2026年9月3日を最後に、武田塾の公式YouTubeチャンネルの更新が4日間止まりました。

それまでは夕方4時、6時、夜9時と、1日3本のペース。

きっかけは、その武田塾の教務担当だった2人がやっている「wakatte.TV」というチャンネルが、福島大学を扱った回で炎上したことです。

大学の前で学生をつかまえては、出身高校と偏差値を聞いて回る番組。

放射能の研究を学生が紹介した場面で、出演者が「福島大には触らせたくない」と言いました。

大学が学長名で声明を出し、報道が続き、2026年9月4日には文部科学大臣までが会見で触れています。

ここまでは、目にした方も多いと思います。

気になるのは、これから塾を探す側でしょうか。

武田塾の口コミを読んでいた親や受験生には、他人事ではなくなってきたはずです。

ただ、そのあとの数日で動いていたのは、動画の中身ではありませんでした。

校舎のページから消えたもの。止まった更新と、その戻り方。動画の説明欄からいなくなった人と、ひとりだけ話しつづけている創業者。

9月2日から10日までのあいだに動いたもののほうが、この件の形をはっきりさせています。


武田塾福島校のページから校舎長の名前が消えた

 

2026年9月6日、武田塾福島校のページを開くと、校舎長のあいさつはこう始まります。

「こんにちは! 福島校 校舎長です。」

名前がありません

インターネットアーカイブに残っている2026年5月19日の保存版では、同じ場所にこう書かれていました。

「福島校 校舎長の○○と申します」。

○○のところには名字が入っていて、その上には顔写真も並んでいました。

 

変わったのは、あいさつ文だけではありません。

5月の保存版にあったページ内のメニューは、アクセス・校舎長挨拶・合格実績・講師紹介の4つでした。

9月6日に見た時点では、講師紹介の項目そのものが無くなっています

この変化を最初に書いていたのは、9月2日に運営会社の登記簿謄本を取り寄せて、動画に出ている高田史拓さんがその会社の取締役として登記されていることを確かめた人でした。

この方が9月1日に確認したときは、福島校の講師紹介には3名が並び、そのうち2名が福島大学の学生として紹介されていたそうです。

福島大には触らせたくない、と言われた大学の学生が、その会社の教室で受験生を教えていました。

言われた側と、教えていた側が同じだったわけですよね。

 

合格実績に福島大学の名前は残っている

いっぽうで、同じページの合格実績の欄は動いていません。

国公立大学の並びには、東北大学や北海道大学と一緒に、いまも福島大学の学類名が載っています。

消えたのは働いている人の名前で、残ったのは大学の名前でした。


武田塾チャンネルが止まったのは謝罪より前だった

 

武田塾チャンネルの投稿履歴を、8月末までさかのぼって並べてみます。

8月31日に3本、9月1日に3本、9月2日にも3本。

夕方4時、6時、夜9時と時刻まできれいに揃っていて、工場のような規則正しさです。

そのあと、9月3日の朝に前の晩の生配信のアーカイブが1本あがって、そこから4日間、新しい動画がありません

wakatte.TV側は、いまチャンネルに残っている通常の回が8月30日で止まっています。

そのチャンネルに次に上がったのは、9月5日の夕方6時半に出た謝罪動画1本だけでした。

 

つまり、本業のチャンネルは謝罪動画が出る2日前から止まっていたことになります。

先に手が止まり、あとから言葉が出てきた、という順番です。

2つのチャンネルがどうつながっていたのかを、図で並べて説明していた人がいました。

入口と出口が分かれていただけで、通っている道は1本だった。

そう読んだ人が、たくさんいました。

笑いを取る側が出せなくなった週に、勉強法の側まで揃って止まる。

2つは、そういう関係だったのでしょう。

会社としての説明は、9月10日の時点でも出ていません。

ネットメディアが今後の方針を書面で質問しましたが、期日までに回答はなかったと報じられています。


創業者の林尚弘さんだけがまだ話している

 

会社は黙り、動画に出た本人は謝り、相方は何も出していません。

そのあいだで、いちばん長く発信を続けているのが創業者の林尚弘さんです。

2022年2月に社長と塾長を退いていて、いまは経営から離れた立場にあります。

その人が2026年9月5日に投稿したのが、これです。

燃えている当事者の側から、業界へ向けて出た呼びかけでした。

この人は9月2日にも、出演者をかばう側の発言をしています。

福島に限った話ではなく岩手大学や北見工業大学でも同じことを言っていた、動画を切り取られて燃やされていて気の毒だ、という趣旨でした。

擁護の中心にあったのは、切り取られたという一点。

 

