あの動画を見た瞬間、思わずスマホを握りしめてしまった方も少なくないのではないでしょうか。

2026年2月、千葉県・市川市動植物園のサル山で暮らす赤ちゃんザル「パンチくん」が、大人のサルに引きずられる映像がSNSで一気に広まりました。

再生回数はあっという間に数百万回を突破し、「助けてあげて」「飼育員さんは何をしているの」という声がネット上にあふれかえったのです。

しかし、その動画には映っていなかった「前後の文脈」がありました。

なぜパンチくんは群れの中であんな目に遭ったのか。

そもそも、お母さんザルはどこにいるのか。

飼育員さんは本当に何もしていないのか。

この記事では、パンチくんの生い立ちからいじめ疑惑の真相、そして2026年2月下旬時点での最新の成長ぶりまで、じっくりとお伝えしていきます。

パンチくんって何者?まずはプロフィールから

話題の中心にいるパンチくん、まずはこの子が一体どんなサルなのかを押さえておきましょう。

パンチくんは2025年7月26日に市川市動植物園で誕生したニホンザルの男の子です。

生まれたときの体重は、わずか500グラム。

手のひらに乗ってしまうほど小さな命だったわけですね。

名前の由来は、あの『ルパン三世』の原作者モンキー・パンチさんから取られています。

命名したのは、生後すぐからパンチくんの世話を担当してきた飼育員の宮腰峻平さんと鹿野紘佑さんのお二人です。

ただ、パンチくんの人生は生まれたその日からハードモードでした。

真夏の猛暑の中での出産で体力を消耗しきった母ザルが、赤ちゃんの世話をしなかったのです。

いわゆる「育児放棄」という事態。

翌日からは、飼育員さんたちによる人工哺育がスタートしました。

生まれた直後から母親のぬくもりを知らない——その事実だけで、なんだか胸がキュッとなりませんか。

「オランママ」誕生秘話——なぜぬいぐるみが相棒になったのか

パンチくんといえば、あのオランウータンのぬいぐるみ。

SNSで拡散された写真や動画を見て、「なんであのぬいぐるみを持ち歩いてるの?」と不思議に思った方も多いはずです。

実は、これには動物の成長に関わるとても切実な理由があります。

ニホンザルの赤ちゃんは本来、生まれてすぐに母親の体毛にしがみつきます。

そうやって安心感を得ながら、同時に筋力もつけていくのが自然な育ち方なのです。

でもパンチくんには、しがみつく相手がどこにもいなかった。

飼育員さんたちは代わりになるものをいくつも試したそうです。

筒状にしたタオル、さまざまな動物のぬいぐるみ——その中でパンチくんが一番気に入ったのが、IKEA製のオランウータンのぬいぐるみだったのです。

飼育員の鹿野さんによると、「毛があってつかみやすく、見た目もサルに似ているので安心感があったのでは」とのこと。

パンチくんはこのぬいぐるみと一緒に眠り、じゃれ合い、なんと毛づくろいまでしてあげていたというのですから驚きです。

ファンの間では「オランママ」の愛称で親しまれ、今やパンチくんの代名詞のような存在になっています。

