2026年9月7日、東京株式市場でくら寿司の株が1,696円まで下がって取引を終えました。

前の週末より44円安い値段です。

週末のあいだ、SNSには「月曜はストップ安だ」と書き込んでいた人がずいぶんいました。

この日のくら寿司には1,340円という下限が決められていて、そこまで売られたらストップ安になります。

噂どおりなら、400円の暴落。

実際に来たのは、その1割ちょっとでした。

 

それなら安心していい話かというと、そうでもなくて。

株を持っている人たちから出てきたのが、拍子抜けではなく「またか」だったからです。

 

この会社の株は、1年半前に本当に暴落しています。

2024年の12月、株主優待をやめると発表した直後のこと。

そして株価が落ちたところで、創業家の副社長が持ち株を動かしています。

 

あのときの並びを覚えている人が、今回の44円を見てもう一度その話を持ち出しました。

暴落しなかったことのほうに、引っかかるものがあるからです。

数字と日付を並べて、どこが重なっていてどこが重なっていないのかを確かめていきますね。


くら寿司の株価は9月7日にどこまで下がったのか

まず、その日の値動きから並べます。

  • 前の週末(9月4日)の終値 1,740円
  • 9月7日の始値 1,682円
  • その日の安値 1,675円
  • その日の高値 1,710円
  • 終値 1,696円(44円安)

開いた瞬間に、もう58円下でした。

そこからさらに売られて1,675円まで落ちたのが、朝の9時3分。

この時点で3.7%安です。

お昼をまたいで少しずつ買い戻され、最後は1,696円まで戻して終わりました。

 

下がった理由については、日経が同じ日の夕方にこう伝えています。

嫌気という言い方をされていますが、要するに「これは売っておこう」と考えた人がそれだけいた、ということです。

 

値段より派手に動いたのは出来高のほう

この日に売り買いされたくら寿司の株は、238万2,000株。

直前5日間の平均が45万8,070株ですから、ふだんの5倍を超える株が1日で入れ替わったことになります。

お金の量でいうと、約40億3,000万円。

値段は2.5%しか動かないのに、量だけが5倍。

これは、売った人と同じだけ買った人がいたという意味になります。

持っていられなくなって手放した人の向かい側に、安くなったから拾いにいった人が同じ数だけいたわけですね。

 

日経平均が1378円上がった日に1社だけ下げた

もうひとつ、この日の下げを読むときに外せない事実があります。

日経平均の終値は6万6,399円84銭。

前の週末から1,378円90銭、率にして2.12%の上昇です。

アメリカの半導体株が上がった流れを受けて、東京でも半導体まわりに買いが集まりました。

つまり、この日に適当な株を買っていたら、たいてい儲かっていた日ということになります。

市場が2.12%上がって、くら寿司が2.53%下がった。

差にすると4.65ポイントあります。

全体が上がっている日は、たいていの銘柄が一緒に持ち上げられるものでして。

その追い風を受けてなお下げたということは、くら寿司を売りたい人の力が、市場全体の上昇より強かったということ。

 

「44円しか下がらなかった」という感想は、たぶん半分だけ当たっています。

絶対値としては小さい。

ただ、まわりが上がっている日に1社だけ逆を向くのは、数字が示すほど軽い出来事ではないんですよね。

 

15時で終わりではなかった

そして、話は15時で終わっていませんでした。

東証が閉まったあとも、証券会社の中には夜間の取引ができるところがあります。

その夜間市場でのくら寿司は、17時すぎの時点で1,670円

15時の終値からさらに26円安い値段でした。

44円で止まったように見えて、夜のあいだにもう26円ぶん売られていたことになります。

合わせると70円ぶんの値下がり

「1日で終わった」と言い切れる数字ではありません。

「ストップ安になる」という噂はどこから出たのか

そもそも、なぜ多くの人がストップ安を予想したのでしょうか。

景品の横領が発覚して、コラボが中止。

お詫びの10%割引にも、批判が集まっています。

ここまでなら「株も下がるだろうな」で止まる話。

それが下限まで売られるという極端な予想になったのは、この会社の株が1年半前に、実際にそういう動き方をしていたからです。

2024年12月に株主優待をやめると発表したとき、くら寿司の株は300円ほど落ちました。

当時のタイムラインに並んでいたのは、大暴落という言葉です。

そして2025年2月に優待を戻すと発表した日には、逆にストップ高まで買われています。

1つのお知らせで300円動く会社。

その記憶を持っている人からすれば、コラボ中止と炎上が重なった今回はもっと重いはずでした。

だから週末のうちに「月曜は下限まで行く」という予想が出回ったわけです。

 

