2026年9月7日、ザ・リッツ・カールトン日光が取材にこう答えました。

「一般常識でも法律でも撮影ができかねる脱衣所等では、撮影許可は下ろしていません」

 

板野友美さんは「特別に許可をいただいた」と説明していました。

ホテルは「その部分は許可していない」と答えました。

両方が本当ということには、なりませんよね。

この数日、「なんだか話が合わないな」と感じていた人は多かったと思います。

口に出せば叩かれそうで、言葉を選びながら書いていた人もいました。

その引っかかりは、9月7日の回答で裏づけられたことになります。

ところが、いま一番燃えているのは板野友美さんではありません。

批判した人たちへ「24時間以内に削除しろ」とDMを送った、代理人の弁護士・野嵜努(のざき・つとむ)さんのほうです。

 

そして今日になって、野嵜さんの卒業年と司法試験の年が並んだ年表が回り始めました。

空白の3年間。予備試験。登録番号。

そこへ「悲惨な経歴だ」という言葉まで乗っています。

その並びを読んでいて、私は少し手が止まりました。

 

やったことは、まちがいなく間違っています。

ただ、間違いを正すことと、経歴を数えて笑うことは、たぶん別の話です。

何をやらかして、どこから話がねじれたのか。

順番に並べたうえで、その線がどこにあるのかを書いていきます。


矛先が板野友美から代理人へ移った

ことの始まりは2026年9月3日でした。

板野友美さんがYouTubeに家族旅行の動画を公開し、その中に大浴場の脱衣所で娘さんの髪を乾かす場面が入っていました。

他のお客さんも使う場所です。

「さすがにここで回すのは」という声が上がりました。

 

板野さんはXで、誤解を招く表現だったと謝ったうえで、ホテルから特別に許可をもらっていた、撮影にも協力してもらったと説明しています。

ここで終わっていれば、よくある行き違いの話でした。

終わらなかったのは、次に起きたことのせいです。

板野さんの代理人を名乗る弁護士が、批判を書いた人たちのところへ次々とDMを送っていました。

名誉毀損。偽計業務妨害。24時間以内に削除しなければ法的手続きへ移る。

ここで空気が変わります。

それまでは「脱衣所で撮るのはどうなのか」という話でした。

DMが配られた時点で、話は「感想を書いたら訴えられるのか」に変わってしまったのです。

撮影の是非に興味がなかった人まで、こちらには反応しました。

自分も明日、同じDMを受け取る側かもしれないからです。

削除の期限は18時11分と書かれていた

DMを受け取った人のうち、何人かが中身をそのまま公開しました。

そのひとりが、期限の時刻まで書いています。

18時11分。

分単位で切ってあります。

DMを開いた時刻から24時間を数えて、そのまま書き写したのだと思います。

この方は削除せず、逆に質問を2つ返しました。

そして期限を半日過ぎても返事が来ないことまで、続けて公開しています。

 

ここで引っかかった人は多かったと思います。

弁護士が本気で削除させたいとき、ふつうはXのDMを使いません。

相手の住所が分からなくても、Xの運営へ発信者情報の開示を求める手続きがあります。

送った日付と中身が郵便局に残る、内容証明という方法も。

DMは、開いたかどうかも、届いたかどうかも、あとから証明しにくい入れ物です。

そこに24時間という期限だけを入れて送れば、受け取った側にはどう見えるか。

手続きの一歩目というより、その場で怖がらせるための一通に見えてしまいます。

 

DMはホテルを守る書き方になっていた

報道と、受け取った人たちの公開分から分かっている範囲では、DMにはこういう趣旨の一文が入っていました。

投稿は板野氏だけでなくホテル側の信用も不当に貶めるもので、両者の業務を妨害する不法行為にあたる、と。

読み返すと、少し妙なところがあります。

ホテル側を守る言い方になっているのです。

けれど9月7日、そのホテル自身が、その部分だけは許可を出していないと答えました。

守ろうとした相手から、前提を否定された形です。

DMを送った時点では、弁護士は「脱衣所を含めて許可が下りている」と信じていたことになります。

その情報を、誰から受け取っていたのか。

ここが今回のいちばん苦い部分だと、私は思っています。


「この服は葬式には無理」にも通告が届いた

削除要請が飛んだ先は、脱衣所の話だけではありませんでした。

服の感想です。

足元にフワフワの飾りが付いた黒い服を「冠婚葬祭でも着られる」と紹介した投稿に対して、買った人が「さすがに葬式でこれは無理だよ」と書いた、それだけの話でした。

商品への感想は、通販サイトの星の数にも、口コミにも、毎日ふつうに並んでいるものです。

それが名誉毀損にあたるなら、レビュー欄は今日から全部たたまなければいけなくなりますよね。

ここまで来ると、一件ずつ中身を読んで判断した形跡が見えなくなります

板野さんの名前が付いた否定的な投稿を集めて、同じ文面を配ったように見える。

実際、受け取った人たちが公開した文面は、名前の部分を除くとよく似ていました。

 

数を撃つほど、当たりどころのない相手にも当たってしまいます。

そして当たったうちの一人が、法律に詳しい人だった場合はどうなるか。

同業の人から出てきた言葉は「懲戒請求」だった

反応したのは、叩かれていた側だけではありませんでした。

懲戒請求という言葉が出てきました。

弁護士会が調査して、場合によっては業務停止や登録の取り消しまで進む手続きです。

 

