を超えるものです。

広告に出ていた3万円ではなく、実際に結んだ契約の総額で見ます。

法律で決められた書面を受け取った日から8日以内なら、理由を説明しなくても契約をやめられます

数えはじめは施術の日ではないので、書面をもらっていない、あるいは中身が足りないときは、その8日はまだ始まっていません。

 

8日を過ぎていても、まだ受けていない施術のぶんは中途解約の対象になります。

そのときクリニック側が請求できる金額にも上限があって、施術が始まる前なら2万円まで。

始まったあとは、受けたぶんの代金に加えて、5万円か契約残額の2割の、低いほうまで。

言われるまま全額を諦める必要はないのです。

ひとりで判断がつかないときの相談先は、全国どこからでも消費者ホットライン「188」です。

医療そのものへの不満や、体に起きたことの相談は、都道府県などが設けている医療安全支援センターが窓口になります。

そして、術後に強い痛みや熱、急な腫れ、しびれが出たときは、迷わず受診してください。

そのクリニックに連絡がつかないなら、形成外科のある病院で構いません。

安さにつられた人が悪いわけではない

今回の騒動でいちばん怖いのは、あの返信の冷たさそのものではありません。

痛いと訴えた人が、口コミに書いたあともう一度黙らされているところです。

「痛い」と訴えればキレられ、不満を書けば「根拠は?」と返される。

そのどちらの場面でも、患者の側が「言わなければよかった」と思わされているのです。

痛いと言うことも、受けた場所の感想を書くことも、患者の権利です

「少しでも可愛くなりたい」と願う人が、お手頃な看板に飛びつくのは当たり前でしょう。

悪いのは飛びついた側ではなく、コンプレックスに付け込んで、考える隙を与えずサインさせる売り方のほうです。

怖いと感じた感覚は、もう十分に正しく働いているはずです。

「何か怪しいな」と違和感を覚えたら、契約書を置いたままドアを出ればいい。


この記事で参考にした資料

気になったところは自分でも確かめられるように、元の資料を置いておきます。

相談の件数と中身について

契約と解約の決まりについて

カウンセラーと医師法について

広告と安全の制度について

専門医と標榜について

困ったときの相談先

なお、この記事は医療の専門家が書いたものではないので、術後に痛みや腫れが引かないときは、この記事を読み返すより先に医療機関で診てもらってください。