結果は噂の1割ちょっと

9月7日のくら寿司に許されていた値幅は、下が1,340円、上が2,140円。

ストップ安まで400円の余地があったところに、実際に来たのは44円でした。

予想された下げ幅の、だいたい11%しか実現していないことになります。

 

ここで「炎上なんて株には関係ないんだな」と結論を出したくなるのですが、まだ早いです。

株価が動いた日と、みんながいちばん怒っていた日が、そもそもずれているからでして。


SNSがいちばん燃えていた週に株価は動いていない

ここが、今回いちばん不思議に見えるところだと思います。

ちいかわのフィギュアが出ないという話がXで広がったのは、9月の頭でした。

1万8,000円ぶん食べてもゼロだったという報告が並び、メルカリに同じ出品者から大量のフィギュアが出て、店員による抜き取りではないかと言われ始めます。

くら寿司が最初の声明を出したのが9月2日。

その週はずっと、タイムラインがこの話でいっぱいでした。

 

では、そのあいだの株価はどうだったか。

9月1日から4日まで、1,748円から1,740円のあいだで動いていません

幅にして8円です。

SNSがいちばん熱かった週に、株価はほとんど何も起きていなかったことになります。

 

市場が読んでいるのは会社が出した紙だけ

株価が動いたのは、くら寿司が9月5日に「コラボを中止します」と正式に発表したあと、最初に市場が開いた日でした。

投稿がどれだけ伸びても、株価はぴくりとも動きません

会社が紙を1枚出した瞬間に、はじめて値段が付く。

コラボができなくなれば利益に響きますし、処分まで行けばもっと響きます。

この読み方が出てきたのも、会社が中止を認めた9月5日でした。

怒っている人の数を、市場は数えていません

数えているのは、会社が自分の口で認めた損のほうだけです。

 

ここは、少し腹立たしいところでもあります。

おかしいと最初に言ったのは、株主ではなく店に通っていた人たちのほうでしたから。

 

もっとも、その株主が怒っているのは、今回のことではないようなんです。

株主が忘れていない2024年12月の株移管

今回の騒動をきっかけに、もう一度掘り返されている出来事があります。

株を持っている人たちが「またか」と言っているのは、こちらのほうでして。

並べると3行です。

  • 2024年12月11日 株主優待の廃止を発表して株価が下がる
  • 2024年12月16日 創業家の副社長が個人で持っていた株を、自分が代表を務める資産管理会社へ移す
  • 2025年2月19日 優待の復活を発表して株価が急騰する

移された株はおよそ250万株。

安いときに動かしたことで、相続にかかる税金がおよそ4億円ぶん軽くなったとされています。

 

専門家が答えた「線」はどこにあったか

この件については、日経が専門家に取材した記事を出しました。

証券取引等監視委員会に勤めた経験のある弁護士は、優待を始めるか・やめるかという判断はインサイダー情報に当たる可能性が高いと答えています。

そのうえで、下がったところで身内へ移し、移し終わってから優待を戻して上げた形については、相場操縦に近いと見る分析もあると紹介されていました。

 

ここは、はっきりさせておきたいところで。

この件で違法だと判断された事実は、いまのところありません

処分も出ていませんし、当事者が認めたわけでもない段階。

 

ただ、法律に触れていないことと、株を持っている人が納得することは、まったく別の話です。

やっていいことをやっただけだとしても、あの順番を見せられた人が会社を信じられなくなるのは、たぶん止められません。


今回もまた同じことをやっているのか

ここまで並べてきた2つの話は、出来事としては別物です。

2024年のほうは、会社が自分で決めて発表したことでした。

今回のほうは、店で働いていた人がやったことです。

会社が仕組んだという材料は、いまのところ1つも出ていません。

 