ちなみに2月17日には、その話題を知ったイケア・ジャパンのペトラ・ファーレ社長が動物園を訪問し、ぬいぐるみ33体を寄贈するという粋な計らいもありました。

企業のトップが自ら足を運ぶほどの影響力——正直、これには驚かされました。

サル山デビューはいつ?群れに戻るまでの道のり

人工哺育で順調に育ったパンチくんですが、いつまでも人間のそばだけで暮らすわけにはいきません。

飼育員さんたちは「いずれサル山にスムーズに入っていけるように」と、なるべく他のサルのにおいや鳴き声が聞こえる場所で育てていたそうです。

少しずつサル山で過ごす時間を増やし、環境変化に慣らしていく地道な日々。

そしてついに2026年1月19日、パンチくんは本格的に群れへ合流しました。

生後約6ヶ月というタイミングです。

オランママをぎゅっと抱えたまま、50頭から100頭が暮らすサル山の世界に飛び込んでいったのです。

当初は周りのサルに警戒され、近づいても威嚇される日が続いたといいます。

そんな不安いっぱいの姿を来園者がSNSに投稿したところ、瞬く間に拡散。

2月5日に動物園の公式Xが初めてパンチくんを紹介すると、8,000件以上のリポストを記録しました。

「#がんばれパンチ」のハッシュタグが生まれたのも、まさにこのころです。

あの「引きずり動画」で何が起きていたのか

パンチくんブームが一気に加速する一方で、2月19日に投稿されたある動画がネット上を激震させます。

サル山の中で、パンチくんが大人のサルに地面を引きずられている——そんな衝撃的な映像です。

動画には「先輩ザルの厳しい洗礼を受けるパンチくんが可哀想すぎる」というコメントが添えられ、国内外で数百万回も再生されました。

コメント欄には「見ていられない」「なぜ止めないの」という悲鳴のような声が殺到。

海外ユーザーからは「買い取りたい」という申し出まで届いたそうです。

勢いあまって「いしかわ動物園」に問い合わせが殺到するという珍事件まで発生しています。

石川県の動物園が「うちではありません」と注意喚起する事態——笑いごとのようで、騒動のスケールの大きさを物語っていますよね。

切り取られた数秒間のワナ

ただし、ここで知っておくべき重要な事実があります。

爆発的に拡散したあの動画は、実は前後の流れが切り取られた映像だったのです。

フルバージョンを確認すると、引きずられる前にパンチくんが群れの子ザルに近づき、マウント行為(上に乗りかかる行動)をしていたことがわかります。

つまり、パンチくんの側にも「やりすぎ」があったということ。

その直後に、子ザルの母親と見られる大人のサルが割って入り、パンチくんを引き離した——そういう流れだったのです。

数秒間だけを切り出して、感情を込めたコメントとともに拡散される。

これはまさにSNS時代のお決まりのパターンと言えるかもしれません。

情報の「一部分だけ」を見て全体を判断してしまう危うさ、私たちも覚えておきたいところです。

 

