2026年9月6日の未明、韓国のインターネット生配信で、現役の総合格闘技選手が出演していた20代の男性の首を絞め、そのまま気絶させました。

男性は倒れるときに後頭部を床へ打ちつけています。

いまも上半身に麻痺の症状が残ったまま、入院中です。

 

映像は日本にも回ってきて、9月8日にはXで一気に広がりました。

ただ、流れてくるのは十数秒の切り抜きばかり。

誰が何をしたのか、そのあとどうなったのか。

そこが分からないまま、胸の悪い感じだけが残ってしまう。

 

そこで韓国側の報道と現地の書き込みを当たって、キム・ジュンウという選手が何をしたのか、そのあと韓国で何が起きているのかをまとめました。

韓国では加害者がどう扱われるのか、日本の法律と何が違うのかまで見ていきましょう。


9月6日未明の仁川で何が起きたのか

起きたのは2026年9月6日の午前4時ごろ。

場所は韓国・仁川(インチョン)市西区チョンラ洞にある、オフィステルの一室。

オフィステルというのは、住居としても事務所としても使える韓国の集合ビルです。

ここが「キム・ユンテ生放送」というYouTubeチャンネルのスタジオになっていました。

配信に出ていたのは、現役の総合格闘技選手キム・ジュンウ(30代)です。

相手は、一般の出演者として呼ばれていた20代の男性でした。

 

素手の組み合いが始まり、キム・ジュンウは相手の首に「ギロチンチョーク」をかけます。

相手の頭を自分の脇に抱え込んで、腕と胸で首を挟んで絞め上げる技です。

男性は手で相手の体を叩いて「まいった」の合図を出しました。

それでも技は解かれませんでした。

 

男性はそのまま意識を失います。

倒れるときに後頭部がセメントの床に当たり、鈍い音が配信に録音されていました。

気絶した男性は壁ぎわへ引きずられた

倒れた男性に対して、キム・ジュンウは両方の頬を叩きながら「ひと眠りさせてやれ」と言って笑っていました。

そのあと、ぐったりした男性の手足を持って引きずり、壁ぎわへ置いています。

同じ場にいた別の出演者だけが異変に気づいて、そばに座り、様子を見ながら脚をさすっていました。

この人はムエタイの元チャンピオンで、後頭部を打つことの意味を知っていたのでしょう。

 

配信はその直後、慌てた様子で打ち切られました。


タップしても技は解かれなかった

この件でいちばん大事なのは、ここだと思います。

格闘技では、絞め技をかけられた側が相手の体やマットを手で叩く「タップ」を出したら、かけている側はすぐに離します。

競技のルールというより、練習でも試合でも最初に教わる約束ごとなんです。

 

首を絞める技は、頸動脈を圧迫して脳へ行く血を止めるもの。

数秒で意識が飛ぶかわりに、離せばすぐ戻ります。

安全に見えるのは、離す人がいる前提だからです。

 

そして気絶した相手は、倒れるときに受け身が取れません。

後頭部が、そのまま床へ落ちます。

つまり被害は二重になっていて、絞められたことと頭を打ったことは別の話でしょう。

上半身に麻痺が出ているのは、後者のほうが疑われています。

 

技術を知っている人ほど、この点を厳しく見ていました。

「普通なら5秒以内に止めなければいけないのに、8秒以上かかっていたようだ」という指摘です。

 

タップが出たあとも絞め続けた時点で、これは格闘技ではなく暴行です。

企画がどうだったか、その場がどんな空気だったか。

そこで変わる話ではありません。


コリアン・ゾンビのZFNは即日で切り離した

ZFNというのは、「コリアン・ゾンビ」チョン・チャンソンが立ち上げた韓国の総合格闘技団体です。

UFCで長く戦って、日本でも試合の中継が流れていた選手でした。

技をかけたキム・ジュンウは、そのZFNの所属選手です。

 