ただ、ほかの大学にも同じことを言っていたというのは、かばう材料になっているでしょうか。

今回だけの失言ではなく、ずっとその作りでやってきたと説明したことになります。

謝罪の翌日に出てきたのが、火を消す言葉ではなく学歴は正義なんだよという宣言だったわけです。

 

高田さんが謝ったのは動画の言い方だった

9月5日の謝罪動画で、出演者は「配慮が決定的に不足していた」と話しています。

謝った相手は、福島大学と、復興に関わってきた人たち。

大学を偏差値で並べて笑いにする、その作り方そのものについては触れていません。

そこを指摘する声も、動画が出た日から並んでいたのです。

私が見ているかぎり、今回のいちばん深いところにある食い違いは、ここだと思っています

謝られたのは福島大学の回の言い方で、あの物差しのほうは、会社の中でまだ現役のままです。

謝罪を読んでも聞いても、どこか足りない気がした人は、たぶんここが引っかかっていたのではないでしょうか。

だから、動画が消えても釈明が出ても、火が小さくなりませんでした。


埼玉の塾長が数えていたのは生徒ではない

 

この騒ぎのなかで、いちばん冷静に先を見ていたのは同業の人でした。

埼玉県で24校舎を運営する塾の代表が、2026年9月4日にこう書いています。

生徒が何人減るか、という話ではありませんでした。

心配していたのは、いま教室にいる人のほうです。

この投稿に、林さんから「武田塾より大きくなるといいですねw」という返しが飛びます。

塾の代表はすぐに、規模の話にすり替えられたと書き直しました。

埼玉県内ではもう武田塾より生徒数は多いし、県外へ広げるつもりもない、と。

そのうえで、自分が言ったのは社員が自分の会社を誇れるかどうかだ、と繰り返しています。

 

大きさで比べるのか、中で働く人の気持ちで比べるのか。

ここでも、使っている物差しが最後まで噛み合いませんでした

塾を探している側から見ると、このやりとりは案外だいじなところです。

入塾者の数は、来年の春にならないと動きません。

けれど、教室にいる人が転職サイトを開くのは今週でもできるでしょう。

去年まで見てくれていた講師が、4月にはいなくなっている。

先に届くのは、たぶんそちらのほう。


文部科学大臣が代わりに言ったこと

 

2026年9月4日、松本洋平文部科学大臣が会見でこの件に触れ、学生や教職員の尊厳を傷つけるような言動はあってはならないと述べました。

そのうえで、大学の研究力を入試の偏差値で判断するのは適切ではない、とも。

気になるのは、その3日前に福島大学がしていたことです。

9月1日、大学は学長名の声明を出していますが、同じ日に学生へ伝えていたのは別の内容でした。

SNSでの反論や拡散、誹謗中傷は控えるように、という注意喚起です。

あわせて、不安があれば相談窓口を使うようにとも案内されています。

いじられた側の学生は、言い返さないでほしいと大学から頼まれたわけです。

その言い分を、3日たってから大臣が代わりに口にしました。

 

しかもその動画、大学に撮影の申し込みは届いていません。

弁護士ドットコムの取材に、大学は「学内での活動に関する申請はありませんでした」と答えています。

知らないうちに撮られ、出身高校と偏差値を並べられ、それでも反論は控えるよう言われる。

いちばん近くにいた人たちが、いちばん何も言えないままでした。


偏差値と研究力はどこまで一致するのか

 

大臣の発言は、そのまま両側から都合よく引かれました。

学歴偏重に国がNOを出した、という読み方と、いや偏差値と研究力は連動するだろ、という読み方です。

そこへ、大学で研究している人が数字を並べました。

大臣が言ったのは偏差値が研究力の指標にならないという一点で、学歴問題そのものには踏み込んでいない。

そのうえで、実際の数字が並べられていました。

科学研究費の新規採択率では、一橋大学が58.4%、日本女子大学が48.6%で、東京大学の40.5%を上回ります。

研究論文の指標であるネイチャー・インデックスの2025年国内順位では、東京理科大学が15位で早稲田大学の17位より上。

広島大学10位、千葉大学12位、岡山大学14位が、慶應義塾大学の11位と同じあたりに並んでいます。

入試の難しさの順番とは、まったく別の並びなのです。

 

学部入試のない大学が上位にいる

もっとはっきりしているのが、大学院だけを持つ大学です。

沖縄科学技術大学院大学が16位、総合研究大学院大学が19位。

どちらも学部の入試がないので、偏差値という数字がそもそも存在しません

数字を持たない大学が、慶應や早稲田と並んでいます。

人文系や社会科学系の研究に至っては、この種の指標にはほとんど表れません。

論文数のシェアで見ても、上位に固まっているのは17校ほど。

大学全体の2%くらいで、そこを外れたとたん、偏差値の順番と研究の順番は関係がなくなります。

偏差値は、受験生が入るときの点数の目安です。

そこで働いている研究者の実力を測る数字ではありません。


戻ってきた動画から出演者情報が消えた

 