動物園が出した異例の声明

事態を受けて翌2月20日、市川市動植物園は公式Xで飼育担当者による声明を発表しました。

動物園がSNS上で個別の動画について詳細な説明を行うのは、かなり異例なことです。

声明の要点をまとめると、こうなります。

パンチくんが他の子ザルに近づいてコミュニケーションを取ろうとしたところ、子ザルが嫌がって逃げた。

その後、子ザルの母親がパンチくんに対して「嫌なことをするな」と制止した——これが引きずりの正体だったと。

さらに「本気で攻撃しようとするサルはいない」「パンチは怒られながらもメンタルの強さを持ち合わせている」と説明しています。

そして、こう締めくくりました。

「ただかわいそうと思うのではなく、頑張りを応援してほしい」。

この言葉、なんだか胸にグッと刺さりませんか。

「いじめ」ではない?猿社会の掟を知ると見え方が変わる

とはいえ、「いくら説明されても、あの映像を見たらかわいそうに思うのが普通でしょ」——そう感じる方の気持ちはよくわかります。

ただ、サルの世界には人間の常識では測れない独自のルールが存在しているのです。

ここからは、パンチくんが群れの中で厳しい扱いを受ける背景について、少し深く掘り下げてみましょう。

サルの世界の「暗黙のマナー」を学んでいない

ニホンザルの赤ちゃんは普通、母親のお腹にしがみつきながら育つ中で、群れの距離感やボディランゲージを自然に覚えていきます。

「この表情をされたら近づいちゃダメ」「この行動をしたら怒られる」——そんな暗黙の掟を、体験を通じて身につけていくわけですね。

ところがパンチくんは、その学習機会がまるごと抜け落ちた状態でサル山にやってきました。

京都大学の霊長類研究でも指摘されているように、人工哺育で育ったニホンザルは「社会的ナイーブ」な状態になりやすいとされています。

衝動的に他のサルに近づいたり、距離感がわからずぐいぐい接触しようとしたりする傾向があるそうです。

パンチくんに悪気はまったくありません。

でも群れの側からすれば、「この子、なんでルール知らないの?」となってしまうのでしょう。

叱られる場面が増えるのは、ある意味で避けられない事態だったのです。

母親ザルの「子守り本能」が発動した

問題になった動画の状況を丁寧に見ていくと、パンチくんが群れの子ザルに近づこうとして、その子が嫌がり、直後に子ザルの母親が介入してきた——という流れが見えてきます。

ニホンザルの母親は我が子を守る本能がとても強く、他の個体が子どもに近づくと即座に反応します。

生物学的にはこれを「アゴニスティック行動」と呼び、群れ全体の秩序を保つためにとても大切な役割を担っているのです。

たとえば公園で、見知らぬ子どもが我が子にぐいぐい迫ってきたら、つい割って入りたくなりますよね。

あれとよく似た感覚だと思っていただければイメージしやすいかもしれません。

感情的に怒っているというより、「うちの子にそれはやめてね」という明確な意思表示

引きずった後にパンチくんがケガをしていないこと、その後すぐに普通の行動に戻っていたことも、本気の攻撃ではなかった証拠と言えるでしょう。

 