別の弁護士は、警告書に「法的措置を検討します」と書くこと自体のリスクを指摘していました。

送られた側から、債務は存在しないと確認する訴えを起こされることも。

そうなると、今度は警告を出した側が、期限を切られて立証しなければならなくなる

脅す道具のつもりで置いた一行が、そのまま自分の首を絞める形になります。

相手を選ばずに撃つと、こういう相手にも届いてしまう。


野嵜努弁護士のXが9月6日に空になった

そこへ2026年9月6日、これを見ていた人が気づきます。

全部です。

削除を求めていた本人が、自分の投稿をひとつ残らず消しました。

ここを笑う声が多かったのは、正直わかります。

24時間以内に消せと迫った人が、自分から先に消えたわけですから。

ただ、消した理由は本人しか知りません。

依頼者から止められたのかもしれないし、事務所から言われたのかも。

降参なのか、体勢を立て直すためなのかも、外からは分かりません。

 

分かるのは、7年かけて積み上げたアカウントが、2日で空になったということだけです。

野嵜努弁護士のプロフィールと経歴

ここで一度、野嵜努(のざき・つとむ)さんという人の輪郭を置いておきます。

年表のほうが先に走ってしまったので、まずは出どころのはっきりした側から。

野嵜努弁護士(弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所の公式プロフィールより引用)
引用元:弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所 公式サイト「野嵜 努」(https://www.t-leo.com/lawyer/tsutomu-nozaki/

事務所の公式ページに出ているのは、このあたり。

  • 所属=東京弁護士会
  • 事務所=弁護士法人TLEO 虎ノ門法律経済事務所(東京都港区)のアソシエイト弁護士
  • 出身=千葉県
  • 学歴=明治大学法学部法律学科卒業、中央大学大学院法務研究科修了
  • 取扱=相続、不動産、労働問題、刑事事件など
  • その他=予備試験合格、元厚生労働事務官、社会保険労務士(登録済)
  • 趣味=スカイダイビング、ボルダリング、野球観戦、将棋

 

経歴として書かれているのは、この4行だけです。

  • 2015年4月 厚生労働省 千葉労働局 入職
  • 2017年4月 厚生労働省 東京労働局 出向
  • 2019年4月 厚生労働省 神奈川労働局 出向
  • 2019年11月 厚生労働省 退職

刑事事件は通算150件以上を扱っていて、一部で無罪判決を得た実績もある、と書かれています。

労働事件のほうは、労働局にいたころを活かして労使どちらの側でも。

 

「空白の3年」は公式には空白ではない

年表を読むときに、いちばん効いてくるのがここ。

Xで回っている表では、法科大学院を出たあとの数年が空白になっていました。

「28歳まで無職」という言葉も、その空白に乗っています。

ところが事務所のページには、2015年4月から2019年11月まで厚生労働省の労働局にいたと書いてあるのです。

そのうえで、予備試験合格、元厚生労働事務官、社会保険労務士。

働きながら予備試験を通って、そこから司法試験へ進んだ人の並びに見えます。

もちろん、卒業年も修了年も公式には書かれていません。

だから空白と呼ばれている年がどこを指すのかまでは、私にも確かめられませんでした。

それでも、無職と言われている期間の少なくとも一部は、公の記録があるほうへ埋まります

年表を最後まで信じる前に、事務所のページを1枚開けば済む話でした。


経歴を数える側には回りたくない

Xが消えたあと、今度はFacebookが非公開になったと報告されました。

そのすぐあとに回り始めたのが、さっきの年表です。

本人が公表したものではなく、Xでまとめられたもの。

登録番号や修了年までは、私も一次資料で確かめられていません。

 

そこへ「三振の可能性大」「本来のポテンシャル以上に頑張りすぎた」といった言葉が添えられて、拡散していきました。

 

司法試験は、受かる人のほうが少ない試験です。

遠回りして、働きながら予備試験を通って、そこから受かった。

その並びは、笑うところでしょうか。

私には、そうは読めませんでした。

 

やり方を責めるのに空白の3年は要らない

ここから先は、どこまでを責めるかの話です。

 

感想を書いただけの人に、24時間以内に消せと迫ったこと。

服のレビューにまで、法的措置をちらつかせたこと。

この2つは、どう考えても行きすぎでした。

批判されるのも、弁護士会が調べる話になるのも、仕方がないと思います。

 

ただ、やったことを責めるのに、その人の空白期間は要りません

DMの文面が無茶だったことと、20代でつまずいた3年は、何の関係もないからです。

 

そしてもうひとつ、忘れられかけていることがあります。

この弁護士は、依頼者から聞いた話をもとに動いていました。

「脱衣所を含めて許可が下りている」という前提です。

 

9月7日、その前提はホテルの回答で崩れました。

崩れた前提を渡したのは、弁護士ではありません。

 

この点を、返信欄でいちばん多く見かけた言葉として書いておきます。

「擁護する気は全くないが、経歴を侮辱される謂れはない」。

「そんなに悲惨な経歴か。司法試験にはちゃんと受かっているのに」。

 

ぜんぜん擁護していません。

やったことは間違いだと言い切ったうえで、それでも年表の使い方だけは違う、と分けている言い方です。

この分け方が、いちばん健全だと思いました。

 

そしていま名前と経歴だけが検索され続けているのは、依頼者ではなく代理人のほうです。

 

この件を疑っていた人は、何も間違っていませんでした。

ホテルの回答が、それをはっきりさせています。

 

だからこそ、勝った側から先に降りられるのだと思います。

行いは思い切り批判して、経歴の年表のほうは、そっと閉じておく。

正しかった人にしかできない終わらせ方が、たぶんそれです。