その武田塾チャンネルが、動き出しました。

止まっていた更新は、2026年9月7日の夜9時に再開しています

8日も夜9時に1本、9日は夕方4時のショートと夜9時の動画で2本。

1日3本だった前のペースには、10日の昼を過ぎてもまだ届いていません。

 

そして、戻ってきた3本に出ているのは、武田塾で英語を教えるもりてつ先生でした。

説明欄を開くと、【出演者情報】という欄そのものが無くなっているんです。

8月26日から9月2日までにあがった16本には、その欄に高田史拓さんの紹介文が入っていました。

E判定から京都大学経済学部へ逆転合格、京都校と神戸三宮校の校舎長を歴任、趣味は阪神タイガースと乃木坂46。

16本すべてに載っていた同じ文章が、7日からの3本には1本もありません

姿どころか、声も出てこないということですね。

そして9月9日の夜、こんな一行がタイムラインじゅうに回りました。

高田先生退職まじ?

ただ、この話の出どころが、一日たった10日の昼になっても見つかりません。

会社の発表もなければ、報じた記事も見当たらないまま。

返信欄に並んでいるのも「まじ?」「ほんまなん?」ばかり。

 

いっぽうで、会社のサイトのほうは何も動いていないのです。

生配信コースのページには、いまも「武田塾生配信コース担当の高田です!」というあいさつが載っています。

御茶ノ水本校が2022年6月に出した教務紹介の記事も、9月10日の時点でそのまま開けました。

9日の夜には、その生配信も予定どおり行われています。

辞めたのかどうかは、外からは決められません。

はっきりしているのは、動画の説明欄からは消えて、サイトの紹介ページは残っているという、その差のほう。


コメント欄を閉じたのは言論統制か荒らし対策か

 

同じ9月9日、もうひとつ大きく回った投稿があります。

「なんと武田塾、言論統制を始める」。

指しているのは、塾生向けの生配信のコメント欄を閉じたことです。

 

その日のうちに、こう書き返した人がいました。

塾生同士の交流のためのコメント欄を荒らすほうが、ワカッテTVよりも遥かに悪質だ。

言論統制と言えばそうだろうが、お金をもらって提供しているサービスである以上、塾生の学習機会が奪われるほど荒らされたら対処するのは当然ではないか

これはこれで、筋が通っています。

企業が炎上のさなかにコメント欄を閉じるのは、そんなにめずらしい話でもないはずです。

 

いっぽうで、公式のXアカウントは9月8日に通常の宣伝を再開していました。

末尾に「高評価・コメントも是非お願いいたします!」とあります。

塾生が集まる場は閉じて、参考書を売る場は開けたまま

これを守るべきものを守ったと読むか、都合のいいところだけ開けていると読むか。

どちらに見えるかは、たぶんその人が受験生の親か、外から見ている人かで変わるでしょう。


生配信の視聴数が6倍になっていた

 

その生配信のほうには、数字が残っているのです。

武田塾チャンネルの生配信は毎週水曜の夜7時半で、終わるとアーカイブがそのまま残ります。

7月22日から8月26日までの6回は、いちばん多い回で6,640回、少ない回で4,802回。

毎週、5,000回台をいったりきたりしていました。

 

ところが炎上のあとの9月2日の回は、36,098回です。

9月9日の回も、10日の昼に数えた時点で34,715回

8月26日の回は15日たっても6,410回のままなので、置かれている時間の長さでは説明がつきません。

むしろ一晩で、いつもの6倍が入ってきたことになります。

 

塾生の宿題を見て、その場で相談に答えるための枠だったんですよね。

そこへ、宿題とは関係のない人がまとめて流れ込んできた。

その週の塾生は、聞きたいことを聞けなかったかもしれません。

荒らされたから閉じたという言い分の根拠は、たしかにこの数字だと思います。

いっぽうで、閉じられる前の中身を見ていた人もいました。

「ちゃんと謝れこの高卒」といった書き込みに混じって、福島大学を志望している受験生の質問も並んでいた、と書いています。

まとめて消せば、後者も一緒に消えるでしょう。

どちらが多かったのかは、閉じたあとでは誰にも数えられません。


擁護する側は学歴の話に切り替えた

 

この騒ぎで擁護に回った人たちは、そろって学歴そのものの話を始めました。

林尚弘さんは9月5日に「偏差値関係ないんですよね? 文部科学大臣の出身大学は?」と書きました。

武田塾講師のもりてつさんは9月4日に、学歴の有用性を語っています。

医師でYouTuberのドラゴン細井さんは9月5日、偏差値がよくないならスポーツ競技で順位をつけるのもよくないことになる、と投稿しました。

大阪府の吉村洋文知事にいたっては、9月3日の会見で「全てを否定するのも違う」と述べています。

大臣が苦言を呈したのは、その翌日でした。

 