韓国の暴力団組織にいた過去があり、かつては警察の管理対象にも上がっていました。

いまは管理対象から外れていて、レスリング出身の格闘家として大会に出ています。

直近の試合は2026年8月22日。

ZFNの大会に出場して、2ラウンド3分31秒でTKO負けしていました。

事件が起きたのは、その2週間後です。

韓国では選手の不祥事でジムの館長も叩かれる

ZFNの動きは、かなり速いものでした。

9月7日、公式チャンネルに上げていたキム・ジュンウのインタビュー動画と試合の映像を、まず全部非公開にします。

その数時間後、選手契約書の「品位を保つ義務」に違反したと判断したとして契約解除を発表しました。

お知らせの文面では名前を出さず、「該当選手」とだけ書かれています。

チョン・チャンソン本人も、インスタグラムの相互フォローを外しました。

 

この速さには、韓国ならではの事情があるのです。

韓国では、運動部の選手が問題を起こすと、ジムの館長やコーチ、監督までが「管理が甘かった」とセットで叩かれます。

選手ひとりの不始末で終わらせてもらえない。

つまりZFNから見ると、これは所属選手の事件であると同時に、団体の入口をどう審査していたのかを問われる話でもありました。

 

実際、韓国での批判はすでにチョン・チャンソン本人へ向かい始めていました。

手を打つのが1日遅れるたびに、それは「かばっている」と読まれます。

映像を消してから契約を切り、名前すら出さない。

あの順番は、団体を選手から引きはがすためのものでした。


殴る台本が売りだった「YTクルー」という配信

事件が起きた「キム・ユンテ生放送」は、韓国では「YTクルー」と呼ばれているグループの配信です。

キム・ユンテはこのグループの頭で、揉め事の筋書きを組んでいた本人でもあります。

韓国では、技をかけたキム・ジュンウと同じくらい、この人への批判が大きくなっています。

この配信のメインの中身が、実はいちばん引っかかるところでした。

出演者どうしの揉め事をあらかじめ台本で組んで、ぶつかり合いを演出する。

それが売りでした。

 

現地のまとめによると、幹部格のメンバーが棒や竹刀、プラスチックの椅子といったもので、一回きりの出演者を叩く「風習」が以前からあったとされています。

過去には未成年や外国人まで、この揉め事の演出に出されていたそうです。

 

スタジオの床はセメント。

そこで出演者どうしが組み合って転がったり、頬を叩き合ったりしていたわけです。

だから韓国では「起こるべくして起きた」という言い方をされています。

「結局やらかした」「あいつらは検索しないほうがいい」という書き込みです。

この配信の危うさは、前から知られていたということでしょう。

20代の男性は「絡む側」の役を振られていた

今回のことで「絡んだほうにも非があるのでは」という見方も出ています。

実際、男性はキム・ジュンウに突っかかる場面から入っていました。

ただ、それは台本で振られた役なんです。

現地の記録では、この男性はキム・ジュンウを前にして怯えた様子を隠せていなかった、とも書かれています。

そして絞められている最中に、タップを出しました。

 

役として突っかかることと、意識を失うまで絞められること。

この2つが、釣り合うでしょうか。

 

内輪のノリが人の体を壊すところまで行ってしまう。

日本でも、つい最近そういう話がありました。

元プロ野球選手が受けていた仕打ちを本人が配信で語った、羽月隆太郎の首に火傷をさせたのは誰?カープのパワハラに衝撃の件です。

あちらも「その場では笑い話だった」から始まっていました。


韓国の傷害罪は7年以下で日本より軽い

ではキム・ジュンウは、これからどうなるのか。

仁川西部警察署が、傷害の疑いで立件しました。

立件というのは、捜査の対象として正式に手続きへ乗せることです。

警察は、その場にいたほかの出演者が関わっていたかどうかも調べています。

 

技をかけたのは1人なのに、なぜ周りまで調べられるのか。

現地の怒りが、絞めた瞬間よりもそのあとの数分間へ向いているからです。

「意識がないのに119番も呼ばず、隅に置いて放置した」「周りに10人もいたのに」という書き込みです。

倒れた人を前にして、その場にいた全員が何をしていたのか。

警察が見ているのも、たぶんそこでしょう。

 