それでも「またか」と言われるのは、重なっているのが出来事ではなく順番のほうだからだと思います。

なんで繰り返すの、という3行目で手が止まりました。

この人が言っている「前回」は、優待のことではありません。

以前のちいかわコラボでも、ルールを守って並んだ人が手に入れられなかった、という話のほうです。

思い出す前回が、人によっていくつもあるということ。

時系列だけを並べると、こうなります。

  • 2024年12月 優待をやめると発表 → 批判が集まる → 2か月で復活
  • 2026年9月 景品が出ないと指摘される → 3日後に不正を認めて中止 → 10%割引

先に気づくのは外の人で、会社が認めるのはそのあと。

方針はすぐに変わるのに、なぜそうしたのかの説明は出てこないまま。

そして埋め合わせだけが、いちばん早く出てきます。

優待の復活も、10%の割引も、置かれている場所は同じでした。

 

日経は2025年の4月に、あの優待騒動を「廃止の哲学欠如が本質」という見出しで書いています。

やめる理由も戻す理由も、外から見て筋が読めなかった、という意味です。

そして今回のお詫びにも、なぜ10%だったのかは書かれていません。

ですから、同じことをやったとは言えませんが、同じところを飛ばしているとは言えます

飛ばされているのは、いつも理由の説明のほう。

 

では、その同じ形をもう一度見せられた株主は、9月7日にどう動いたのでしょうか。

下げ幅が小さかったのは売る人がもういなかったから

ここまでの数字を並べると、答えらしいものが見えてきました。

Yahoo!ファイナンスの掲示板には、その銘柄をどうしたいかを投票する欄があります。

9月7日時点のくら寿司は、こうでした。

  • 強く売りたい 64.47%
  • 売りたい 6.23%
  • 様子見 12.09%
  • 買いたい 5.49%
  • 強く買いたい 11.72%

売りたい側が7割です。

それでいて、実際の下げは2.53%でした。

言っていることとやっていることが違う、という話ではありません。

もっと単純で、売りたいと思っている人の多くは、もう売る株を持っていないのだと思います。

 

投資家は1年半前に一度出ていっている

その根拠になりそうな見出しが、2025年3月の日経にありました。

優待を戻しても投資家は戻ってこなかった、と書かれています。

あのとき失望して売った人は、そのまま帰ってこなかったわけですね。

 

いっぽうで、今回いちばん怒っているのは、ちいかわのフィギュアを目当てに通っていた人たちです。

その多くは、くら寿司の株を持っていません。

怒っている人と、株を持っている人が、そもそも別の集団になってしまっているわけです。

では、株を持っていない人の怒りはどこへ出るのか。

足のほうです。

対岸のファイアー、という言い方に笑ってしまいました。

興味がないと言いながら、この人は寿司を食べたくなっています。

ただし、向かう先はスシローのほうでした。

 

怒りが小さかったから44円で済んだのではありません。

本気で怒った株主は、とっくに株を手放してしまったあと。

そして今回怒っている人たちは、そもそも株のほうを持っていません。

 

これは、会社にとって良い知らせではないと思います。

叩かれるうちが花、という言い方がありますけれど、株価が動かないというのは株主として怒ってくれる人が、もう残っていないという意味でもありますから。

 

それでも消えた44円は小さくない

くら寿司の株は、全部で8,279万9,200株あります。

1株あたり44円ですから、掛けるとおよそ36億4,000万円

この会社が2026年10月期の上半期に稼いだ利益が、18億3,500万円でした。

半年ぶんの利益の、ちょうど2倍が1日で消えた計算になります。

 

ただし、この36億円は会社の金庫から出ていったお金ではありません。

減ったのは、株を持っている人の資産のほうです。

 

そして9月11日に、くら寿司は決算を発表します。

上場企業は3か月ごとに成績を出す決まりなので、こんど出るのは7月までの数字です。

コラボが始まったのが8月21日ですから、今回のことは1行も入りません。

答えが出るのは、そのもっと先。

10月末に発表される既存店の客数を見たときに、あの2日間の10%割引で本当は何が起きていたのかがわかります。

 

9月7日の44円は、答えではなく最初の1問だったのかもしれませんね。