これに対して、大学ジャーナリストの石渡嶺司さんが線を引いています。

問われているのは学歴が役に立つかどうかではなく、侮辱にあたる発言をしたかどうかだ、と。

言われてみれば、大学を偏差値で並べること自体を怒っている人は、そんなに多くなかったはずです。

怒られていたのは、その物差しで実際に目の前にいた学生を笑いものにしたことのほうです。

 

ただ、擁護する側の言い分にも、拾っておくべきところがあります。

テレビプロデューサーの鎮目博道さんは9月2日、今回の動画は「テレビなら完全アウト」だと書きました。

放送前に内容をチェックする部署が見て、福島の系列局に相談して、専門家の監修も入る。

そこを通っていない、という指摘です。

ところが同じ文章の後半で、この人はテレビの側も撃っています。

テレビは高学歴の人を特別扱いする番組をいくつも作ってきた

それも広い意味では学歴いじりで、序列の意識を育ててきたのではないか、と。

 

学歴で人を並べて見せる商売は、あの2人が発明したものではありません。

ただ、大学の門の前でカメラを回し、その場で偏差値を言わせるところまではやっていません。

そこが今回の分かれ目だったのでしょう。


福島大学の回が最初ではなかった

 

今回が最初のつまずきではないのです。

大学ジャーナリストの石渡嶺司さんが、8月末から順に記録を残しています。

 

8月10日、吉村知事が出た回では、撮影中に高校のテストを妨害していたことが分かって批判を受けました。

8月29日には、武田塾札幌校のサイトに、大学の共用スペースへ紛れ込んで自習室として使う価値ありと書かれているのが見つかっています。

こちらは、そのあと記事ごと消えました。

そして9月1日の夕方、2021年4月11日の動画が掘り起こされます。

早稲田大学の卒業式で、卒業生の卒業証書を地面に置き、これ滑り止めですと言って尻に敷いた回でした。

早稲田大学の坂内博子教授は「この学生さんが許しても、私は許さない」と書いています。

 

もうひとつ、8月12日にこんな動画が出ていました。

「Xで大炎上中のwakatte.TVってどう思う!?」という、街頭で聞いて回る回です。

前の炎上は、自分たちで動画にできたわけですよね。

今回は、それができていません。

9月5日の謝罪動画から10日の昼まで、あのチャンネルに新しい回は1本もあがっていないんです。

 

この一週間で出てきたものは、擁護する側の材料にもなりました。

どん底の時期に救われた、と書いた人が、過去の件はやり過ぎだとも書いています。

そのうえで、反省を踏まえてまた頑張ってほしい、と。

積み重ねを見て見限る人と、積み重ねを知ったうえで待つ人。

掘り起こされた材料は、どちらの読み方にも渡されています。


合格実績と口コミより先に見る場所

 

この騒ぎのなかで、5年前の記事を引っぱり出してきた人もいました。

2021年3月、武田塾のフランチャイズ校のひとつだった千葉県柏市の校舎で、社員が塾生を装ってグーグルマップに星5つの口コミを投稿するよう指示されていたことが表に出ています。

26人の従業員が入ったグループチャットで呼びかけられていたもので、その校舎を運営していた会社が謝罪しました。

いまの運営会社とは別の会社の、5年前の話です。

それでも掘り起こされたのは、塾を外から見分ける材料が、そもそも少ないからでしょう。

同じころ、別の塾を経営している人がこう書いていました。

アルバイトで入っている学生から聞いていた話と一致する、という一行があります。

そして最後に置かれていたのが「人を育てるのは人」でした。

親や受験生が塾を選ぶときに見るのは、たいてい合格実績と口コミです。

合格実績はサイトの持ち主が書き、口コミは書いた人の顔が見えません。

どちらも、外から確かめるのが難しいんですよね。

 

今回、いちばん早く書き換えられたのは、そのどちらでもありませんでした。

教室で毎日生徒を見ている人の、名前と顔の欄でした。

合格実績の福島大学はそのままで、校舎長の名字だけが消えた。

いっぽうで、取締役の紹介ページのほうは、いまも開けます。

先に消えるのは、いつも下の段からでした。

何を守り、何を守らなかったのかが、そこにいちばんはっきり出ています。

 

校舎のページを開いて、校舎長の名前と講師の顔がそのまま出ているか。

去年の合格実績ではなく、去年から同じ人が座っているか。

星の数より、そちらのほうがずっと調べやすいはずです。

 

看板の大きさでも、星の数でもなく、そこで教える人の名前が出ているかどうか。

塾のページを開いたとき、まず探す場所はそこなのかもしれません。