「オランママ」が距離感を遠ざけてしまう一面も

パンチくんのトレードマークであるオランウータンのぬいぐるみ。

私たち人間から見ると愛らしいのですが、群れのサルたちにとっては完全に「謎の異物」です。

ニホンザルは見慣れないものに対して、好奇心と警戒心が同時に湧く生き物。

ぬいぐるみを抱えたパンチくんは、群れの中で言ってみれば「ちょっと変わった子」に見えている可能性があります。

福山大学の専門家も、こうした人工物への依存が社会的な統合を遅らせる要因になりうると指摘しているのです。

「ぬいぐるみがあるから安心できる」のに、「ぬいぐるみがあるから馴染みにくい」——パンチくんが抱えているのは、そんな切ないジレンマ。

このあたり、人間の子育てにも通じるものがあると感じるのは、私だけではないはずです。

群れに戻れば必ず通る「入学試験」

ニホンザルの社会では、新しく入ってきた個体は例外なく序列の一番下からスタートします。

叱られたり、押さえつけられたりしながら、「してはいけないこと」を体で覚えていく。

これはいわば、猿社会への入学試験のようなものです。

ニホンザルの群れの再統合に関する研究でも、こうした押さえつけや引きずりは「虐待」ではなく、社会化の一過程であると結論付けられています。

一見つらそうに見えますが、この経験を積まずに育ったサルは、成獣になってから孤立し、生存率が大きく低下すると言われているのです。

つまり、今のうちに「洗礼」を受けることが、将来のパンチくんの命を守ることにもつながっている。

動物園も声明の中で「覚悟していた出来事」と表現しており、この事態をある程度予測したうえで群れへの合流を決断していたことがうかがえます。

長い目で見たとき、本当に「かわいそう」なのはどちらの未来なのか——考えさせられますよね。

「なぜ助けないの?」飼育員さんの覚悟と見守りの哲学

パンチくんが叱られるたびに上がる声、それが「どうして飼育員さんは助けに行かないの?」という疑問です。

これはもう、パンチくんファンの間で最も多く聞かれる問いかけと言っても過言ではないでしょう。

でも、飼育員さんたちは何もしていないわけではありません。

むしろ、誰よりもパンチくんのことを見ています。

毎日の観察はもちろん、エサの時間に異変がないかのチェックも欠かさない。

ケガをしたり、本気の攻撃が加わったりする危険な状況であれば、すぐに保護できる体制は常に整っているそうです。

それでもあえて介入しないのは、動物福祉(ズーアニマルウェルフェア)の考え方に基づいた判断だからです。

人間の感情に従って安易に助けることが、パンチくんの成長を阻み、将来的に群れの中で孤立するリスクを高めてしまう。

飼育員の鹿野さんは、こうコメントしています。

「1月にサル山に戻した当初は、仲間に怒られて逃げ出したり、周りに騒ぐサルがいると不安を感じたりして落ち着かない様子でした。何かあるたびにぬいぐるみのもとに逃げ帰ってきて、抱きついていました。私と宮腰さんも2人で、いつでも対応できるように近くで見守っていましたね」

「まさに母親の心境」——そんな飼育員さんたちの想いが伝わってくる証言です。

助けたい気持ちをぐっとこらえて見守ること。

それが、パンチくんに「猿として生きる力」をつけてもらうための、プロフェッショナルの選択なのです。

母ザルはどこに?育児放棄の背景にあるもの

「そもそも、お母さんはなぜパンチくんを育てなかったの?」——これも多くの方が抱く素朴な疑問ですよね。

パンチくんの母親は、実は今も同じサル山の群れの中にいます

ただし、市川市動植物園は母親の個体名や特定できる情報を一切公開していません。

特定されることで、その個体へのストレスが増したり、群れ全体のバランスが崩れたりするリスクがあるためです。

「どのサルがお母さんなんだろう」と気になる方も多いと思いますが、ここはそっとしておくのが正解のようです。

「育てたくなかった」わけではない

育児放棄と聞くと、どうしても「冷たい母親」というイメージを持ちがちです。

でも、パンチくんのケースは少し事情が異なります。

母ザルにとって初めての出産だったこと、そして真夏の酷暑で体力が著しく消耗していたこと——この二つの要因が重なった結果だと考えられています。

ニホンザルの野生集団でも、母親の体調不良や過剰なストレスが引き金となって育児放棄が起きることは、一定の割合で確認されているのです。

つまり、「育てたくなかったのではなく、育てられる状態ではなかった」という解釈が適切でしょう。

人間でいえば、出産直後に体調を崩して赤ちゃんのお世話ができなくなる——それに近い状況だったのかもしれません。

母親を責めるのではなく、その背景にある事情にも目を向けたいところです。

母と子はもう他人?