肝心の刑のほうは、韓国の刑法だと傷害罪は7年以下の懲役、10年以下の資格停止、または1000万ウォン以下の罰金

命に危険が及んだり、体が不自由になったり、治りにくい病気になった場合は「重傷害」にあたって、1年以上10年以下の懲役へ上がります。

 

ここで日本と並べてみると、ちょっと意外な差が出てくるんです。

傷害罪の上限は日本のほうが8年重い

日本の傷害罪は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。

暴行罪は、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金か科料です。

並べると、こうなります。

 

  • 傷害罪の上限 …… 韓国は懲役7年、日本は15年
  • 暴行罪の上限 …… 韓国は懲役2年、日本も2年
  • 韓国だけにある刑 …… 「資格停止」(一定の期間、公職や資格を使えなくする)

 

「韓国のほうが厳しく罰しそう」というイメージを持っている方も多いと思うのですが、傷害罪の上限だけを見ると日本の半分以下なんです。

ただし、これはあくまで法律に書かれた上限です。

実際に言い渡される刑は、どちらの国でもここまで届きません。

韓国では示談が結果を大きく動かす

もうひとつ、日本と違う仕組みがあります。

韓国の暴行罪は「反意思不罰罪」といって、被害者が処罰を望まないと言えば起訴できません

日本の暴行罪にこの仕組みはなく、被害者の気持ちとは別に起訴できます。

 

ただし今回のように傷害罪で立件された場合は、韓国でも反意思不罰罪にはあたりません。

示談が成立しても手続きは止まらず、量刑を決めるときの材料として扱われるかたちです。

それでも韓国では、この示談(합의)が実際の結末をかなり左右します。

 

事件から数時間後、キム・ジュンウが所属していたジムの代表が、知人の配信でこう説明しました。

被害者は病院で回復中で、被害者の両親と、補償と刑事告訴の範囲について話し合っている

警察の調べにも誠実に応じているし、ZFNの契約解除も受け入れる、と。

 

謝罪より先に補償の話が出てくるのは、日本の感覚だと引っかかるところかもしれません。

ただ、あの発表の中心が「話し合いの範囲」だったのは、こうした事情が背景にあります。

なお、この釈明文はAIで作られた形跡があると指摘されて、韓国ではかえって反発を招きました。


いちばん強く叩いているのは韓国の格闘技界

日本のSNSでは「韓国だから」という受け止め方も、そこそこ見かけました。

あの映像を見たあとなら、そう言いたくなる気持ちも分かります。

 

ただ、実際に何が起きているかを追いかけると、いちばん激しく叩いているのは韓国の格闘技界でした。

 

韓国の総合格闘技の第一世代にあたるユ・ウソンが、自分のチャンネルで映像を検証しています。

ギロチンチョークの危険性を説明したうえで、「明らかに殺意があったとしか見られない」と言い切りました。

そのうえで「暴力団や不良の出身者が格闘技の選手をやっていること自体が恥ずかしい」とまで話しています。

 

批判の矢は、チョン・チャンソンにも向きました。

「なぜチョン・チャンソンは入れ墨の組員を受け入れたのか」という見出しです。

契約を切っただけでは終わらせない、という空気が出ています。

 

そもそもこの事件は、韓国の掲示板にいた人たちが映像とキャプチャを共有したところから広がりました。

刺激の強い配信を普段から楽しんでいる層です。

その人たちが真っ先に「これはさすがに」と声を上げて、そこから大手の報道へ届いていきました。

 

ちなみに同じ系統の配信では、2025年8月にも刺傷事件が起きて報道されています。

今回で二度目、というのが現地の受け止め方でしょう。

 

気になっているのは、これが「切って終わり」になるのかどうか。

組織を離れた人が格闘技へ入っていく道そのものを問題にする声も出ていて、そこは団体ひとつの契約解除では片づきません。

 

配信はもう止まりました。

選手は団体から切られ、警察の捜査も動いています。

それでも、セメントの床に頭を打ったのは20代のひとりの男性で、体がどこまで戻るのかは、まだ誰にも分かりません。

続報が出たら、また追いかけたいと思います。

どうか、元の生活に戻れますように。