現在、母親とパンチくんは同じ群れで暮らしていますが、親子らしい交流は限定的とのこと。

育児放棄から時間が経つと、サルの母子の絆は薄れやすいと言われています。

ニホンザルは基本的ににおいや行動で親子を識別しますが、放棄後は互いに「群れの中の1頭」として認識している可能性が高いのだそうです。

切ない話ですが、これもまたサルの世界のリアルなのでしょう。

ただ、パンチくんが完全に孤独かというと、そうでもないのがちょっとした救いです。

群れの中には「アロマザリング」(母親以外のメスが子育てを手伝う行動)を示す個体もいて、パンチくんの近くで見守るような大人ザルの存在も確認されています。

ファンの間で「ボディガード」と呼ばれているサルですね。

大きな音にパンチくんが怯えたとき、すぐに寄り添って抱きしめるような姿も目撃されているそうです。

血のつながりだけが家族じゃない——パンチくんの周りでは、そんな温かい光景が生まれています。

2月下旬のパンチくん——驚くほど前進する日々

ここからは、2026年2月24日時点での最新情報をお届けします。

結論から言うと、パンチくん、かなり前に進んでいます

飼育員さんからの公式コメントによると、夕暮れ時に2頭のサルから念入りに毛づくろいされている姿が確認されたとのこと。

「静かな環境のおかげでケンカなし。着実になじんでいる」という嬉しい報告が出ています。

エサの時間には飼育員さんの肩に乗ったり、抱っこされたりして甘える場面も。

ネット上では「反則級のかわいさ」と大騒ぎになっている状況です。

オランママとの距離にも変化が

注目すべきは、ぬいぐるみとの関係性にも変化が見られることです。

オランママを置いて、群れの仲間と遊ぶ時間が少しずつ増えてきています。

追いかけっこに巻き込まれてもすぐに立ち直り、ぬいぐるみのところに戻って安心したら、また群れに挑戦する——その繰り返しが定着しつつあるそうです。

飼育員さんも「いつかぬいぐるみを取ろうと思っているが、パンチのペースで」と語っています。

「依存は弱さじゃない。心のよりどころがあってこそ、勇気を出して踏み出せる」——パンチくんの姿は、私たち人間にも大切なことを教えてくれている気がします。

来園者は過去最大級の賑わい

パンチくんフィーバーの影響は、動物園の入場者数にもはっきり表れています。

2月22日(三連休の中日)には来園者が6,000人超を記録しました。

週末トータルでは8,000人に迫る勢いだったそうです。

平日でも開園前から行列ができ、駐車場は満車、入場制限がかかることも珍しくありません。

動物園は2月23日に「緊急のお知らせ」を出して、「できるだけ平日のご来園をお願いします」と異例の呼びかけを行っています。

元々は「動物とのふれあい」をテーマにした小さくてのんびりした動物園。

たった1頭の子ザルがもたらした変化のすさまじさ、改めて感じずにはいられません。

海外でも大反響——BBCが報じ、世界中から声援が殺到

パンチくんの話題は、日本国内にとどまっていません。

イギリスのBBCをはじめ、海外メディアでも相次いで取り上げられました。

英語圏のSNSでは「You can do it, Punch!」という応援メッセージが飛び交い、「拒絶と受容の物語」として移民や孤児の境遇に重ねる声まで上がっています。

国境を超えた共感の広がり——小さなサル1頭が世界を動かしているのは、冷静に考えるとすごいことですよね。

LinkedInでは「パンチくんから学んだリーダーシップ」なんて投稿まで登場して、さすがにちょっと笑ってしまいましたが、それだけ人の心を揺さぶっているということなのでしょう。

要注意!SNSに出回る「フェイク動画」の存在

パンチくんの話題がこれだけ大きくなると、残念ながらそこに便乗する動きも出てきます。

現在SNS上では、パンチくんに関するフェイク動画やデマ情報が出回っているとの報告が相次いでいるのです。

たとえば、別の動物園のサルの映像をパンチくんだと偽って投稿するケース。

別の動物園のサルの映像をパンチくんだと偽って投稿するケース

あるいは、古い映像に最新のキャプションをつけて「今日のパンチくん」として拡散するケース。

さらに近年は、AI技術を使ったディープフェイクの精度が飛躍的に向上しており、本物そっくりの偽映像を誰でも簡単に作れる時代になっています。

実際、日経新聞の報道によれば、日本国内で確認されたディープフェイクは前年比で28倍にも急増しているそうです。

パンチくんのようにSNSでバズった話題は、こうしたフェイクの格好のターゲットになりやすいのが現実。

「バズ狙い」で衝撃的な切り取り動画を投稿するアカウントも後を絶ちません。

では、私たちはどうやって本物と偽物を見分ければいいのでしょうか。

ポイントはシンプルです。

まず、情報の発信元を必ず確認すること

市川市動植物園の公式Xアカウント(@ichikawa_zoo)や公式サイトが、一次情報の最も信頼できる窓口になります。

次に、感情をあおるような過激なキャプションがついた動画には、一歩引いて冷静になること。

「拡散希望」「緊急」「閲覧注意」といった煽り文句は、偽情報拡散の典型的なパターンです。

そして、一つの動画だけで判断せず、複数の情報源を照らし合わせること

パンチくんを本気で応援したいのであれば、デマの拡散に加担しないことが、実は一番大切な「見守り」なのかもしれません。

善意のリポストが、知らないうちに偽情報を広めてしまう——そんな事態だけは避けたいものです。

「かわいそう」は間違い?私たちがパンチくんに感じる感情の正体

パンチくんの動画を見て「涙が出てくる」「胸が痛い」という方、本当に多いですよね。

その感情の根っこにあるもの、少し立ち止まって考えてみたいのです。

ぬいぐるみを必死に抱える姿。

叱られてぬいぐるみに逃げ込む姿。

群れになかなか馴染めず、ぽつんとしている姿。

これらは全部、「孤独な子ども」のイメージと重なるのです。

お母さんのぬくもりを知らない子、いじめられっ子、必死に頑張っても報われない子——パンチくんに自分の幼少期や、身近な弱い立場の人を投影してしまう。

だからこそ、あんなに心を打たれるのでしょう。

ネット上では「自分も親に甘えられなかった子ども時代を思い出した」「トラウマ持ちの子どもが何度も立ち上がる姿に重なる」といった声がたくさん上がっています。

パンチくんは、私たちにとっての「投影の鏡」になっているのかもしれません。

「かわいそう」の向こう側にあるもの

ただ、ここでひとつだけ立ち止まりたいことがあります。

猿の世界に人間の価値観をそっくりそのまま当てはめてしまうと、見えるものが歪んでしまう可能性があるということ。

パンチくんにとっての「幸せ」は、私たちが思い描く形とは違うかもしれないのです。

群れの中で叱られることは、サルにとっては社会のルールを学ぶ大事なプロセスです。

飼育員さんや専門家が「見守ること」を選んでいるのも、その理解のうえでの判断なのでしょう。

もちろん、「それでもかわいそうだと思ってしまう」という気持ちを否定する必要はまったくありません。

むしろ、その感情こそが純粋な愛情の表れです。

大切なのは、動画の一瞬だけで全てを判断しないこと。

パンチくんが日々成長していく過程を、長い目で見守ることが、きっと一番の応援になるはずです。

来園者のマナーがパンチくんを救っている

ここで触れておきたいのが、来園者のマナーの話題です。

動物園は三連休に向けて「パンチ飼育員からのお願い」を発信しました。

観覧エリアの一部に立入禁止ゾーンを設け、静かに観覧すること、長時間の占有を控えて後ろの人に譲ること、脚立や三脚を使わないこと——こうしたルールが呼びかけられたのです。

そして、これが実際にしっかり守られているのがすごいところ。

飼育員さんは「皆さん本当にマナー良く観覧いただき感謝です!」と公式にコメントしています。

来園者が静かにルールを守ることで、サル山の環境が穏やかに保たれ、パンチくんの社会化がスムーズに進む。

実はこの「静かな応援」こそが、パンチくんの成長を一番後押ししているのかもしれません。

SNSで応援するのも素晴らしいですが、現地で静かに見守る人たちの存在も、同じくらい尊いものだと感じます。

パンチくんが私たちに教えてくれること

生まれてすぐに母親と離れ、ぬいぐるみだけを頼りに猿の社会に飛び込んだパンチくん。

叱られても、追いかけられても、何度でも立ち上がって群れの輪に近づいていく姿。

怖くなったらオランママに戻って、安心したらまた挑戦する——その繰り返しです。

まだ生後7ヶ月の、言葉も話せない小さな命が、世界中に「頑張ろう」という気持ちを届けている。

考えてみれば、これはとんでもないことではないでしょうか。

パンチくんの物語から、私たちはたくさんのことを受け取っています。

心の拠り所があることは、決して弱さなんかじゃない。

厳しさの中にこそ、優しさが隠れていること。

すぐに助けることだけが愛情ではないこと。

そして、小さな挑戦の積み重ねが、やがて大きな成長につながること。

いつか、パンチくんが群れにすっかり溶け込んで、サル山のどこにいるかもわからなくなる日が来るかもしれません。

それこそが最高のハッピーエンドです。

その日までがんばれパンチと見守っていきましょう。

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